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400 それから

祝、400話!ヽ(*゜▽゜)ノ バンザーイ♪


夢見真由利様から、【子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました】1200話&ウチの400話記念のコラボ小説を書いて頂きました。

此方からどうぞ!↓

【原文】https://ncode.syosetu.com/n0124gr/1201/

【コラボまとめ板】https://ncode.syosetu.com/n5436hz/17/

 窓からは昨日と同様晴れた朝の日光が差し込み、回復の泉の水面を照らす。

 ボク、シャル、エミリー先生、アセナ。

 そしてついでに、暇そうだったバルザック。

 父上と母上は帰ったらしく、ちょっと残念。

 何時ものメンバープラスワンでロビーに集まり、代表として本日の仕事を皆に伝える。


「と、いう訳で本日はジョナサンのお見舞いにいきます」

「うわー、やったのじゃ。でも、良いのかや?」


 喜ぶシャルだが、そこには疑問符。


 確かに経験則として、今日から本格的な領主代行としての仕事が待っている筈だった。

 貿易港という事でそれぞれの国の規定を記した書類に目を通す必要があり、ケアレスミスでよく注意される。

 いざこざが起きれば「行ってこい」と裁判を任される無茶ぶりをさせられる事もしばしば。

 その時は読心術とアセナが居て物凄く助かったと思った物だ。


「ボクもこれまでの思い出から忙しさに襲われる事を覚悟していたんだけど、今回受け取った『仕事』はどうも違うらしいね」


 羊皮紙を取り出して目を通した。

 アセナとエミリー先生の二人も、脇から紙面を見ると納得したように思った事を口にする。


「『怪物化した住人の社会復帰業務』ねえ。

これは戸籍を再発行して終わりでも良しだけど……」

「フワフワした内容だけに、好みで『人格調査』とか『カウンセリング』とか、色々差し込む事が出来るね。

そうして遊んでいるだけでオリオンの滞在は終わってしまいそうだ」


 書面に籠められた気遣いの気持ちを感じつつ、階段を降りて迷宮をリフォームした地下室を進む。

 ジョナサンが地下牢へ『拘束』さているからだ。


 定番では迷宮は薄暗いものだが、普通に使う部分なので幾つもの魔力灯が備え付けられ昼の様に明るかった。松明を使う必要は無さそうだ。

 楽しそうにキョロキョロ見回すシャルが、ある物を発見した。


「お兄様、宝箱なのじゃ!」

「ああ、昨日の朝にお爺様が見せてくれたミミックだね。ゴースト系の結構レアなやつ」


 真っ赤に塗られて金の縁取りとか隠す気ゼロだな。

 パカリと蓋が開く。裏側には牙の様な物が並んでいた。

 内側から黒いモヤという本体が出てきて魔力波動を飛ばしてくる。


「『地下牢はあっちだよ』って言ってくれたのじゃ」

「なるほど。道案内をしてくれるポジションだったのか」


 元々知っていたが、折角なのでルンルン気分のシャルを先頭に置いてみよう。

 こうして彼女はミミックから聞いた事を思い出しながら、楽しく地下牢に到達したのだった。


 地下牢には沢山の人々が収容されているが、決して罪人ではない。

 ビーチでの戦いで操られていた人達で、まだ取り調べと言う名目で返されてはいないのである。

 見慣れた顔があったので話しかけてみた。屋台のボブ氏である。

 彼の頭に巻かれた包帯は、間違いなくボクのヨーヨーでの傷だろう。


「ボブさん、苦労かけるね。不自由とかない?」

「おお、領主代行の若様ですかい。

船の上や安宿なんかよりよっぽど充実していて、もう少し泊まっていても良いくらいですね。補助金出ますし」

「それは良かった。まあ、明日か明後日位には出れると思うからさ」

「カッハッハ。そりゃ残念で」


 お爺様は、町の人達が地下牢もしくはシェルターに居る間に街の復興を果たすつもりである。

 マトモに住めるようになるまで二日ほど。

 今まで通りになるまで一週間ほどらしい。

 思ったよりヤクモに辿り着けた『爆弾』が少なく、建物の破壊は少な目だったとか。


 しかし何もなくば不安は積もり、こうしてボク達領主一族が挨拶周りをするのはとても重要。

 昔からの付き合いというのもあり、やり取りはフランクに済んだ。

 安心していたのはお爺様が善政を敷いていたのもある。

 普段からの行いって大切だ。

 まあ、バルザックは見ているだけだったけど。


 そんなやり取りを終える頃には、封印された特別な部屋に行き当たる。

 武骨な鉄の扉を開くと、ピーたんとジョナサンに会う事が出来た。

 こんな近くに居て大して時間も経っていないのに、凄く懐かしい再開に思えた。


 けれど感傷を長く感じる事は無かった。

 ボク達が見た二人は、鉄格子を挟んで向き合う状態という、痛々しい姿であったからだ。

 この物理的には一歩で届いてしまう距離は、ボクが先程歩いて来た迷宮よりもずっと長い。


 ピーたんは何時ものグルグル眼鏡は掛けておらず、髪も降ろしている。

 つまり、ジョナサンにとって一番記憶にある『アンピトリテ』の姿という訳だ。

 彼女はボク達の方に向くと、儚げな笑顔で迎えた。


「おや、お茶でも持ってきてくれたのかな」

「いや。お茶を淹れるのは君さ。君達はこれから家に帰り、ボク達にまた振舞ってくれれば良い。つまりは、釈放だね」


 ピーたんは眼を見開き、猫のような顔になる。

 しかし直ぐに表情を戻すとムズムズと笑い出しそうな表情を我慢し……やはり耐え切れずに輝くような笑顔を作った。


「本当かい!?随分早いんだね!」

「ボク達が居る間に、最後まで『君達の物語』を見届けさせようとするお爺様の温情さ」

「ふふ、子供の教育に熱心な方だ」


 『物語』の主役である彼女はテンションを元に戻し、もう片方の主役であるジョナサンの姿はすっかり人間に戻っていた。

 とはいえ、これを『戻る』というのは案外適切ではないかも知れない。


 確かに当時の年齢のままの容姿であるが、急激なストレスの影響なのかかなり瘦せていて、伸びっぱなしの長い髪は全て白髪になっている。

 まるで廃人のようでハッキリした意志は感じられないが、その目は鉄格子の向こうからピーたんの方をジッと見ていた。

 何故か耳がエルフの様に尖っているが。


 シャルがピーたんに聞く。


「あの耳はどうしたのじゃ?」

「私の細胞を入れまくったせいか、エルフになってしまってね。

……正確には、半魚人とエルフのハーフってとこ」

「それで良いのかや?」

「私は良いと思うな。この方が周りに夫として紹介する時に便利だし。

人間とエルフの恋愛は悲劇で使い回された鉄板ネタだから、近所付き合いとか考えると半魚人である事を隠す、良い設定だと思う」

「確かに同じ時を歩めない的な意味で、よく見るの」

「そうそう。で、恋愛ネタは誰もが好きだから、昔はよく団地妻の皆様方に弄られたものさ」


 苦笑いして溜息。

 劇場にもウチの本棚にもよくあったもんなあ。後は吸血鬼に仕える人間なんかも鉄板か。

 英雄譚なんかだとエルフっていう個性が際立っているのと、物語の流れに変化を付ける為の恋愛要素は便利だからなあとしみじみ。


 彼女は爪で鉄格子の間を『叩いて』いた。

 叩くと同時に透明の波紋のようなものが発生して、ゆっくりと消えていく。

 格子を端子としたバリアフィールドで、鉄なんか簡単にひん曲げるような危険人物を閉じ込める仕組みである。

 なので正確には鉄よりも遥かに硬い合金で作られているのだが、個人的に『鉄格子』の方が分かり易いのでそう呼んでいるのだ。

 真実でなくとも分かり易いネーミングは大切という事だ。


「しかし、ジョナサンが再び暴れ出すとかは考えないのかな?

私が情に流されて、檻から出した途端にグワッと来るかも知れないよ」

「それは大丈夫。ボクには優秀な盾と矛が居るから」


 ボクは自身を以て返事をした。

 そしてぐるりと目をやれば、エミリー先生とアセナが頼もしく頷いてくれる。

 ずっと液体金属で攻撃を防ぎ続けてきたエミリー先生と、身体能力だけで半魚人と渡り合えるアセナが居れば、怖い物なんてなにもないさ。


「それに思っていたとしても、まだそれ程の元気はないでしょ。

せめてそれ位の元気を取り戻す為にも、自宅療養の方が彼にとって良い事なんじゃないかな。

なんせその場合、一番に犠牲になるのは君だ」

「あっはっは、次期領主殿は薄情でいらっしゃる。随分豪胆になったものだ」

「予想内の事だからね」


 パチパチと軽く拍手をするピーたんの隣。

 ジョナサンは椅子に座り、口を半開きにし、ボンヤリと宙を眺めていた。

 どうもまだ身体が慣れておらず、神経や脳などが安定するのに時間が掛かるようだ。

 まるで精神病院の患者である。


 さて、車椅子を取ってこなきゃね。

 この流れの為に、お爺様がこの部屋の隅っこに置いておいたんだ。

挿絵(By みてみん)

お絵描き。現在のジョナサン


読んで頂きありがとう御座います。


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