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498/568

498 勇者は魔王城から故郷までお姫様を抱えて帰る事が出来るらしい

 物語とかで、大きな穴に飛び込んで下の階に行くシーンってあるよね。

 でもあれって、気球からの受け身やら落ちる訓練をしてないと結構難しい事だと思うんだ。

 あ、いや。

 ボクは大丈夫なんだけどさ、飛び降りれないのが三人居てね。

 そういう人は、降りられる人が連れていく事にした訳だ。


「ざっけんな!なんで私がお前なんかに!」

「……少し、屈辱的な状況ではある」


 グリーン女史とアズマ。

 それぞれエミリー先生とアセナによって運ばれる準備の真っ最中なのだ。

 グリーン女史は叫ぶ。


「そもそも、どうしてお姫様抱っこなのよ!」


 膝を曲げて腰を支えられて、ドキリとしるような顔のアングル。

 なんともロマンチックな姿勢でこれから跳ぶ。

 ドレスをパワードスーツ形態にしているエミリー先生は、冷静な顔で口をパクパクと動かした。


「え~っとね、これは体重を吸収する腕がサスペンションとなり、運ばれる者の衝撃を軽くするんだね」

「でもそれって、純粋な腕力で支えるって事よね……。

一室の高さを……なんか高いし3メートルとして、49×9.8×3=1440.6!

重量挙げ選手のバーベルがアンタの腕に掛かるって事よ!?折れるわよ!」

「あはは、体重49キロかあ。思ったより痩せているね」

「ムキ~!平均じゃない!ていうか、心配して言ってやっているのになんなのその態度!」

「まあ、見てなさいって」


 そう言ってエミリー先生は飛び降りた。

 まるで演劇の如く華麗なポーズである。

 彼女はそういう『無駄な仕草』というのが大好きな人間なのだ。


 そして当たり前の様にフワリと着陸。

 一方でグリーン女史はスイッチでも入ったかのように、無言になる。

 顔も固定されたままだ。

 一拍置いて、再び動き出した。

 驚き過ぎて思考がフリーズしていたという事だな。


「……っぶな!

なに突然飛んでるんだ!」

「あっはっは、こういうのは突然の方が丁度いいってものさ。それにほら、パワードスーツモードになっているし」

「いやいやいや、そこまでの効果とは思わんって!」


 そういえばグリーン女史はパワードスーツの効果を良く知らない人か。

 人をお姫様だっこで持ち上げる程の筋力補助は想像出来ても、落ちても支え切れる程とは思わなかったらしい。

 ドラゴンの体重を支えたところとか見せたら物凄い驚くんだろうなあ。


 グリーン女史の言及もなんのその。

 エミリー先生はクルリとボクの方に向き、楽しそうに話しかける。


「さ、アダマス君!次は君の番だよ。はやく降りてきたまえ」

「は、はいっ!」


 ボクはシャルを抱っこした状態で返事する。

 しかしシャルは、珍しくジト目で見ていた。

 言う時は言う子なのだ。


「妾だけお姫様だっこじゃない……と、いうのは良いとしてじゃの。

ぶっちゃけお兄様、流石にこれは無理じゃないかの」

「ああ、普通にやったらね。だから、下を見て欲しい」

「ふむむ」


 下を見れば、エミリー先生が液体金属をシーツの様に広げて、ボク達を待ち受けていた。

 端が金属の吸着作用で壁にくっついて固定されていた。

 火災時とか曲者が現れた時とかで、上の階から脱出する用のアレだな。

 数年前は、アセナがエミリー先生と一緒に悪徳貴族の館から脱出する際も使った手段だ。


「ボクがシャルを抱き締めながら、あそこに飛び込む。

ボクの身体がクッションになるから安全さ」


 お姫様だっこじゃないのはこういう理由だね。

 正直に言えばヨーヨーの鎖をロープの様にしても降りられるのだが、これだと上の階に固定した所に切り裂きジャックの妨害が来そうなのがちょっと危ない。


 『ちょっと』危ないらしい。

 後ろをチラ見してみよう。


『ウハハハハ!弱ェ!弱すぎるなあ!それで怪物名乗ってるつもりかぁ!?

この都市伝説の面汚しがあ!ドブ水で顔を洗って出直しやがれ』


 ジョナサンが手を振ると、散弾のような鱗が飛んだ。

 別名鱗手裏剣。硬質化したそれは、投げナイフと同意義だ。

 逃げ場のない攻撃が虫の群れを一網打尽にした。

 虫といえども人体を形成する都合上、大型の物なのでショットガンみたいな攻撃でも有効という事だな。


 流石ヒーローだ。

 なんかフラグっぽい敵の引き付け方をしている割に無双している。

 とはいえ全滅させて一緒に行こう。と、いう展開にもならない。


 と、言うのも『増援』がひっきりなしに来るのだ。

 部屋に作られた様々な穴から、次々と虫がやってきて切り裂きジャックが補充されるのである。

 スタミナが削られている状況でもあるのだ。

 尤もジョナサンはこのペースで飲まず食わず一週間は戦えるらしいので、要らない心配であるが。

 流石人外だね。


 更に言えば、この状況はチャンスでもあった。

 何故なら無限湧きするという事は、この近くに『虫が沢山居る場所』があるという事でもあるのだから。

 寧ろ『巣』といっても良いだろう。


 エミリー先生とグリーン女史が呑気におしゃべりしていたのもその為だ。

 あの時イオリを連れ去った切り裂きジャックは、逃げる事は出来ない。

 『此処』を潰されたら終わりなのだから。


 やっと見つけたよ。

 『裏組織』の秘密基地を。

 子供の遊びじゃなくて、本当の意味での秘密基地である。


「さて、シャル。

準備は良いかな?それとも個別に降りるかい?」

「いやいや、一緒が良いのじゃ!」

「ほい来た」


 ボクは穴に向かって勢いよく飛び降りるのだった。

読んで頂きありがとう御座います。


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