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352 会いたくて。誰かに会いたくて。

「対シーサーペント用魔力波動砲、発射!」


 アンテナ形態にしたクロユリから魔力波動が放たれた。

 空気が揺れ、エミリー先生の髪が煽られる。


 後から聞いた話であるが、リトルホエールを取った時と同様に、生物は魔力波を当てる事で心に干渉する事が出来る。

 なので、強力な力を持つ大型生物の攻撃手段として有効であるという。

 水中の抵抗も考慮しなくてはいけないが、寧ろ流体力学に沿って海の魔力と動きを利用し、まるで風を利用する弓使いよろしく当てるのは流石の天才エミリー先生。


 欠点としては、この時にシーサーペントが既に洗脳されているのなら、意思の疎通は不可として効果の無い装置でもあるという事だが、貴族権限を持つ集団に襲い掛かるならそれは無いとの事。

 無理やり従えた場合は、途中で解除されると意味が無くなるからだ。


 寧ろ魔力波動によるコミュニケーションを用いて、時間を掛けて飼い慣らした魔物であることが考えられるらしい。

 ただし相手は大型生物となる為、会話に近いコミュニケーションを取る程の脳への干渉には結構な高出力が必要でもある。

 勿論、人間はそんな気軽に高出力の魔力波動を撃てない。


 だが、一部の魔物にはそれを可能とする事で別の魔物と共生して、一緒に狩りを行うという例は多数報告されている。


「グオオオオオオオオ!」


 空気を打ち破る叫びと同時。

 静寂な海面を貫き、天に向かって水柱が撃ちあがる。

 エミリー先生の魔力波によって、苦しみを与えられたシーサーペントが飛び出したのだ。

 その全長は予想通り、10メートルを超えている。


 海中に潜んでいる間は見えなかった細い縞模様の入った深緑のウロコが黄昏時の陽光に反射して、エメラルドグリーンの輝きを放っていた。

 ウミヘビらしい細長い顔には、山羊のように細長く黒い瞳。

 天空に向かって大きく開かれた口からは、二又に割れた舌が飛び出していた。


 ……ん?

 太陽の光で見えづらいけど、口から人影っぽいものが吐き出されたような気が。


 思うと同時、その一瞬。

 ボク以上の索敵能力で何かを視界に捉えたアセナは、叫ぶ。


「見つけたあああ!」


 素足で状態からアポロを踏み台にし、弓矢の如く跳ねた。

 目標は、うねり続けるシーサーペントの身体。正確にはその鱗。

 彼女はシーサーペントの腹に『横から着地』した。壁に立っているかのような芸当だが、よく見ればロッククライマーのように手と足の指で鱗を掴んでいるのが分かる。


 そして、直後の行動を見て、ボクが思い浮かべたのは『波乗り(サーフィン)』だった。

 あれって適当にイメージだと、サーフボートは波の上に乗っている様子を思い浮かべがちだが、実際は波の内側を滑るようにして乗る。


 今、アセナは暴れ狂うシーサーペントという『波』を乗りこなしているのである。


「どりゃああああ!」


 シーサーペントの筒状の身体に沿って、腹から背中。そしてまた腹へとらせん状に壁走りで駆け昇って行く。

 振り落そうとする力を逆に使って上昇しているのだ。

 目指すは頭の更に上。

 首元の鱗を掴んで空中ブランコのような格好で四肢を広げて飛び、更に弱点である鼻先を蹴り潰して宙を往く。


 そこに宙を飛んでいた人影が『居る』。

 今までシーサーペントの口に隠れていたが、苦しむと同時に吐き出されたのである。

 アゴアマダイなど卵を外敵から守る為に、口内に卵を入れて保育するのと同じやり方だ。


 アセナは脳と鼻先で二重に苦しむシーサーペントは気にも留めず、人影の手首を掴んだ。


「やっと会えたな」

「グギ……」

「『グギ』じゃねええええ!王国語話せやあああ!」


 言葉と同時、空中の『敵』は砂浜に向かって思い切り投げ飛ばされた。

 ビーチバレーのスパイクよろしく、サラサラとした砂が舞い上がって地面に巨大な波紋を描く。

 そうして出て来るのは、先ず銀色の鱗を纏った、巨大な青魚の尾びれ。ボクの身長とウエスト、そのままくらいの巨大さだ。

 尾びれを支えにしてムクリと起き上がるのは、まぎれもなく『半魚人』であった。


 身長はかなり大きく、3メートルほどだろうか。

 肌は人間の毛の代わりに鱗の生えている鮫のようで、顔面から腹にかけての前面はツルンとしていた。大理石でできた古代の彫刻がそのまま動いている印象がある。

 尾びれの延長にある背中からは、ヒトと魚の中間のような、生々しい質感をした大きな背びれが生えていた。

 四肢からもそれぞれヒレが生えていて、巨大化した手の平と足には、銀色の水かきが張られている。

 この構造で泳ぐ為か胸部と下半身の筋肉が極端に肥大化しており、ウエストが異様に細い。


 肥大化した頭部は魚の頭部を模した銀と青の帽子を被っているよう。

 魚の眼のあるべき部分には、珊瑚のような角が生えており、グロテクスさと美しさが両立していた。此処から魔力波動を出して意思疎通し、時に催眠も行う。

 そして『帽子』らしく、その下には人間の顔があった。切れ目の眼で鼻筋は整っており、細面の美丈夫である。

 とはいっても、人間の顔がそのままという訳では無くて、肌が銀色に染まり瞳は大きく、耳はヒレのように変化していた。

 人間の顔と魚の頭の繋ぎ目からは、人間のような銀髪が生えていて、首筋にはパクパクと開閉しているエラがある。


 彼が口を開くと、鮫を思わせる鋭い歯が見えた。


「GAAAAA!」


 一見話の通じる人間にも見えたが、咆哮がそれを否定する。

 上手くいかなかった事への動物的な激しい『怒り』。そして、本人も何故だか分からない『悲しみ』が読み取れた。


 その悲しみの意味を、部外者であるボクが『知っている』のは、なんとも救われないものだ。

 彼が何者であったか解るのは、大航海時代の領主の極秘の記録に残っていたから。

 ああ、やだやだ。シャルに秘密にしていたというのに、後で言わなきゃいけなくなってしまった。


 そんな事している場合じゃないだろう。

 ピーたんが君の事を何年も待っているぞ。

 ……なんて言っても、もうそんな『人間の部分』は残っていないんだろうなあ。

読んで頂きありがとう御座います。


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