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44 裸の王子様

 薄暗い脇道。

 そこは慣れると面白いもので、独特の雰囲気が肌で感じられ、表との違いに考えさせられる事もある。


 第一に思った事。

 それは表の人間は自分を綺麗に見せようとする反面、此方の人間は正直者が多いという事だ。

 嫌な気持ちなら本当に嫌そうな顔をするし、今働きたくないなら客の前で昼寝をしたりご飯を食べたりなんかもしている。


 勿論それが手放しで良いというものでも無い。

 でも、腹の探り合いをするのが日常になっている身分では、その自由さが羨ましいと感じられた。


「色々と置かれているのじゃ」

「だね。特にありふれた物を創意工夫で商品にしているのも面白い」


 例えばボクの見ている先には物売りが居る訳だが、彼は黒曜石でもなんでもない石ころを研いで、ナイフとして売り物にしている。

 他にも小動物 (恐らくネズミの仲間だろうか?) の毛皮を革紐等に加工していたりと、無い資源が有効的に使われていた。


 そこで思い出すのはエミリーの空き缶の話。

 ボクは顎に手を置いて頷く。


「成る程なあ」

「どうしたのじゃ?お兄様」

「これから空き缶が増えるだろうけど、もしかしたら商売に出来るかもなあって思ってさ」

「そうなのかやっ⁉」

「うん。無い資源を有効的にね。

落ちてる金属を此方で買い取りますよって案をちょっと父上に提出してみようかなって思う」


 買い取るといっても大した額ではない。

 それでも、こういった住人達には良い資金源になるだろうし、政策を通して領主側との距離を縮めて領主への好感度も上がれば万々歳だ。

 まあ、草案だけでも長くなりそうだから、かなり長い目で作っていく必要があるけど。


「ほへ〜、なんか難しいお話なのじゃ」

「実際難しいお話だからねえ……まあ、思いついただけだし、取り敢えずは折角の下町だ。楽しもうか。

ちょっと見てみたいものも出てきたしね」


 シャルにニコリと微笑んだ。

 彼女は少しドキリとした顔をしていて、でもそれは、弄らない方が正解に感じられた。

 だからボクは、自分の行きたい所に行こう。


 先程の創意工夫の上手い店へ向かっていた。

 見てみるとやはり何処でも手に入るような素材を丁寧に加工しているものばかりだ。


 近づくのを見るや否やぐうたらな姿勢の店番は、特にぐうたらを直す訳でもない。

 やる気の無さそうな声だけを上げる。


「はいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。

塩を使わず作った干し肉や、雑草から取り出したデンプンとかも置いてるっすよ。

冷やかしじゃなくて買ってけよ〜」


 こういった環境でも食糧を作る事が出来るのは驚きだ。

 しかし此処で驚くのはそこではない。

 遠目で見ては分からなかった事である。


「……子供?」


 女の子が店番をしていたのだ。

 具体的にはボクより二つほど上の年齢といったところだろうか。

 やや日に焼けた肌をした彼女は、胡座をかいて頬杖をかいて、不機嫌そうなソバカス顔を隠す事なく此方へ向けていた。


「なんすか。アンタだって子供(ガキ)じゃねえっすか」

「ああ、これはゴメンね。つい珍しくってさ」


 ついボクは腰を低くして謝った。

 彼女は鼻息を鳴らして頬杖を解いた。


「ふんっ、腰が低いお偉方も居たもんっすね。

金持ちの道楽なんだろうけど珍しい物が欲しいってんならみんな買っていって欲しいもんっすよ」

「いやいや、偉くてお金持ちだなんて。

何処にでも居る庶民だよ?服だってよく見る労働者のものだろう?」


 君の三下口調も大概だと思うなあ。


 思いつつ、ボクはクルリとスチームパンク労働者風のコーディネイトを見せた。

 そして彼女は唖然とした様子で口を開く。

 呆れた様子で後頭部をかいて、そのかいた指先をボクヘ突き出した。


「アンタみたいな庶民が居る訳ないっすよ。

そんな良い生地使って、新品で、飾りまで付けちゃって、髪にも肌にも汚れひとつない」


 なんだって。

 ボクの変装は完璧じゃなかったのか。


「でも皆は庶民に見えるって……」

「んなもんガッカリさせない為のリップサービスで合わせてやってるに決まってるっす」


 そうだったのか。

 読心術で、悪意そのものは感じ取れなかったから見破れなかったのだと結構落ち込む。


 へこむわ〜。


「お兄様、よしよしなのじゃ」

「うん。ありがと」


 肩を落としたボクをシャルが慰めてくれた。

 よし、妹パワー注入でもう大丈夫だ。

 謎の無敵感を得たボクは彼女の商品を見るのだった。


「しかしこの商品群は君が作ったのかい?凄い知識だね」

「養ってるチビ共の内職とかもあるけど大体はそうっすね。別に全部がアタシの知識って訳じゃないっすけど」

「へえ。教えてくれる人が居るんだ」

「あっ?バカにしてるんすか?」


 彼女は噛み付くような態度を取った。

 きっと此処じゃ『舐められる』のは命取りなのだろう。

 だから緩く否定する。


「いやいや、ゴメンゴメン。そんな気はないさ。

ただね、学を広める。そして、それをこうして実践出来る優秀な人材は意外なところに居るものだねって思っただけさ」

「まあ確かに『学会』ってのに馴染めなくなった爺さんとか、『サバイバル』ってのを教えてくれる冒険者の姐さんとかには世話になったっすけどね。

後は、何時もチビ達の面倒を見て、色々教えてくれる立派な方も居ますし。

普通に話してりゃ仲良くなって仕事を任されて使えるようになるっすよ。

コレってそんな凄い事なんすか?」


 彼女はキョトンとしていた。

 ボクはナイフの刃の指で確認してから、どれだけ実用的か確認する。


「ああ、胸を張って凄い事だと言えるよ。

ボクの知ってる中だと酷いのが居てね。

自分は凄いんだぞって思いこんで、高い金で雇われている教育者なんだけどさ。

生徒の生まれが気にくわない為か仲良くなる気がなくてね。『お前気持ち悪い』って酷く当たって生徒も心を閉ざしてしまった。雇われなのにだよ?

それで、だ。

結局生徒は部屋にあった本で時間がかかったけど優秀になりましたって話さ」


 分かっていないような顔で頷いているが、読心によると理解の色が出ている。

 だから分かった発言が出てきた。


「それは酷いっすね……。

ていうか、それって生徒は本だけでもどうにか出来る位に頭が良かった訳っすよね。

じゃあ単に、その教育者がはじめから何も教えていなかっただけなんじゃないすか?」

「だよね~。ねっ、シャル!

だいたい『こんな感じ』って事で良かったのかな?」


 シャルは突然話を振られて強張らせるが、直ぐに自分がどういった話を振られたのかを理解した。

 つまり自分と実家に居た教育係のメイドとの関係をボクなりに想像で埋めたものだと。


「そ、そうじゃなっ!」


 シャルは何度も首を縦に振ったのだった。

読んで頂きありがとう御座います

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