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486 オリオン錬金術士チームとの再会

 ドアノブを握ったシャルは深呼吸。

 一息飲み込み、実父と対峙した時のイメージトレーニングで少し時間を置く。

 ノックした方が良かったかも。

 そう思うのは後の話。


 彼女は一気に扉を開き、討ち入りよろしく思い切り叫んで突入したのだった。


「うりゃりゃりゃりゃ~~~!クソ親父、妾が来てやったの……じゃ……?」


 しかし声は段々と萎まっていった。

 『たまたま』目の前に居た人物と顔を合わせて目をアーモンド形の見開き、そして止まっていく。

 こういうのって人違いだとすごく恥ずかしかったりするよね。

 

 シャルと目を合わせているのは、コメディで見るようなグルグル眼鏡。

 二つに結んだピンクの髪、長命種(エルフ)の特徴である尖った耳。

 子供のように小さく細い体躯は、大きな白衣をズルズルと引きずっていた。


 シャルの実父ではなく、その上司とエンカウントしてしまったようである。

 【ピーたん】博士。

 半魚人とドラゴンの品種改良研究を代表とした、遺伝学の権威である。

 本名アンピトリテ・レオンハートだが、長いのでそう呼ぶ人は滅多に居ない。

 この領地の歴史より長い彼女は、見た目通りに声変わりのしていない声で落ち着いて返す。


「お、おう。元気過ぎるようでなにより」

「……ギ」

「ギ?」

「ギャアアアア~~~!」


 顔を耳まで真っ赤にしたシャルは、自分がのじゃっ娘キャラである事も忘れて床をゴロゴロと転がり回った。

 そんな激流に身を任せて同化する彼女に対し、ピーたんはどうした物かと考えるようであった。

 ギャグみたいな見た目だし、実際普段はネタキャラを演じているピーたんであるが、あくまで世俗に馴染む為のキャラ作りに過ぎないので素の対応はそんなものだ。

 高学歴のお笑い芸人みたいなものだね。


 と、そこへ薬品棚の影からヌッと出て来る人影がひとつ。

 今度こそ実父か。

 そこから出てきたのは、長い白髪と大きな体躯。

 年齢として30はいってそうだが、やや若い感じがする。

 ここまでは条件が揃っているもの、白い肌とエルフな耳。

 そして『車椅子』に乘っているのは似ても似つかない特徴であった。


 彼は【ジョナサン・レオンハート】。

 ピーたんの夫である。

 彼はシャルを一瞥した後にピーたんをジッと見た。


「……」

「ああ、バルザックの子だ。会いに来たらしい」

「……」

「子供が親に会いに来てくれるのは喜ばしい事だって?そりゃそうだ」


 そんな一人芝居の様な『やりとり』をして、ピーたんは此方を見る。


「あ~……まだジョナサン、声帯が上手く使えなくってね。

波長の合う私が魔力波で会話しているんだ」


 現在ジョナサンは色々あって、半魚人とエルフの特徴を持った新生命体としてピーたんと同じ時間を生きている。

 しかしその過程で色々あって、元は人間だったのが、なんか150年近くの時間を半魚人として海の中で暮らす事になった過去がある。

 そのせいか『人間』としての動きにまだ慣れていないのだ。

 今の見た目はエルフだが、本気になれば獣人より強力な肉体の半魚人になれる彼だけど、車椅子なのはそのせいだな。

 上手く歩けないのだ。

 『色々あって』が多いけれど、ここまで複雑ならきっと許される筈。


 すると、ボクの頭に直接語り掛ける声がした。

 キンとするね。


『あ~、迷惑かけてすまんな。

今みたく広域に魔力波を広げて普通の声を模す事も出来なくはないんだが、これって実は『魔術』に分類されるから結構疲れてなあ。

海に住んでいた時は気軽にやれたんだが、あれは魔力の水溶性を利用した面もあるから、空気中だとなあ……。

それにほら、俺って『護衛』の役割で来ているから半魚人形態へ『変身』して魔力で戦う為に魔力は出来るだけ絞って蓄えておきたいのよ。

まあ、切り裂きジャックが話に聞いた程度なら、頭だけでも十分ぶっ殺せるから安心してくれよ。カッカッカ』


 凄いラフなキャラだな。

 エルフの見た目に全然似合っていない。

 まあ、元々は部下から信頼される兵隊長だったからそんなものなのだろうな。

 ここは純粋に、かれの人間らしさが戻って来たのを素直に喜ぼう。


 それに実際に彼と戦ったボクから言わせて貰えば、頭だけでも切り裂きジャックを倒せるのは誇張でもないのが頼もしい。

 口から出す酸のウォーターカッターとか、建物をバターのように溶断出来るからな。


 そうこうしている内に、落ち着いたシャルが立ち上がって服に付いた汚れをパンパンと手で払う。

 そしてピーたんとジョナサンに向かって「ごめんなさいなのじゃ」と礼をした。

 向こうは微笑ましい様子で許容する。


 その顔は、どこか『娘』を見ているようでもあった。

 今の彼女達に娘は居ないからかも知れない。


 さて、怖いけれど本題に移ろうか。

 ボクは口を開く。


「そういえば、バルザックは居ないので?」

「いや、居るんだけどね。ちょっと疲れて寝ちゃっていてなあ。

起こすのもどうかと思うけれど、ジョナサンは起こした方が良いって言っているんだよね。

私としてもどうするべきか……」

「此処に居るぞ」


 沢山置かれた薬棚。

 それらが作る道の中心に、彼は居た。

 褐色の肌、片目を隠した銀色の髪と飾り気のないメガネ。

 そしてシャルの血族を思わせる、蒼い目と口に生える八重歯。


 【バルザック・フォン・フランケンシュタイン】子爵。

 ダメ人間な事に定評のあるシャルの実父が現れたのだった。

読んで頂きありがとう御座います。


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