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361 変身時間が長いからこっちの準備が終わるまで待ってて

 滑空からの着地はまるで落下のようだった。

 上空からは同じに見える砂地は、みるみると。しかし急激に、隆起や色などに違いがある事が判断出来るようになってくる。


「着地ィ!」


 アセナの言葉と共に、窓の向こうで膨大な砂しぶきが舞う。

 ホエールに付いたサスペンションやら鉄箱の内側にある緩衝材やらで緩和されている筈なのだが、そうは思わせない衝撃が鉄箱を介してかかってきた。


 驚いたシャルがかわいらしい声を上げてボクにしがみ付いて来た。


「ひゃんっ」


 こんな所で逃げ場も無し。

 ボク自身が緩衝材になれればそれで良し。

 加速しながら舞い上がる離陸と違い、ズンと落ちるような着陸は別種の恐怖があり、アポロも怖がる訳だと納得させられた。


 マニュアルに沿って、ライダーが蓋を開けるまで鉄箱の中で待機。

 砂が晴れて来た辺りで、此方に近付くアセナの身体が近付いてきた。

 ドラゴンに乗る為の格好という事で、一応水着からは着替えて何時もの格好だ。あまり水着と変わらないとは言っていけない。


 鍵を開き、ボンヤリした陽光が注がれる。

 上を見れば、褐色肌の見慣れた笑顔と向かい合った。


「よお、ちみっ子諸君。空の旅は如何だったかな」


 だからボクは彼女に握手をするよう、手を差し出す。


「ん~、そりゃ最高さ」

「肝っ玉が強くて何よりだ」


 差し出された手首がガシリと掴まれて、ニンジンの様に引っこ抜かれる。

 その後に脇を掴まれて上から出るが、この方法は不便だなと感じた。流石に前に扉を付けるのは危ないとは解っているんだがね。

 アポロの手を階段みたくして出ちゃいけないんだろうかとも思っているんが、それはマニュアル上、安全の関係でダメとあった。


 こんなに良い子なんだけどなあ。

 とはいえ貴族のボクが言うのもアレだが、今後生まれてくるドラゴンがアポロ程良い子でないと考えるなら、仕方のない処置なのかも知れないけれど。


 と、そこで声を上げるのは母上。

 彼女は特に着替えていなかったので、ネモと同様に水着のままだ。しかし偶然とはいえ、元の豪華なドレスに着替え直してなくて正解だったかもしれない。


 アポロに乗るときは重力波で張り付いていたのだから布地が少ない方が、風圧が掛かり辛いし、優雅とかけ離れた『今の姿』は酷いものがある。


「ピーたん。さっさとシャワーを用意しなさい!」


 一見して砂人形を思わせた。

 例えば海で遊んでいて、砂場にダイブして身体にベットリと砂がついたりするだろう?正にあれだ。

 砂浜に着地して舞い上がった砂をモロに浴びたのだ。

 因みに隣で未だアポロの横……つまり翼の近くに安全帯で固定されているネモはもっと酷い事になっていたりする。


「ん、お帰りなさいまし~……って、第一声がそれかい」


 扉から出て来たばかりのピーたんは渋い顔で応えた。

 瓶底メガネで眼付きはよく見えないが、感情は言葉通りに愉快な物でないのが解る。


「当たり前でしょう。こんな格好じゃおちおち話す事も出来ないわ。ちゃんと着替え用のドレスとお茶菓子も用意しておきなさいよ」

「でも私とじゃサイズが……」

「旧魔王城に早馬を走らせなさい。さっき上から見たけど、ちゃんと馬も飼育しているのね」

「馬を飼育するには十分過ぎる設備はあるから持っておくと便利だからね。

それにしても来て早々にソレとは、傲慢だなあ」


 貴族夫人に対してかなり砕けた態度でいるのは年の功。

 それを承知で母上はフンスと鼻息を立て、胸を張って腕を組む。


「当然よ。これから長い話になるんだから。

……アダマス、折角だし喋って。貴方なら出来るわ」

「あ、はい」


 と、いう訳で、教育の為の何時もの代役。

 お姫様抱っこで降ろしている最中のシャルを、そっと地面に立たせて問いに答える。


「ピーたん、君は半魚人化したジョナサンがバルザックとやり取りしていた事に気付いていた」

「……ふ~ん、どうしてそう思う」


 ピーたんもボクと古い馴染みだ。

 アセナ・ハンナさん・母上が何時も同行するので、このやり取りには慣れている。

 彼女は否定する事なく、只何時もの様に返した。

 「さっさと」と言われた割にシャワーを用意していないが、母上としてはセーフらしい。


「それはジョナサンが半魚人化して長い年月が経った後も、半魚人の研究を続けていたから。

勝手な解釈だけど、『当時』彼に対して『何も出来なかった』センチメンタルなんだと思う。違うかな?」

「……そうだね」


 彼女は否定しなかった。

 何時もの彼女は適当にはぐらかすというのに、こういう態度を取るという事は、逆にボクにはじめて向き合ってくれたのかも知れない。

 長命種にとってボクと接してきた12年なんて一瞬だから。


「そんな君が、ジョナサンが『来た事』を感知するシステムを作っていないなんて、ちょっと想像するのが難しい。

そもそも動きが活発化している最近は、近場の漁師にだって目撃証言があったくらいだ

特に催眠を行う、あの魔力波動は独特の物だ」


 と、そこでハッとある結論に思いつく。

 ピーたんが研究していたのは半魚人化であるが、そういえば『誰で』実験したのだろうと。

 そしてボクの考えが正しければ、彼女がジョナサンの行動を知る、シンプルなシステムが出来上がってくる。


「ねえ、まさかピーたん……『自分自身』を半魚人に改造してたりする?」

「正解。折角だし、ちょっと見せようか」


 瓶底眼鏡を外す彼女は印象がガラリと変わる。

 エルフに特有の鋭い目つきだ。『今までの自分ではない』という覚悟が肌に当たる。


「そして話そう。私と、バルザック君。そしてジョナサンの物語を!」


 そして彼女は髪を二つのお団子にしていた留め具を外し、ファサリと長いウェーブロングが解放される。

 ピクピクと身体をゆっくりと震わせると側頭から早送りで成長を見るように、珊瑚のような角が生えてきた。

 ジョナサンの物と似ているが、此方の方が遥かに大きい。

 と、ここで母上から一声。


「それは私がシャワー浴びてからやってくれない?」

「……真面目な場面なんだけど」

「知らないわよ」

「はいはい。さいですか」


 こうしてピーたんは早馬にドレスを取りに行かせ、母上とネモにシャワーを用意し、ついでにお茶も入れる。

 生えかけの角が妙に哀愁漂っていた。

読んで頂きありがとう御座います。


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