376 お爺ちゃんは語りたい
ピーたんとネモを加え、ボク達は旧魔王城に帰っていた。
相変わらず個性的なビジュアルであるが、無駄に金色な部位がピカピカと反射したり、悪魔の像の目や口が光り出したりと薄暗いとより映える物がある。
完全な夜だともっと綺麗だろうね。
中に入ってお爺様に今までの経緯を伝えると、ありのままに「そうか」とだけ受け止めた。
そして彼は情に触れず、この状況における実用的な戦い方について教えてくれたのだった。
今回ジョナサンが使ってくる人質作戦は、海賊の世界ではまあまああり触れている物らしい。
例えば商人の船を拿捕して全員を催眠にかけ、救助に来た船を襲わせる等。
なので例え元味方だったとしても既に死んだものと判断し、有無を言わさず火矢や大砲やらを打ち込んでおくのが『普通』の対応だとか。
ボクがバルザックを助けたいと伝えていなければ、容赦なく人質ごと旧魔王城の設備で海に沈めていたんだろうなあ。
「色々と面倒な説明は省くが儂の読心術である『風読み』は、海で何が起こっているかをレーダーの如く見通す。
でじゃ。今の奴らは岩陰に待機しとる。海流が急な場所じゃし、洗脳された人間が落ちたら助からんじゃろ。
人質を助けるのが目的ならダラダラ『城攻め』を続けるよりも、攻めて来たところの横っ腹を足の速い船で奇襲し船上に飛び移って全員を捕縛した方が犠牲は少なめじゃて」
そうした流れで、早速戦支度がはじまった。
当初の予定では歓迎会という事で豪華な宴会料理にする予定だったが、それは後回し。
代わりに渡されたのは一皿のみ。サラダやツマミを盛る時に使うような小さいものだ。
上に乗っているのは水分を飛ばして水分を少なめにしたリゾット。粥というより普通に炊いたご飯の印象。
その隣には、握りこぶし程のハンバーグが添えられていた。リゾットを作る過程で作るのだろう、焼くではなく煮込んで作られている為アッサリした色をしている。
「古代の兵達が遠征時に食っていたもんでな。料理人に急ごしらえさせた。陣中食には丁度よかろう」
木匙で米を口に含むと、ぶどうジュースと魚醤で煮込んだ味が口いっぱいに広がり、中に含まれた刻んだセロリのシャクシャクした歯ごたえが良い。
ハンバーグは、まあ普通に玉葱が入った豚肉のハンバーグ。つなぎには片栗粉を使っているのが解った。
つまりは、遠征時でも手に入る食材で出来ているという事だな。
「腹はいっぱいになったか。それではちとついて来い。見せたい物がある」
向かった先は薄暗い階段で行く、旧魔王城の地下ダンジョンだ。
本来は勇者に攻め込ませる為の施設なので迷路であったのだが、代官屋敷城として使用するにつれて細かな改造が施されている。
迷路を小部屋に分けたり、もしくは通路を太くして伸ばしたり。
此処は海沿いの施設なので『海に繋げる』という事も十分に可能である。
更に広げれば地下港の出来上がり。
プテリゴ号の時よろしく、地下の小さな船着き場からトンネルを通り、船で外へ行くというのは要塞ではよくある仕組みだった。
そこには一隻の黒い船が停められていた。
蒸気機関が発達した今では小型船としてカウントされるが、嘗ては使い勝手の良い中型船として大航海時代の冒険者に愛された、キャラック船である。
三本のマストを持つのが特徴で、そこにはデカデカと海賊旗に使う骸骨のシンボルが描かれていた。
まあ予想通り。寧ろ期待通りとでも言おうか。
お爺様は、ポツリと船について語る。その目には哀愁が籠っていた。
その後ろにはお婆様が付き添っている。
「【バンディット号】。
この船で婆さんと二人で家を飛び出し、現役時代は最初から最後まで愛用していた」
「……それにしては小さくありませんか?お爺様の海賊団って最終的にかなりの大艦隊だった筈ですよね」
ウムと軽く頷いたお爺様は、己の髭を撫でる。
「最後は旗艦ではなかったしの。だが独自の便利さがあったので最後まで使えたといったところじゃ。
……アウトロー全てに言える事であるが『奪って去る』という性質上、海賊船は『獲物』に近づき易いよう小型の方が使い易い。
そして仲間や軍隊を呼ばれる前に撤収する必要もあり、素早くあるのが望ましい。
つまりはヒット&アウェイじゃな」
彼はニヒヒと、此方を見て楽しそうに笑った。
ボクが自分で答えに辿り着けない間は、海賊時代を語れなかった分嬉しいのかも。
「己の鑑定眼を頼りに価値ある物だけを積み込み、他は置いていくのが儂らの略奪じゃ。沢山宝箱があるからと全て持って帰るようでは務まらん。
だから小麦や衣類なんかの日用品を取り扱う商人は、基本的に襲わんのじゃ。
街や国を侵略する時は艦隊を動かすが、平時は大人数を拠点としている港町に置いて、コレを使って偵察や奇襲を行うのが儂らのやり方じゃった」
ボクは水兵なので造船にもそれなりの知識があるが、よく見れば素早く動けるように魔改造が施されているのに気付く。
ちょくちょく最新の技術も混ざっていて、手入れも欠かしていないのが解る。
その改造の方向性は夢の世界で見た『ミサイル』を思わせた。
守りは無視。攻める為だけの船だ。
脱出しても良いし、攻め滅ぼしても良い。
貴族的に飾って楽しい武器ではなく、いざという時に懐に忍ばせ反撃する為の武器を思わせた。
使い勝手としては『槍』に近いので、懐に忍ばせるというのも妙な話だが。
「そして今回は、コレで横っ腹を突く訳ですね」
「うむ。じゃあ次に必要なのは?」
「捕縛する為の道具でしょうか」
「半分正解。何故なら、お前は既に道具を持っておるからじゃ」
「えっ?」
そう言ってお爺様が取り出したのは、拳銃。
ただし先端に鏃を十字に重ねて大きな返しを付けたような物が付いている。突き刺さったら外れない、捕鯨銛にも似ているかも。
本体にはかなり大振りでボイラのような物が付いている事から、錬気術を用いた蒸気銃である事も解った。
「これはワイヤーガン。儂の当時の相棒じゃな。
蒸気で発射したワイヤー付きアンカーを目的地にめり込ませ、銃内のトルクを用いて引き上げる事で移動したりと応用の幅が広い。
狭い船でコレを使いこなせれば無敵と言えるじゃろう」
「あ、そういう事ですか」
パッと思い浮かんで取り出したのは、金羊の紋章が描かれた時計型ヨーヨー。
「使いようによってはワイヤーアクションも出来る」程度に考えていたのだが、今更になってお爺様がコレを送って来た意図が伝わって来た。
クスリとお婆様が笑っている。
「アダマス君に自分の技を教えるのが楽しみでしたものね」
「応とも!なんせ孫じゃからの。
本当はオリオン代官に赴任した際に教える予定だったのじゃが、こういう機会も良い。
こんな時の為に便利な『必殺技』をひとつ教えてやる。
まあ、儂の孫なら付いてこい!」
その目は夢見る子供のようにキラキラと輝いていた。
──尚、修業パートとかは時にないです。
ついでに、なんかハンナさんの声が聞こえた気もした。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ下の評価欄をポチリとお願いします。励みになります。




