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441 アニメグッズは日常でも違和感の無い物にするか尖らせるか

 ナイトクラブの門の前ではボディーチェックを受ける事になった。

 チェックしているのは執事服を着たクラブの店員さん。

 用心棒(バウンサー)も兼ねているので、凄い体格をしている。


 酒が入っているとカッとなり易い人が多いんだとか。

 そのせいか皆で踊っている最中に喧嘩があっても、少しだけなら基本放置だったりするらしい。良いのかそれで。


 そんな事情もあって貴族風のお店とはいえ、外で貴族が佩いているような本物の刀剣は持ち込み禁止らしい。

 没落貴族が入ろうとして必死に剣を手放さないという事もチラホラ。


「此方、会員証のメダリオンで御座います」


 そう言って、コイン型の安っぽいピンバッジを胸元に付けられた。

 手続きはグリーン女史が既にやってくれていたらしい。

 丁度、切り裂きジャックの追跡劇をしていた時だな。


 メダリオンとは、読んで時の如く『メダル』の事だ。

 古くは宗教関係者のネックレスの飾りに使われており、宗教的な意味の浮き彫りを刻んだ物である。

 これは時が経つにつれて貴族の身分証となり、権威や経歴を表す物としても使われてきたのだ。

 軍隊の勲章や運動選手の金メダルなんかもこの類いだね。


 材質は普通の真鍮製。

 貴族の使うやつは偽造防止の為に魔力による本人認証機能があるのだが、コレにそういった物は見られない。

 コスパを考えるなら当然か。


 ペロンと裏を見ると、通し番号とボクのイニシャルが彫られていて、表面は店のマーク。


 店のマークは貴族の紋章のようだが、微妙に違う『なんちゃって貴族紋章』。

 創作物で偶に見るが、とても『それらしい』出来だった。

 貴族の紋章としてポピュラーな『獅子のエンブレム』を基調としているのもあるが、細かい部分のクオリティが高いのもある。


 店員さんは説明をしてくれる。


「この紋章のデザインは、オーナーがさる大貴族様とお知り合いでして、本物の紋章官様に御発注頂いたものなのですよ」

「ほへ〜、それは凄い」


 オーナー……つまりベアトリス女史だな。

 発注先は父上かグラットン公爵か。

 どちらにしても、注文が容易であるのは想像に易い。


 こうした発注にアポイントメントを取るには一定以上の身分が必要だ。

 つまり、人生一発逆転で貴族を夢見る若者という客を集めるには、十分な効果を発揮するのだろう。

 しかし、この『なんちゃって貴族紋章』には、別の狙いもあるのを思わせる。


「お洒落なデザインだね。

純粋な貴族紋が現代風にアレンジされていて、ファッション用の装飾品って言われても違和感が無いな」


 伝統的な紋章を現代向けにアレンジしている。

 そんな疑問に答えるのは、常連のグリーン女史。何処か得意顔である。


「その通り、実際にアクセサリーとして使っている人は多い。

お洒落目の服に付ける都合上、普段使いが出来るように工夫されているのさ。

会員証を欲しがって入会する人も少なくないな」

「それは紋章官とは別の人?」

「いいえ、同一人物です」


 店員さんはバッサリと言った。

 はっちゃけたなあ、紋章官の人。

 高級料理のシェフにジャンクフードを作らせるようなものだが、それはそれで案外楽しいのかも知れない。


 余談であるが、ジャンク一点集中のクラブ章も、それはそれでキャラクター缶バッジっぽくて受けが良いんだとか。

 海賊旗もそんな分類だしなあ。


 さて。

 シャルは外套に付けられたバッジを見せて、八重歯をちらつかせてニコリと笑った。


「お兄様。似合うかや?」

「ああ、とっても可愛いよ。今からでも舞踏会に出れそうだ」

「うへへ、それは言い過ぎじゃろ〜」


 そうは言うが満更でもない様子。

 それに『なんちゃって』と枕詞は付くが舞踏会というのは嘘でも無い。


「それではどうぞ、夢の舞台へ」


 決まり文句なのだろう。

 店員さんのやたら慣れた口調と共に、扉は開かれるのだった。

 眩し過ぎる光は、さながら異世界への入り口か。



 そこはある意味で夢の世界だった。


 先ずは耳に飛び込む快適な音楽。

 一階の奥には劇をする為のスペースがあり、その前方でトランペットやピアノなどでジャズが奏でられている。


 騒がしくも楽しげな音色だ。

 ボクの認識では演劇音楽が主流だと思ったのだが、一般に発表されていないだけでもう新芽は出ているという事なのだろう。


 彼等の奏でる、舞台より下のそこはオーケストラピットと呼ばれるスペースだ。

 音楽が劇場全体に聞こえ、劇の邪魔にならないようになっている。


 そんな音楽に合わせて、沢山の人々が自由な形で踊っていた。

 社交ダンスに比べて品が無い印象であるが、型に嵌らない分活き活きとしていて、若さ特有のエネルギーを感じる。


「若いって良いねえ」

「お兄様も十分若いのじゃ」

「ナイスツッコミだね、シャル」


 こんな冗談が漏れる程、ボクの気分も軽くなっていた。


 人々の髪型は自由で、服装は工業区で予想した通りに微妙に貴族っぽい程度だ。

 安物の偽貴族服を一張羅として、皺くちゃで汚れもある服を着ている者達が幾つか見れた。


 では貴族のコスプレパーティーなのかと言われれば、そんな事はなく。

 偽貴族服を着ていない者達は慣れていないようで、キョロキョロと不安そうに辺りを見回している。


 対して堂々としている者達は、質の良い本物の貴族服に違和感の無いようカジュアルな服と合わせていた。

 つまりはボクと同じパターンだな。

 それは頑張れば誰にでも『真似』出来る範囲の組み合わせで、こういった者達が流行を生み出しているのだと分かる。


 全てを高級品で固めるのは無理だけど、似たような物で代用する事は出来る。

 目立たない部分は安物でカバーするのも流行を創る重要な要素だ。


 なんなら小綺麗ではあるが、適当なベストにシャツにそこら辺のズボンという平民一直線な格好をしている強者も。

 ただし、靴やアクセサリーは良いものを付けていた。

 彼は場慣れしていない女性に近寄り、優しくエスコートする。

 パッと見、見慣れた格好で近寄り、近くでよく見れば高いと分かるアクセサリーと話術で虜にするタイプのナンパ師か。


 女性も思い切ったデザインが多い。

 本日のシャルの衣装はグリーン女史に予め傾向を聞いた上でコーディネートした訳だが、実に馴染んでいる。

 つまりは皆、スカートの丈が短めなのだ。


 通常、貴族の舞踏会用のドレスは短くても足首を出す程度であるが、此方は大胆に膝から上を出している人達が多く見られた。


 服マニアとして、興味深いと思いつつ、シャルと恋人繋ぎをし、建物の中へ一歩踏み出すのだった。

読んで頂きありがとう御座います。


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