481 先生、アズマくんがグループに加わっていません
シャルとグリーン女史がお菓子を半分こした。
けれどもアズマにお菓子が無いのは可哀想だろう。
そんな流れから、グリーン女史がアズマにも買う事になった。
勿論、デートなのにずっと絡んでないアズマを絡ませる口実である。
「いや、俺は食べなくても良いんだが……」
「ヒモがなに言っているんだい。ほれ、なにが良いか行ってみろ」
「なんでもいい」
「めんどくさい彼女か!」
ポカリと、長めの銀髪にチョップをする。
手刀が少し髪に埋まるが、手入れはきちんとしているのかされているのか、サラサラな質感が反発から見て取れた。
「特別に全部買ってやろう」
「量的に、微妙にきついんだが」
「ハイハイ、私も食べてあげるから」
かくして3つのお菓子を買い、それぞれを分け合って食べるのだった。
ロマンス度が高いね。
尚、シャルはお祭りモードでその三倍はモグモグ食べているもよう。
子供の頃特有の謎エネルギーというヤツだ。
きっと食べた途端にエネルギー化されるのだろう。
なのでふと呟く。
「子供は凄いなあ……」
それに対するツッコミは、思わぬところから来た。
なんと関係ない出店の方からである。
「いやいや、アダマスも十分子供っすからね?」
「むむっ、その声は!?」
そこに居たのは褐色の肌、ソバカスの浮いた顔。
服はオーバーオールで、ボサボサの黒髪の上には、革のキャスケット帽を被っている。
そう、彼女は……。
「……誰だっけ?」
「ボケるんかい!パーラっすよ!
エミリー様の店に住んでいて、アンタら兄妹の新聞売りのバイトの先輩の!」
「ああ、ついでにあだ名が『ソバカスっ娘ねーちゃん』になりかけた、あのパーラだろう」
「そのパーラっすよ。しっかり覚えているんじゃねえですかい」
シャルとの初デートの時、裏路地で出店をしていた時が最初の出会いだったね。
あの時彼女の店で買った赤糸は、今もシャルは大切にしている。
ミカガミ草の押し花の栞に結び付けているのだ。
そこでシャルが口を開く。
「パーラ、裏路地の出店から移動したんじゃの」
「メインはまだ路地裏っすけど、ちゃんとした商品を作れるようになったからエミリー様の手引きでもちょくちょく出店させて貰っているっすね」
「ほへ~、確かに出ている物が違うの。かわいいのじゃ」
「へへっ」
彼女は嬉しそうに、煤を拭うが如く、鼻の下を指でクシクシと擦った。
並んでいるのは、針金や歯車を組み合わせて作った廃材アートの人形だ。
サイズは大きくて手の平サイズで、ネックレスやキーホルダー等に使える物もある。
デザインはウサギやドラゴンやロボットなど様々。
変わり種だと、紋章を立体化したものとかあるな。
可愛さを押し出しつつ精巧さも兼ね揃えていて、ぶっちゃけ部屋の飾りに一つ欲しい。
彼女の石ナイフを見た時から器用だと思っていたが、これくらい作れたんだなあ。
あ、そうだ。
ボクはお菓子を分け合っている二人を呼んだ。
小食なアズマだが、グリーン女史の手伝いもあってなんとか食べ切ったところだった。
「グリーンさん。あの工場って、事務机とか置きますよね」
「そうだね……って、ああ。そういう事ね」
彼女は意を得たりと、アズマのTシャツを引っ張った。
彼は解っているのだか、いないんだか。
虚無の表情でグリーン女史に向き合う。
「どうした?」
「なあ、新しい工場にはどんな飾りが良いと思う?」
「ん?それはお前が選べば良いだろう。
俺よりもお前の方がそういうセンスあるんだ……グフッ」
アズマの服の上から、肋骨の隙間に指が突っ込まれた。
いや~、流石にそれは鈍感ってレベルじゃないよ。
せめて恋愛小説とか……読んだ事なさそうだなあ。天然か。
シャルがソロリと、彼に近付き密かに耳打ち。
身長が足りないので「お兄様、持ち上げて欲しいのじゃ」と、ボクがおんぶしている状態であるが、密かと言ったら密かなのだ。
「別に結果がどうなるのではなく、二人で一緒に物を選ぶ事が目的なのじゃ。デートのお約束なのじゃ」
「なに、そうなのか。それならそうと早く言えば良いものを。マニュアル本とかはないものか」
「恋愛は秘するから盛り上がるものじゃからのう。
まあ、恋のマニュアル本とかは女性誌の端っこに偶に載っておるから、探してみるのも良いと思うのじゃ。
必ずグリーンさんとするのじゃぞ」
シャルは内心『恋のマニュアルそのものは、役に立たんけどな』と思ったが、口には出さない。
そうやって二人で何かを決める事で距離を近付けていけば良いし、何より愛し方に興味を持つことが大切なのだ。
そういう訳でアズマはやっと動き出す。
表情は何時ものように不愛想な物であるが、その動きはぎこちない。
摘まむような指の動きで商品を追いかけ、ああでもないこうでもないと長考する。
「まさか俺がこんなに悩まされるとは……」
「たしかにアズマって判断力が異様に速かった印象あるけど、そういう『自分の中の世界』とは別って事だろうねえ。さあ私の為に存分に悩むのだ」
グリーン女史はフフンと得意げな様子でアズマに命令を出すのだった。
でも、その心は余裕一色という訳でもない。
何故だろうと首を傾げると、エミリー先生が説明をしてくれる。
ボクは思っただけなのに、察するの上手いね。
「グリーンはあんな商売しているけど、恋愛経験自体はゼロなんだ。
君も、シャルちゃんが来るまでそんな感じだったろ?」
「ああ、確かに。納得です」
先生は教えるのが上手いなあ。
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