42 お祭りで屋台を見て回る子供のテンション
珍奇なものから無難なもの、宝らしきものもよく探せば見つかるかも知れない。
そんな玉虫色の市だった。
こうも玉石混交しているのに人々の雰囲気がカオスにならないのは、憲兵が多く配置されているからと考えてしまうのは、ボクがひねくれているからだろうか。
市の人々は落ち着きつつもポジティブなベクトルで商品を売っているのが、読心術で浅く広く感じ取れた。
ところで一方の客であるが、歯磨き粉や魔力灯などの生活用品を求める者が多く、楽しそうに見回しているのは旅行に来た慣れのない者が多い。
そんな中でシャルは後者の人種であり、とても元気にキョロキョロ見回していた。
しかも興味をつ大体がどうでもいいものだ。
無駄過ぎて貴族の屋敷には絶対に目にしないんが、逆に面白いのかもしれない。
はじめに少し気が乗らないような態度だったのが嘘のようなはしゃぎぶりだった。
「お兄様、お兄様!なんか向こうでブオーってやって、向こうでボボボボーンってしたのが売られるのじゃ!」
アバウトな説明をありがとう。
動きに合わせてお下げが揺れたり回ったり、そして本人の心情が可愛いから良いけど。
「あの手に持ってるのは、ザラメ糖かな」
近寄って見れば、どうやら新手の砂糖菓子なのが分かった。
錬気術を使った新手の機械の宣伝も兼ねているらしく、商品名と作った錬金術師名と、その原理が大きく看板に書かれている。
革新的なように書かれてるけど、あれって只の洗濯機に穴を開けただけなんじゃ……。
たぶん、既に別の何処かで作られているんじゃないかなあ。
ツッコむのは野暮なので辞めておこう。
「凄い興奮ぶりだね……ええと、『綿飴』っていうのか。見た事ないなあ」
「そうソレっ、なのじゃ!さっそく買うのじゃ!」
ボク等は早速作っている現場へ向かった。
大銅貨を手にして、駄菓子より少し高い程度の値段で一つ買う。
予想通りというか、思ったよりというべきか。
ボクが考えていたよりは安くて、この先お釣りの小銅貨がダボつかないか心配になるくらいの値段である。
そうして小銭片手に眉間に皺をよせていた時だ。
突然口内へ柔らかいものが押し付けられると、シャルが綿飴を押し付けてきたのが確認できた。
「お兄様も食べるのじゃ。美味しいぞ」
彼女はニコニコと満面の笑みである。
こちらが悩んでいる時に。全く気楽なものだ。
一瞬思うが、取り敢えず口内のものをどうにかせねばなるまい。
ボクはそれを少し噛み千切り、そして一瞬で溶けるのが分かった。
あ、美味いわコレ。
確かにシャルが勧めるのも納得である。
同時に悩むのも馬鹿らしくなってくる。シャルを楽しませる為に来たのに、ボクだけが悩んでても仕方のない事だっていうのに。
つまんない事に悩まされていたなあ、ボク。
「な、美味しいじゃろ」
「そうだね。もう一口良いかい?」
「勿論じゃ!じゃあ妾も反対側から食べるのじゃ」
こうしてお互いに反対側から食べ合う。
ふと、はじめに会った時は間接キスがどーのこーの言っていた事を思い出すが、ツッコミは入れるのは野暮というものだろう。
ボクは義妹との距離が縮まった事を素直に喜ぶ事にした。わーい。
その流れで食べ終わり、キス寸前までいった後の事だ。
手元のお釣りを処分したいなあと、先程のシャル程ではないがキョロキョロして見かけたパイプ椅子へ腰をかけた。
二つの椅子の中央にある、ほぼフレームだけの簡単な机に小銭を広げる。
「……さてシャルよ、重大任務だ」
「ハッ!お兄様!」
「お兄ちゃんはこの小銭を処理しなければなりません。それをシャルに任せようと思いまーす。まあ、つまり好きに買って良いって事だね」
「おおお!よしっ、任せるのじゃっ!」
シャルは言われた途端にジャラジャラとソレらを握りしめて、走り出そうと反動をつける。
「はい、ちょっと待ってね」
「ぐはっ。な、なんなのじゃ」
なのでボクはハンナさん直伝の裏回りで素早く回り込み、お腹を掴んで未然に防いだ。
圧迫された彼女は少し苦しそうにしていたが、まあ大丈夫だろう。
ケホケホとせき込む彼女に視線を合わせる。
「買う時はお兄ちゃんと二人でね。シャルだって、途中ではぐれてもう会えなくなっちゃったら嫌だろう?」
「……そうだの。ごめんなさい、なのじゃ」
「大丈夫。謝ったんならね。さ、行こうか」
椅子から立ち上がったボク達は、恋人繋ぎをして市の通りへ混ざっていく。
落とさまいと、小さな手で強く小銭を握りしめる様子を見てボクは口を開いた。
「先ずは小銭入れでも買おうか」
「ふむ、確かにそうじゃの!」
元気よく返事をしたところで、丁度用意してあったかのようにゴザに敷かれていたのが売られていた。
お守り袋程度の大きさの巾着袋だが、小銭入れとしては十分か。
「ぐぬぬ……」
「一番安いのじゃダメなの?」
「う~む、それよりは……隣の方が可愛い気がするのじゃが値段的に……ううむ」
確かに染料によっては値段が違うが、なんの柄もない袋に対してシャルはかなり迷うのであった。
彼女の中では違いがあるらしい。
読んで頂きありがとう御座います