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417 嘘か本当か知り得ない

 イオリにとっての『偶然会った美人な女性』。

 すなわちエミリー先生は、花咲く営業スマイルで自己紹介をしていた。


「そういえば名前を言ってなかったね。

私はエミリー。ありきたりな名前だけど、覚えてくれると嬉しいな」

「いや、覚えちゃうよ!今度デュオしよーよ!」

「機会があればね」

「え~」

「今度ナイトクラブに行く予定だから、まあ、その時まで待っていてよ」


 こんなのがカリスマインフルエンサーで良いのか。

 ギターを弾けると分かると否や、彼は一気に詰め寄った。

 鼻息は闘牛の如く荒く、故に軽くあしらわれ見るからに成功しなさそう。

 ていうか、中身のないナンパばかりでギターそのものの話題少ないな。会話したいのならそっち方面で話を膨らませようよ。


 ともあれ運が良いのは確かだ。

 依頼の一つである、イオリと繋がりを持つ事が出来たのだ。

 父上の依頼はナイトクラブに行く口実程度と割とどうでも良いので、かなり前進と言えよう。


 とはいえ、目的の通りに切り裂きジャックの話に入るのは危険だと思っている。

 ギターの対応を見るに線引きはちゃんとしてそうなので、ズカズカと踏み込むのはご法度といえよう。

 現に新聞記者としてのアセナもかなり警戒されているし、一度切れた人の縁を戻すのはとても大変だ。

 見栄っ張りに見えるけど、根は臆病なのかも知れないね。

 慎重に行くべきだ。


 しかし、踏み込むタイミングを長引かせ続ける内に、切り裂きジャックの『目撃者』から『被害者』になる不安もあるのではという不安もある。

 その辺は皆と相談しながら決めるしかないか。


 それに、きっと大丈夫!

 推理モノだとなんだかんだで死ぬのは中〜後半って感じのキャラではあるし。

 間違っても「こんなところに居られるか、帰らせて貰う」なんて言わないだろう。

 ちょっと凝った設定だと、口車に乗り易い事から利用されていただけとかね。

 実は目撃者として生かされているだけなのかも知れない。

 そんな、偏見があった。

 本当に偏見だなとセルフツッコミも入れておこう。


 気合だけの無謀なナンパをしてはあしらわれる作業。

 そんな彼の影に隠れがちな、隣に居る『銀』をボクは見ていた。

 見ただけでは相変わらず気合らしい物はなく、今にも中身が口から飛んでいってしまいそうなダルさ具合。

 けれど個人的な違和感から、此方の方が重要な情報を握っていると当たりを付けていた。


 探りを入れるか。あくまで普通の子供らしく。


「ねえ、君はイオリさんとどういう関係なの?

ボク達みたく、たまたま会っただけ?」


 自分で言っておいてなんだが、この線は薄そうだと思っている。

 なんというか『毛色』が違うんだよな。

 フワフワした表現なのでもう少し直感を自己分析して言葉にするなら、この肉体労働だらけの工業区で、こんな細く白い身体で、汚れてないシャツってどうだろう?

 ツナギみたいな作業着がデフォルトではないかな。

 しかも、ナイトクラブのインフルエンサーが態々こんな所に来るか?

 来るなら『用事』が必要だろう。


 穴だらけの推理であるが、直感というのは七割が正しいものだ。

 確かめても損はないだろう。

 彼は眉毛に掛かっている前髪をくるくると回す。


「ん?ああ、話せば長くなるが……今だと『依頼主と受託者』の関係だな」

「と、いうと?」


 あざとく首も傾げてみよう。

 すると合わせてシャルも首を傾げてくれた。ナイスタイミングだ。

 服装からして『銀』は知識層である可能性は高い。もしくはニートか。

 そしてギターで、色々な種類の短い音楽を『試して』いたという事は……。


「あのギターを作ってやった。

正確には使えなくなったエレキギターを魔力式に改修しただけだがな。

丁度、薄く小さな板を音を出す媒体に出来ないかの研究をしていたんだ」

「へえ〜、すご〜い」


 やはり発明品のテストか。

 時間軸的にイオリがナイトクラブに来たのは結構前で、ギターを改修したのはそれ以前という事になるが、時間が経った後も正しく起動するかの様子を見る必要はある。

 研究のデータを取る事にも繋がるか。


 それ故に、優れた技術者ではあるのが分かる。

 現に技術の話を横で聞いていたエミリー先生がピクリと肩を動かしてもいる。

 けれど生憎と彼女はイオリの相手に忙しく、無碍にする訳にもいかない。

 なんせボクの代わり。そしてアセナの為に情報を得なければいけない大役なので離れる訳にもいかないのだ。


 なんだかんだで研究畑の人間だ。

 シャルの実父程ではないにしても、専門外の事の対話スキルはそこまで高い物でもない。

 オリオンの作業員達とは接点があったので仲良くやれていたけど、ギャル男と会話するなんて絶対疲れる。

 こんな状態の彼女は珍しいかもという気持ちと共に、心の中でお疲れ様と言っておこう。


「へぇ、凄いんだね。

なんか立派な博士だったりするの?」


 頭が良くて偉い人はみんな『博士』。こう言うと子供っぽさが出る気がする。

 ボクの気持ちへ返答するように、彼はフルフルと頭を横に振った。

 病弱そうだが整った顔が様になっている。


「いいや、無位無冠だから偉くはないな。

ただ、機構に興味はある方だから、こうして食う事は出来る」


 そうかぁ。

 さて。前振りも出来たし、そろそろ深く聞いてみるか。

読んで頂きありがとう御座います。


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