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48 最低の屑との再会

 帰り道は曲がりくねっていた。

 そしてこの闇市の中でも更に裏道なのか、足元にはガラクタが溢れている。


 使えなくなった機材や割れたフラスコなど錬金術に使っていたものが多い。

 エミリーはこういうものを見慣れて、空き缶の話をしたんだなと思うと考えさせられるものだった。


「ウヒヒヒヒッ。さあさ此方へ。気を付けないと転んでしまうのでご注意を」

「そ、それなら少しゆっくりできないかい?妹もちょっと付いて来るの大変そうだし」


 チラリと手を繋ぐ先へ目をやる。

 そこに居るシャルは、足をガラクタに取られながら迷惑になるまいと息を荒くして、尚付いて来ようと精一杯の顔になっていた。


「だ、大丈夫じゃよお兄様……妾の心配は無用じゃて」


 どう見ても大丈夫じゃない。

 あんなに元気なシャルがここまで疲れるのは、普段が平地に慣れている分、入り組んだ道でスタミナを余計に使ってしまうんだろう。

 山地で歩く時は同距離の平地の約二倍のエネルギーが必要って、どこかで聞いたことがある。


 やっぱりペースを落とすべきだ。

 そう言おうとした時、先導する男はボクの発言に被せて言葉を発した。


「ヒヒヒッ。確かにペースを落とさないと可哀想なのは重々承知ではあるんだけどね。でも、『間に合わなく』なっちゃうから……」

「それはどういう……」


 聞こうとした途端に大きな音がした。


 様々な金属片が舞ってぶつかり合い、陶器が割れて地面に落ちる、そんな音だ。

 ボクの視線の先には開けた、そして見慣れた景色。

 石ナイフと糸を買った闇市の店があった場所だった。

 そこが乱暴に荒らされていたのだ。グチャグチャと。


 荒らされた商品の中では店番の女の子が尻もちを付いていた。

 彼女は正面に立つ人影に向かって声を上げる。


「やめるっすよ!なんでこんな事するんすか!」

「そうねえ、今度私が暮らす予定の街を見物していたら税も納めていない軽犯罪者が居るっていうのもあるけど……」


 人影は髪をかき上げた。

 すると夕陽に照らされて隠れていた姿が段々と見えてくる。

 ブランド物の服に、よく手入れされた茶色い髪。

 美人の部類なのだが、どうしても彼女が好きになれなかった。


 それはきっとボクが今までで出会ってきた悪徳貴族の臭いがプンプンするから。

 彼女の一挙一動に対して読心術がボクへ伝えてくるのだ。


 だから次に言う事も大体分かる。


「一番の理由は、な・ん・と・な・くぅ~」

「はあっ⁉ざっけんな、そんな理由で食い扶持潰されてたまるっすか!」


 店番は、嫌味な女へ殴り掛かった。

 しかしそれを嫌味な女は手の甲で受け流し、足首を爪先で小突いて転んだ店番の背中をハイヒールで踏み潰す。


「ぐえっ!」

「ふんっ、二束三文の下種が。この私に勝てると思って?」

「ち……ちくしょう!ちくしょうっ!」


 踏み潰されながら何も出来ない店番。

 さてどのように処理してやろうかと考える嫌味な女にボクは声を掛けた。

 なるべく笑顔で。


「やーやーやー、すんまっせーん。そこの眼美しいお姉さん」

「あら何かしら。こんな場所にも小綺麗なのが居るのね。男娼か何かかしら。

まあ良いわ。私、今忙しいから後にしてくれない?」

「まあまあ、そう言わずに。ちょっと紹介したい人が居まして。あそこを見て下さい。貴女の知り合いですから。実はちょっと言いたい事がありましてね」


 こう言われて足元からもボクからも注意を無くさないのは、流石に『一流の武官貴族』というだけあるかな。

 それでも、この女は少しだけ思い当たる事があるのだから、どうしても示された方角をチラリと見ざるを得ない。


「……えっ⁉」


 そして見た方向、シャル……この女にとっては【シャルロット・フォン・フランケンシュタイン子爵令嬢】が立っていた事で少し視線が釘付けになる。

 その隙にボクは、一気に魔力で強化した握り拳を女にぶつけた。


「くたばれやああああああ!」


 その型は格闘技もへったくれもない。

 どちらかと言えば野球(ベースボール)の投手のピッチングフォームの手を、拳の形に握っただけのように降ろし打つ形だ。

 防御無視のその形故に全体重が乗っかった拳は顔にめり込んだ。

 歯や顔面の骨が幾つか折れる音がして、そのまま吹き飛び、勢いよく女は壁に叩き付けられる。その身体はズルリとゴミ溜めに埋まった。


 ボクは今怒っている。


 店番が虐められているだけでは、そうならなかっただろう。

 しかし、あの女の姿を見たシャルが明らかに怯えていたのだ。

 そこでひとつ確認。


 『あの女は、実家でシャルを虐めていた教育係のメイドだったのか』と。


 恐怖で口を動かせないが、読心術を持つボクにはそれだけで十分だった。

 なんであの女が此処に居るのかは色々考えられる。が、取り敢えずは行動だ。


 ゴミ溜めの中から嫌味な女……教育係のメイドが上半身を見せる。

 歯が数本抜けていて、鼻が曲がっている。顎も少し歪んでいた。それでも様子はまだピンピンしている。

 流石ミュール辺境伯仕込みだ、この程度でくたばって貰っちゃ困る。


「た、高がスラムのガキが……女の顔をこんなにしといて、只で済むと思っているのかいい!」

「うるさい!お前は最低の屑だ、屑に男も女もあるものか!」


 家を出てからこの『変装』はどんな人種も騙せていなかった。

 ただ、一番の間抜けは騙せたようで何よりだ。

読んで頂きありがとう御座います

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