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388 スターダスト・メモリーズ

 文明の程度が同じなのだろう。

 敵の宇宙戦艦は、旧魔王城より放たれる攻撃を受けるも、卵の殻を半分に割ったようなバリアで防御し沈没の気配はない。

 そして数秒後、攻撃の隙間からチラリと見えた砲台が閃光を放ち、ボク達の目の前は真っ白になった。

 うおっ。眩しっ!


「まあまあなビーム砲じゃの」


 此方もバリアで城を包み落城を阻止。

 永遠に思われる光の時間が終わると、窓のすぐ近くに巨大な宇宙戦艦がズイと近付いてきていて、細かいディテールなんかもよく見える。

 その内の筒状の砲台の上に、ヤクモが腕を組んで仁王立ちしていた。

 とても楽しそうな表情である。


 お爺様が指を鳴らすと、窓がせり上がり部屋と外界が繋がる。

 宇宙戦艦の喧しいプロペラ音が一気に流れ込んできた。

 シャルがボクに対して、思った事を素直に聞いてきた。


「窓を開けたら攻撃が飛んで来るんじゃないかの?」

「心理的には互いにそうしたいところなんだろうけどねえ。

どちらも直ぐにバリアを展開出来るから出来ないんだ。寧ろこのまま硬直を続けていると、宇宙戦艦には街を焼き払うって選択肢が出て来るからこれで正解だね」

「ほへ~」


 素直に感心してくれるシャルの頭を撫でておくと、お爺様が此方にやってきた。

 ポンと背中を押し、窓のあった所まで連れていく。

 言われてはいないが、先ず子犬の様にシャルが後ろへ付いて来て、更にエミリー先生とアセナ。そして母上がゾロゾロと続く。


 街を見下ろせるだけあり、いつ見ても此処は絶景。

 それ故に、命綱無しではヒヤリとするね。

 城に備え付けの拡声装置は、もう既に機能しているらしい。

 ボクは叫んだ。


「なんで態々、悪い事をするんだ!

平和に生きればそれで良いじゃないか!」


 もう、大体分かっているんだ。

 それでも直接生の声をぶつけざるを得ない。

 それこそ、お爺様がボクを此処へ連れて来た意味でもある。


「ふむ。そうだなあ。

それには涙なしでは語れない、俺の身の上話を聞いて貰わなければいけない」


 向こうから返って来る拡散音声には、本当に世間話をする時の気持ちが籠っていた。

 この異常な状況こそ、彼にとって日常であるかのように。


「俺の元居たトコってさ、ザックリ言えば宇宙規模で二つの勢力に分かれて戦争をしているのね。

で、俺自身は、そんな戦争の『拠点』の『責任者』の弱味を握って事で裏から支配する裏から支配する『スキマ商売』を行っていた訳だ。

『地球』って勢力に属する『火星』って名前の拠点なんだけどさ」


 知っている。太陽系第四惑星か。

 21世紀から更に進み、地球からの植民に成功した世界線は幾つか発見されているが、その内の一つらしい。

 『宇宙規模で戦争』という事は、火星の他にも植民した惑星があるか。もしくは巨大な宇宙ステーションなんかもあるのかも知れない。

 宇宙人でも現れたか、人工知能が暴走でもしたか、宇宙移民が独立でも宣言したか。

 戦争の理由は、お約束展開が多すぎて考え出せばキリがないな。


 考えているとゆったり、宇宙戦艦が此方に近付いてくる。

 プロペラの音が肌に当たり、危機を感じた母上がボクを守ろうと前に出ようとするが、手で制す。


「母上、大丈夫です。ヤクモにボクを害する気はありません。今は。

そしてボクも、ヤクモに近付くべきだと思っていました。

貴族の基本は話し合い。そして話し合いとは、面を向かってするものですから」


 これは『宣戦布告』だ。

 少なくとも最終的にはソレで締めるのだと、理解出来た。

 貴族として弁論の教育を受けて来たのもあるが、何より生物単位で相容れないと胸の奥からざわめき続けている。

 だったら声だけじゃない。細かい表情だって交わす必要がある。


 ヤクモの顔は、悪意たっぷりにニヤついていた。


「そんな順風満帆なヤクザライフを送っていた俺達なんだけどさ。

ある日、地球の敵対勢力に本格的な軍隊で攻められて星を乗っ取られちゃったのよ。

でもギリギリ数人生き残って、この戦艦『ジャバウォック号』で逃げた訳だ。

地球軍の最新型を横領して外装だけとっかえたヤツだから、性能はかなり良いんだぜ?」


 そこでアセナがはっと気づいて、声を出す。


「なるほど。周りから『若』『若様』と呼ばれる時があるのは、『組長』が別の惑星に居る『若頭』という意味か!

つまり『本部』に逃走する際中だった」

「お、詳しいな……ん、その耳と赤毛。もしかしてお前が『アセナ』か。

ちょくちょく『ネズミ』として聞いているが、こら失礼。『犬』だったとはな」

「『狼』だ。アンタがアタシ達にやった事、忘れたとは言わせないよ」


 エミリー先生もコクリと頷く。

 パノプテス家の違法娼館の本質は、ミアズマへの改造人間素材の供給。

 ルパ族は悪事の片棒を担がされた屈辱を味わったし、エミリー先生は子供を産めなくなってしまった。


 しかし、当のヤクモは顎に手を当て、首を傾げるとたった今思い出したような表情を閃かせる。

 そしてその答えは、予想とは違ったものだった。


「ああ、あのルパ族を大平原から追い出した反乱の事か。確かに大規模だったなあ。

しかし、あの状況からよく俺達が黒幕って辿り付いて……え?違う?」


 まさかのルパ族崩壊の真犯人発見である。

 「それも私だ」ってか。


 アセナは目を見開き青筋を立て、ボクが気付いた時にはメモ用のペンを投げつけていた。

 投げナイフの原理と獣人の筋力で放たれたソレは、ライフル弾と差し替えない威力と速度を誇る。

 しかし所詮は対人兵器。バリアで弾かれる。

 そのまま八雲は何事もなかったかのように話を続けた。


「ああ、後の話ね。まあ、生きてりゃそういう事もあるわな。

それに俺はあくまで手を貸しただけで、反乱自体は普通に考えられていた事だぞ。

なんか強靭な身体能力の獣人は一族を纏めて侵略国家になるべきって事で、保守的な政策が気に入らなかったんだってさ。

今はこの国の国境にあるミュール辺境伯領で足止めされているけど、その内零れ落ちたのが来るかもなあ」

「ざけんな……。

父様も、母様も、みんな死んだんだぞ!」

「すまんすまん。

まあ、これ以上この話を続けて脱線するのもアレだな。後はググってくれ。人力で。

でだ。そこのアセナの言った通り、僅かな生き残りの俺達は地球の『組長』を頼って火星を飛び立った訳なんだが、途中で巨大なワームホールに飲まれてなあ」


 微笑を浮かべたヤクモは、青い空を仰ぐ。

 その目はとても真っ黒に無垢で、故に邪悪過ぎた。

 『純悪』とでも言おうか。


「気付くと戦艦ごと、異世界転移していた訳だ」

読んで頂きありがとう御座います。


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