471 侯爵家と風俗ギルドの提携方法
ボク達は、錬金術士通りの路地裏にあるスラムを歩いていた。
はじめに切り裂きジャックと会った二番街と違って、憲兵やら風俗ギルド員やらがそこらにうろついているので逆に安全な印象がある。
風俗ギルドに向かう為である。
どうしてそうなったのか。
それはカップル誕生により生じたエネルギーで生まれた大勝利の、後始末を発端とする。
先ずは、ゴロツキ作業員達は工場に待機という結論になった。
エミリー先生が銀行から資金を下ろして、それらを渡す事で解散となる。
所詮は目先の金で動く連中という事だな。
ボク達が大量の憲兵達を連れて戻ってくる可能性も考えず、素直にカードゲームの続きをする有様だ。
そして作業員代表の男は、風俗ギルドへ『連行』という形になったのだ。
「心配しなくても大丈夫だよお、私が守ってあげるからさあ」
にちゃあ。
エミリー先生が代表に対して言ったのは、確かそういう台詞だったか。
明らかによくない事を考えている顔であった。
それもその筈。
これから先生が工場の保護の為に『お金を払うから出て行って』という意味の契約書の作成方法が、嫌がらせにしか思えない方法だったのだから。
「まさか、契約書の作成を風俗ギルドに委託するとは」
「正確には、風俗ギルドとラッキーダスト侯爵家の両方の確認を以て有効とするって感じだね。
二つの組織が協力する仕組みとしては、望ましい形だろう?」
「ええ、実にその通りで」
風俗ギルドに向けて歩を進める作業員の代表は、パニくっていたグリーン女史よりも青い顔をしていた。
付いた先では『給料の支払い先』を聞き出す為に、読心術持ちの目の前で根掘り葉掘りの尋問があるのだ。
しかも引き出せた情報がガセであろうとなかろうと、相互が連携して真実の追及を行う。
それは互いの利益による対等な立場の契約なので、ギルド内の文句も少ないと思われる。
補足するなら父上が無双バトル展開で崩壊させた組織の数は数え切れずだ。
つまり現在の裏組織にとって代表は、『二つの組織が結託する切っ掛けを作った戦犯』に他ならない。
まさか、意地が服を着て歩いている様なグリーン女史が、エミリー先生に頼るなんて考えられなかったのだろう。
君達にグリーン女史や周りの人達の何が解るんだって話だ。
そういう訳で、はじまりの「守ってあげる」の台詞に繋がる訳だね。
ドナドナと連行される彼に死ぬ権利はないという事だ。
「と、いう訳で風俗ギルドに到着ですよん」
「パチパチなのじゃ」
そこでグリーン女史が手を上げた。
彼女の手には、工場から持ってきた携帯蓄音機があるが、これはエミリー先生の指示によるものだ。
「エミリー、ちょっといいかな?」
「藪からスティックにどうしたんだい?」
「風俗街に子供を入れるとかどうかと思うぞ」
そういえばグリーン女史にとっては、ボクとシャルは、只のボンボンの子供だったな。
う~ん、バレるとアズマ関係でややこしい事になるのが面倒くさい。
周りのお姉さんには既にバレているけど大丈夫なのだろうか。
『君は心配しているだろうが、そこはギルド長が既に手を打ってくれたね』
機械による安定の秘密会話で、エミリー先生が懸念を解消してくれた。
流石先生、抜け目がない。
確かに周りを見ると、チラ見をして去るだけだ。
彼女達はこういう状況に慣れているのか、グリーン女史と違って自然だった。
銀行でのグリーン女史がバレバレだったのは、ギルド周辺に勤めているお姉さん方が精鋭なのと、あの時のグリーン女史に余裕が無かったからだと信じたい。
さて。話を戻そう。
エミリー先生が問いに答えた。
「この子は生まれついての貴族だからねえ。
ぶっちゃけ、英才性教育の成果で君の想像以上に凄い事を知っているから平気さ。
ナイトクラブも行ったし」
「……マジで?」
グリーン女史は、ギョッとした顔でボクを見た。
普通の貴族の子に言ったら濡れ衣のケースもあろうが、ボクの場合は全然間違っていない。
エッチな事は大好きだ。
「ん、肯定」
「これだから貴族ってやつぁ……」
なので首を縦に振っておく。
ドン引きするグリーン女史に対してはじめ会った時もそうだったなと、最近なのに懐かしい気持ちを覚えた。
密度のある日が続くと時間を長く感じるものだ。
因みに周りの富裕層を相手にしてきたお姉さん方の反応はそうでもなかったので、やはりお姉さん方が精鋭という説が正しいのだろう。
そんな『普通の人』が、マトモなお金持ちを探すのは大変だったんだろうなあ。
はじめから此処で営業していれば、もしかしたらまともなスポンサーに出会えていただろうか。
いやいや、そもそも高級娼婦の生まれは貴族階級の筈だ。
それに、こんな所に工場を作る訳にもいかない。
たらればではあるが、結局は必然の成り行きだったのだろう。
ともあれ話をそこで終わらせる訳にもいかない。
故にこれから、運命を捻じ曲げてくれる人に会いに行くのだった。
風俗ギルド長。
ベアトリス・フォン・グラットン女史である。
◆
何事もないように見えた外とは対照的に、ギルド長の部屋には驚きの光景が広がっていた。
実のところ切り裂きジャックが攻略された以上、契約先を潰す為に風俗ギルド側にちょっかいをかけてくるのは予想が出来ていた。
微妙に「これで連戦とかだったら無双過ぎて捻りがない展開だな」とさえ思っていた。
しかし『城下町』のお姉さん方は何もないようなので、もしかして予想が外れたのかな程度に思っていたのだ。
けれど違った。
裏組織側も刺客を送り込んでいたのだ。
「やあ、随分と『小者』を連行してきたじゃないか」
ベアトリス女史が軽く言ったその下で、大量の切り裂きジャックの残骸が散らばり、明らかにカタギではない人達が縛られて並べさせられていたのだ。
彼女の周りには、風俗ギルドの武闘派構成員の皆さん。
更に、頭に狼の耳を生やした生きるレーダーのルパ族達。
そしてアセナが腕を組んで、壁に背を当て体重を預けていた。
彼ら彼女らは、こうなる事が解っていたかのように集められていた。
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