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404 遊び船こども号

 港のような狭い場所で遊び場を作る。

 夢はあるが、色々と無理があるのではないだろうか。


 聞いた当初はそんな事を思ってもいたが、実際に見れば結構な施設があるものだと感心した。

 なんと水上に固定されたパトロール船の大きめのレプリカが、そのまま施設として使えるようになっているのだ。風圧の関係でマストは張られていない。

 入り口には、お爺様が大冒険の果てに現在の大交易路を作った事を、原型の残らない程に美化して書いた看板が置いてある。

 でも使用は無料という事でありがたくはあった。


 甲板に立ってみると、太いロープで編んだ網をよじ登るアスレチック遊具だったり、背の低い樽が床に固定された状態で列になっていたり。

 大袈裟に大きくして大砲のレプリカには、何が楽しいのか小さな子供達が中に入って玩具で遊んでいる光景も見られる。


「うりゃー!コロコロなのじゃー!」


 我が妹様は、太い柱を起点として斜めに張られた網を転がる。

 一方で彼女の実父は、どうすれば良いのか分からず不安げにキョロキョロしている。

 周りでは奥様方が会話していて、偶に駆けてきた子供を「あらあら良かったわね」と褒めていたり。

 親の対応はその位で良いのだが、何か特別な事をしなければいけないと思っているのがよく解る。


 で、一通り遊具を遊び回ったところで爛々とした笑顔で階段を降りた。

 行先は中甲板。海中に沈んでいる部分の真ん中の階だね。

 船が狭く見えるのは、居住区がこういった見えない場所にあるという理由もある。


 辿り着いて見れば、やっぱあるよねといった感じにハンモックと伝声管。伝声管は上のアスレチックコーナーに繋がるというのが、子供心を擽らせる。

 そして中央にドンと置かれているのは水の貼られた大きな桶がドーム状のガラス覆われたもの。ジオラマのように陸地を模した地形が所々にあり、分岐した水流が流れているのが分かる。

 船の運転を体験できるゲームだ。

 本物に似せた舵があって、それを動かすと水槽に浮かべたミニチュアの蒸気船が動く仕組みだった。


 名前は『海賊の宝を探せ!』。

 航路が再現してあり、ゴールであるネッシー王国に辿り着くと下の階で使える商品券が発券されるのである。


 シャルはポケットに入れていた小銭を取り出そうとし、一旦動きを止める。

 合わせてボクは、バルザックに視線をやってお金を出させる。

 彼は無意識の内に「なんで自分が召使の様な事をしなければ」とか考えてしまう人間なので、反応が遅い。

 かわいい子の前では男は召使。良いね?

 ぶっちゃけボクのポケットマネーでも良いんだけど先程シャルが言っていた「父親たるもの、先ずはどういう所に行けば子供が喜ぶかを考える」を実践させておこうと思う。

 これも投資の一種か。親として大切なシチュエーションだから譲ってあげたのだ。


 投入口に突っ込むのは粒銅貨。価値は50ルメハで、レモネード一杯分。

 シャルがはじめてウチに来た日、エミリー先生が言っていた通り、自動販売機システム自体はこのように試作品が出来ているが、空き缶の弊害や貨幣の統一などの問題で、こういった場面にしか使えないのが現状である。

 ともあれ、丸い舵が小さな手によってガラガラと回された。


「ふ~む、こうかの?」

「う、うむ……。良い選択だと、私も思う……」

「そうか。じゃあ、言う通りにやってみようかの」


 シャルの運転に対する、バルザックの物凄くぎこちない言葉。

 頑張って共感を掴もうとしているのが解った。「ああすれば良い」という考えを押し付けないだけでも随分進歩したと感じられる。

 欠点は会話になっていない事か。

 故にシャルもニマニマと彼の眼を見て賛同。

 元々機械を動かすセンスはピカイチだっただけに、中々エキセントリックな運転でゴールに到着してみせた。

 玩具とは言えウイリーする船ってはじめて見たよ。


 と、いう訳で『海賊の宝』を使う為に、シャルが先頭に立って下に降りる。

 急いで階段を降りるのは危ないが、興奮を抑えきれないのでチラチラ後ろを見ながら、手すりを掴みながら早歩きでトントンと降りていく。

 良い子だなあ。


「とうちゃくっ!なのじゃ」


 床から一段上の階段。

 階段の低い位置から跳び、手を広げて着地した。

 流れるように最下甲板。実際の船ではキッチンがある所だね。


 周りを見れば窓が嵌め込まれており、水族館のように海中が見える仕組みになっていた。のんびり見る用に、樽ではない普通のベンチが置いてあったりもする。

 此処は休憩所なのだ。


 壁際には、駅の売店の様に小さなお店があった。

 早速商品券を渡して、チュロスとレモネードを全員分買った。

 レモネードのコップは後で返す仕組みである。

 シャルは「ツリは要らないのじゃ」とか言っているけど全然足りないので、不足分は再びバルザックに出させた。

 それで良い。

 細かく言えば、何でも子供に与えるのは間違いだけど、先ずは幸せそうにお菓子を食べるシャルを見て『与える贅沢』というのを覚えなきゃね。

 いや、ほんと幸せそうに食べるんだって、この子!


 ベンチにポテンと座り、サクサクとしたチュロスを口に咥えた。

 捻った揚げパンにシナモンやハチミツやらを塗っただけなのだが、このジャンクでチープな味わいが癖になる。

 「こういうので良いんだよ」と、ついおっさん臭い言葉を漏らしそうになる。

 ボクの膝の上で同じものを食べるシャルは、小動物のように口に含んでご満悦。

 ほら、やっぱ幸せそうだ。見ていて癒される。


 そんなシャルはピクリと眉を動かし、何かを見つけた。

 視線の先は、窓の方角。


「あ、ネモが女を連れているのじゃ」

読んで頂きありがとう御座います。


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