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385 ジジイ無双〜後悔してももう遅い〜

 少し頭の中で整理する。

 住人の避難には内乱を利用した。この計画は以前から存在していた。

 つまりお爺様は、ジョナサンがボク達を襲うのを知っていたという事になる。


「ジョナサンとビーチではじめて戦った時ですか。

ヤクモの事が前々から解っていたという事は、バルザックとジョナサンの密会も知っていたと」

「うむ。決行日に向けて動いていたようだの」


 悪の化身のような存在は、チラリと隅っこに視線を移した。

 そこには細々と食事をしているバルザックが居る。

 流石にコミュニケーション能力が崩壊している彼でも、気まずそうに身を窄めた。


「実はの、ヤクモの『戦力』を予め削いでおく為にプテリゴ号は敢えて『盗ませた』のじゃよ。

『単独行動でも十分』と思わせるバランスに調節しておる。

密会を聞いた限り、どうもコイツは野心家じゃ。故に『挑戦』『探検』に熱を出す。かつての儂がそうだったようにの。

単独で挑戦するので持って来る装備に限りがあり、それは奪還専門性に特化した物となる。

裏工作も強奪に殆どを費やすじゃろう。なんせあそこは『軍事要塞』だからの」

「ジョナサンの目論見が成功したらどうするつもりだったので?」

「ああ、それなら問題ない。『こいつ等』を援軍部隊に混ぜておいたからの」


 窓ガラスに指差すと、そこがモニタとなって街中の状況が映し出された。

 思えばウチの初代様もこんな感じで城の中の情報を得ていたっけ。つまり、これは虫ロボのカメラを介した映像だと思われる。

 魔力の関係で電波は使えないが、意外と代用技術は存在するらしい。


 映像内で夜の街を駆けるのは、なんと複数の『半魚人』だった。

 避難完了した一般人の居ない街で、銃も爆弾も重力操作も効かない彼等からヤクモは逃げ回っていたのだ。

 姿はどちらかと言えば、人間寄り。ジョナサンよりもピーたんに近い。


 ボクの予想を大きく上回り過ぎていた事態である。


「はあっ!?」

「ぶっちゃけると、学園都市に働きかけて半魚人化をコンペから落としたのはワシじゃ。

落した上で『軍事利用』する為に技術を買い取り独占した。

『表』の連中は中世のお伽噺の様にドラゴンがまだ強大なものだと勘違いし、現代における半魚人の強さをお伽噺の中で済ませておく位が丁度良いんじゃ。

形態変化もあるので使い勝手も良く、暗部専用の秘術とさせて貰ったの。複製したチート等を精鋭に持たせるのは珍しくないのでな」


 お爺様は海賊として『外』の半魚人事情を知っていたし、旧魔王城は過去の記録も豊富である。

 半魚人の危険さを最も知れる地位に居るお爺様は、技術を独占する為に何十年も前から裏工作を張り巡らせていたのである。

 海賊をやっていた最中もハンナさんと手紙のやり取りはしていたし、暗部の暗躍はあったと思われる。


 コンペに受かって公共の技術になるという事は、多数に認知されるという事。

 ピーたん個人には嬉しいニュースかも知れないが、お爺様の様な支配者にはあまり嬉しくない事なのだ。


「それならコンペに出される前に、研究中のピーたんをそのまま取り込んでおけば良かったのでは?」

「ありゃ、百年以上も研究を続けておる意地の塊じゃ。下手につつくより満足させてから取り込んだ方が良い」

「了承したのですか?」

「基本的にアイツはバルザックと同様、世俗の騒乱に興味のない隠者だからの。コンペ落ちした直後の執着の無さを突いた。

『さりげなく』近づいて、似たような事件があった時に、一人に全てを押し付けず対処できる手段を用意しておいた方が良いと言ったら納得してくれた。

なんだかんだで、一世紀半前の領主と比べれば指導者として信用されとるのもあったの」


 そういえばピーたんって、他人が半魚人になることに対しては特に何も言ってなかった。

 この辺が倫理観の違いというヤツか。


 間違った使い方をしないと信用出来るなら、技術を渡すのも吝かでもないという事だな。

 公に広めるのが危険だと解っていながら学園都市に提出したのも、第一に思いついた信用できる提出先だっただけとの事。

 学園都市校長は、まだ生きているけど母上のご先祖様。つまりは長命種(エルフ)で、ピーたんの友人だ。

 博士として、オリオンと学園都市をウロウロしていたピーたんにとって、お爺様との物よりずっと強い絆と言えよう。

 だから裏工作で公への発表を切って、お爺様の方に向かせたという訳だ。


「さて、それでは住人の避難の話じゃ。

避難先はこの街の各地に予め用意した地下シェルターで、核爆弾程度ならビクともいわん。

宇宙開拓文明の移民船の技術である、ろ過システムとプランター技術を用いて半永久的に暮らす事も可能だの。

宇宙で自給自足するに比べたら、水も酸素も身近にある穴倉生活など恵まれたもんじゃて。

まあ、一般人には『ちょっと広い防空壕』程度に伝えておるが」

「よくパニックも起きずにすんなりといきましたね」

「海賊をやっていた頃は、占領地に他の海賊が攻めてくるなぞ日常茶飯事でな。

定期的な避難訓練は徹底させておるし、アセナなんかのマスコミを使った情報操作でドラゴン反対派という普段から『怪しい人間』が居る事はほのめかしておいた。

街でもよく見る程目立っておったじゃろ?」


 ネモと初めて会った時、シャルが発見した連中だな。

 あれって泳がされていただけだったんだ。

 つまり街中の人達としては「とうとう事を起こしたか。前からやると思っていたんだ」といった所か。

 きっと安心できるように、シェルターの中はリゾート地みたく居心地は良いんだろうなあ。


「後は援軍の親衛隊が街中を動き回って、ついでに避難地まで案内すればオーケーじゃ。

ヤクモ視点では。己の計画している『ビーチでの襲撃』が上手くは進んでおるだけなので、警戒心もそこまで高くない。

後は地元民と軋轢を生まないようにという理由を使い『外国人向け』のシェルターに一般人として案内して、仕掛ける。

ヤツと一緒に避難した『外国人達』は全員ワシの兵じゃしの。多人種で形成されるネッシー王国から連れて来た」


 計画の全貌を語り、ニマリと老獪で無邪気な笑みを浮かべた。

 問題のある下級貴族達は冷酷に処分して、住民は余計な行動を起こさないよう『閉じ込める』。その間に全てを終わらせる。

 それは奇しくも、ジョナサンが半魚人と戦っていた時代に「それをしていれば良かったのに」という答えだった。

 この時に生じた住居や配管などの損害はお爺様が全て負担するし、責任も全て受け持つらしい。


「そのままシェルターに完全に閉じ込めて酸素を抜いてしまえば勝てたんじゃが、途中で気付き逃げおった。

まあ、その辺の小癪さは予想の範囲内じゃったがの。

海賊をやっていた時も、ある程度の水準を超える『英傑』になると罠が効かなくなってくる」


 ガラスモニタには、ヤクモに飛び掛かろうとする人間爆弾が映っていた。

 ヤクモは大振りな拳銃を取り出すと、到達する前に銃撃で頭蓋を粉砕。中身がザクロの様に飛び散る。

 周りを確認したのちに下水道に逃げ込んだ。


 シャルにはショッキングかなと隣を見たら、ゴクリと息を呑みつつ、寧ろ忘れないようにしっかりと見ていた。

 ボクの婚約者としての覚悟を伺える。頑張ったねと褒めてやりたいが、此処は黙って認めるのが正解だと思うので何も言わない。


 一方でお爺様は、冷酷な目付きをモニタに向けている。


「しかし、じゃ。ワシの街でナメ腐った事をしおった罰を受けて貰わねばならん。

……やれ!」


 一転。

 お爺様の暗い声色は、マイクを通して現場に伝わった。

 逃げ込んだ下水道の入り口に、ドラム缶を積んだ沢山の馬車がやって来る

 ドラム缶には『劇薬』と書かれた注意書きと、空気より重い毒ガスの名前が書かれていた。

 しかし旧魔王城の設備があれば浄化出来る。住民に知られれば風評被害は免れないが、そんな事はないと、これまでの『鬼ごっこ』が証明している。


 これだって、もしもジョナサンがヒーローをしていた時に実行していたならハッピーエンドで終われたかも知れないやり方。

 領主が協力的でなかっただけで、ピーたんには毒物を調合できる能力そのものはあったのだから。


 おいおいどうするんだ。

 このままじゃ寿司を喰っているだけでラスボスに会わないまま勝てそうだぞ。

読んで頂きありがとう御座います。


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