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49 いじめっ子に立ち向かういじめられっ子

 相手は倒れているが追い打ちはしない。

 別に下手な騎士道精神なんかではない。どんな騙し討ちがあるか分かったものではないからだ。

 逆に正々堂々何も用意していないなら店番にしたあの熟練の動きからして、直ぐに起き上がって来る筈である。


 ていうか読心術が何かを隠している小狡さを見逃していない。


 そして向こうは中々の使い手のようだが、ボクにだってハンナさん直伝の武術があった。

 半身になったボクは左手を軽く開き、視線程度の高さから前へ伸ばす。もう片手は中段、腹の方へカウンター用に持っていく。

 そして脚を片方前に突き出して何時でも飛び込めるようにすれば構えの完成だ。


 攻めねば突き出した手で突撃されるかも知れない。

 されど迂闊に迫れば小柄な体格によって懐へ潜り込まれ、その爆発力に手痛い反撃を喰らうかも知れない。

 ダメージを印象付ける一撃は先程不意打ちで見せてある。


 こういった狭い場所では、ボクみたいなのがジリジリ迫れば迫るほど優位になれるのだ。

 ……さて。


─────立てよ、本当の痛みを教えてやる。


 そう言おうとした時の事だった。

 後ろから高い声がしたのだ。


「お兄様……」


 シャルの声だ。

 しかしボクは、視線を相手から離さず振り向かずに聞くだけに留める。

 それでも口くらいは聞ける。


「シャル。危ないよ」

「その前に、アイツに聞きたい事があるのじゃ」

「……大丈夫かい?」


 シャルにとって目の前の女は思い出すだけでもトラウマがある筈だ。

 事実、ボクに何かを伝えようとした時も声が中々出ない様子だった。

 彼女は震える声で、それでも言った。


「平気じゃ!と、いうよりここは妾が戦うべきなんじゃと思う。

……折角戦ってくれているお兄様には物凄く悪いと思っているのじゃがの」


 声色だけでも、空気の揺れだけでも解る玉を思わせる綺麗な決意の色。

 ボクは頬を緩ませて教育係のメイドの間に構えを解かないまま、シャルを護るように立ち塞がる。


「それじゃあ、これくらいはやらせておくれ。一緒に戦いたいんだ」

「ああっ!有難う、お兄様!」


 言って彼女は前に出る。移置はボクの横。

 ピリピリと精一杯強がっているのが感じ取れた。


「……まあ、あれじゃ。

先ずはなんで貴様が此処におるんじゃ?世話をする対象の妾が居ないなら自動的にミュール辺境伯領に戻る筈じゃろ」


 すると教育係のメイドは歪んだ笑みを浮かべて身体を立たせる。

 その際にさりげなく握っていた手から砂を地面に落としたのが見えた。やっぱり隠していたか。

 ネジなんかの細かい鉄屑なんかも混ざって中々威力が高そうだったな。


「ウフ……ウフフ……。

シャルロット様、私としては貴女が何故こんな路地裏に居るか聞きたい事でもあるのですが、まあいいでしょう。一言で言うなら、次の職場の下見ですわ。

我が主は、王国でも上位の貴族であるラッキーダスト侯爵殿と深い親交を深めたがっていましたわ。

その折にシャルロット様、貴女が猶子に入るという話が入りました」


 そうだな。

 父上が『面白そうだった』って事で理由らしい理由もなくって事で引き取ったんだっけな。


「そこから考えられるのは、侯爵も我が主と親交を深めたがっているという事です。

技術面でフランケンシュタイン家と拮抗しているので貴女を猶子とする利点はあまりありません。

しかし、貴女を引き取る事で今までお世話させて頂いた私らミュール家のメイド達を自然に引き入れる事が出来るのです」


 なるほど。客観的に見ればそれもありか。

 どうしても我がラッキーダスト家の武官としての実力は弱く見られがちだ。

 『泰平の世だからどうにかなっている、経済力と血筋ばかりの貴族』とよく思われる。

 その背景には侯爵ともなれば攻め落とされないよう『城』に住むのが普通だというのに、雅な『館』に住んでいるのもあった。

 なので武力を欲しがっていると思うのは当然だ。実はボクだってこの問題を父上がどのように解決しているか分からない。


 でもね、それは余りにもオルゴート・フォン・ラッキーダストという大馬鹿者を知らなすぎる考えだよ。


「シャルロット様。

だからそんな所で縮こまらずに、此方へいらして下さいな。仲良くやりましょうよ。

……私は、貴女を本当の娘のように思っているのですよ?」


─────ゾワリ


 背筋が凍った。

 余りにも白々し過ぎて、図々しくて、あれだけの事をやっておいて何が本当の娘だ。

 それはシャルも同じようで、一気に叫んでいた。


「嫌に決まっておるじゃろうが!

何が悲しゅうて、あの生活に戻らねばならんのじゃ。そんなの破棄じゃ、破棄!」

「駄々を捏ねないで下さいませ。既に侯爵様へのお手紙は出させて頂きました。

私は近い内に貴女の専属メイドとなるでしょう。それは覆しようのない事ですわ」

「五月蠅い!そんな面白くない事、妾には知った事ではないわ!」


 そうとも。それはあまりにも『面白くない』。

 父上は馬鹿だが頭は良い。シャルについての前知識なんて当たり前のように頭へ入れているだろう。


 だから、ボクは敢えてこう言おう。


「そこまでだ」

「あら、付き人風情が何の用かしら。今、大きなお話をしているんだから邪魔しないでくれる?」

「付き人じゃない。

ボクはシャルの兄……兄が妹を護るのは当然の事だよ、クソババア」

読んで頂きありがとう御座います

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― 新着の感想 ―
[一言] 折角頑張ってお兄ちゃんをしていたのに、それをぶち壊されて私は怒りました。大切ななのじゃっ娘を虐める輩はお兄様のフルスイングパンチと適当なビームで倒しちゃって下さい(`・ω・´)ゞ でもきっ…
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