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350 貴族権限

 ボクは上級貴族の嫡男という事で将官になる為の教育は受けている。

 故に読み取れる事があった。


 それは、この戦いは圧倒的な数の差に任せた長期戦に見えるが、まだ見ぬ『敵』が狙っているのは、実のところ短期決戦であるという事だ。

 外側で戦っている暗部に大部分を足止めされているのは敵も同じ。

 戦の常識として、既にお爺様に伝令が行っている最中だろう。伝令は一人か二人抜ければ十分なので、敵はそれを止める手段がない。


 なのでほんの少しだけ耐えれば、催眠の効かない貴族で固めた、お爺様の精鋭部隊が到着するという訳だ。

 その旨を、鉄箱に入りながらシャルに伝えるとなんとも言えない、困ったような表情で恐る恐る聞き返す。


「だったら、じっとしてタイムアップを狙えば勝てるのかや?」

「基本はね。ところが、この戦いで相手側が勝つ方法がある」

「ゴクリ。それはなんなのじゃ……?」

「アポロとネモを洗脳する事さ。ここにはうってつけの『移動手段』があるからね」


 ネモの魔術で追い風を出し、風圧に乗ったアポロが飛んで『ボク達』を何処かへ連れ去る。洗脳なので飛ぶ事への恐怖心などは関係ない。

 これで厄介なのは、空中で貴族権限を使ってアポロを正気に戻した時、パニックによる墜落の危険性がある事だな。


「でも、ネモはお義爺様の血を直系で引いている貴族なんじゃないかの?」

「確かに血は引いているんだけど、貴族権限は『この国』の貴族限定だからなぁ」

「……?」


 きょとんと可愛らしく首を傾げた。

 なのでナデナデとして軍事的な話をひけらかしてみる。


「例えばさ。戦争を避ける為に縁組をするって事はよくある」

「王様が親族を敵国の王子王女と結婚させるアレじゃな」

「そうそう。シャルは賢いね。

しかし敵国が、逆に攻め込む口実として血縁を理由にする事もある。

もしも貴族権限が外国の貴族でも有効であるならば、これが正当になってしまうね。

勿論ネッシー王国とは敵対していないが、タカ派がネモを祭り上げて突然敵対する可能性はある」


 そこでポツリと口を挟むのは、去年まで冒険者として王国中を冒険していたアセナ。


「そもそも貴族の基準というのは、割と法で厳密で決まっているものでなく、周りがどう認識してる、所謂親戚付き合いによる物ってのもあるしな。

補足すれば、貴族領ごとに法律が微妙に違うので大貴族だと独立国に近いモノもあり、逆に王国法が通じない時もある。

公爵になる条件は『王族の血筋』だから、歴史によっては自分を国王以上と考えたりもする訳だ。

けれどそいつらは貴族権限が使える」


 しかし親戚ではあるので、一般の貴族より国王からの介入は大きい。

 ウチが『侯爵』で止まっているのもそういう都合だね。『公』になってしまうと、逆に身動きが取り辛いんだ。

 そういう訳で歴史書を参照した知識を並べておく。


「貴族であってもお家騒動でそう見られない者もいれば、無法の時代だと自称貴族が何時の間にやら周りに担がれて本物の貴族になっていたりする」

「む~、じゃあ結局貴族ってなんなのじゃ?」


 ゴチャゴチャし過ぎてきて、頭を抑え出すシャル。

 今なら彼女は頭痛の一言で済むものを、頭痛が痛いとか言ってしまいそうだ。


「『天命を受けし者』かな。それが最初の貴族である『国王』だから。

ある日神様から声が聞こえて、代行者として配下の『貴族』を増やしましたよって今基準で考えるとヤベーのが、貴族」

「ほへ~……あ、でも本とか読んでみると案外多いの。そういうのって。神の子孫とか」

「昔は大義名分を作るのに神様は便利だったからねえ」


 こんなやり取りをして、『貴族権限』についてまとめる。


「そういう訳で『貴族権限』は、上位存在に貴族とは何なのかを判断させる、ある意味『正当』な在り方と言える。

欠点は、それが人間にとって正当であるかは限らない事だけど」


 だから『神様のようなナニカ』なのだ。

 この『奇跡』が確立された時、権威を取り戻そうとする教会勢力が天罰らしきものにあった事もあれば、明らかに贔屓な判断もあった。

 恐らく、この力を与えている者は神のように平等ではない。

 教会勢力みたく痛い目を見る事もあるから誰も叩こうとはしないけど、敢えて名を与えるなら『邪神』とも言える。

 全く、この世には恐ろしい存在が居るものだ。顔が見てみたいよ。


「そんな訳で話を戻すと、だ。

ネモは貴族権限の対象外とは思うので、なるべく守っていこうとは思う。

一応、敵の正体がネッシー王国のタカ派で、アポロを使いネモを攫ってウチの国と戦争を起こす事が目的でも筋は通るけどね」


 シャルに聞かせたつもりなのだが、ネモも心当たりのある顔で頷いた。


「う~む……ネッシー王国(ウチ)も様々な国を併合して大きくなった国だし一枚岩じゃないから、確かにあり得るな。

ドゥガルド様の形成した貿易航路で懐が潤って強気になっているし」

「でも、いかんせんネモが飛び入りなので判断材料に迷うところではあるね。

まあ、どちらにせよ操られたアポロで此処に居る誰かが連れ去られるのは危ない。

そういう意味では、ネモの優先順位は低いかもね。

エミリー先生が出した計算ではネモが居なくても脚力のみで走って加速して飛んでいけるらしいし」

「うぐっ。解っていたけど、俺の扱い酷いな」

「でも飛び入りしなければ今頃連中の中の一人として、エミリー先生に貰ったその本を使ってエミリー先生に襲い掛かっていたかも知れないし、まあプラス思考でいこう」


 そう話をまとめて、皆で固まり防御の陣形を取る。

 消極的であるが、分散しようとするものなら、ゲリラ軍団を相手にするには個別撃破の良い的だ。

 恐怖心の無い敵は此処が怖い。


 例えばアセナやエミリー先生なんかの百人力の英雄を、300人の雑兵で囲めば勝てるように思えるだろう。

 だが実際は、英雄の一振りで10人が薙ぎ払われれば雑兵は恐怖で散り散りになる。これは英雄相手に限らず軍団同士の戦争でもある事だ。

 故に雑兵の心をしっかりと掴み、逃げ出さないように戦線を維持できる指揮官は名将とも猛将とも呼ばれる。

 これを指揮官の器以外で行えるのが、洗脳という訳だ。

 特殊な力を使わない洗脳であるなら宗教の力がこれに当たり、その強さは歴史が証明してきた。

 異世界の言葉では「進者往生極楽 退者無間地獄」だったか。


 つまり今目の前にしているのは、古き良き催眠おじさんの戦い方という事だ。

 古臭いとも言えるね。


 だから、これから何をするかも見当がつく。

 この時の催眠術士は人形で本命を足止めし、注意の隙間から一撃必殺の催眠術を放つのが定石。

 催眠系の物語の中盤位で、警戒する人間に当てる時にもよくあるシチュエーションだろう?


 催眠術とは使われている最中は無敵に見えるが、確実に奇襲で当てる状況に持っていくまでに何手も段階を踏む必要として、その内のひとつでも欠けると同じ手段で当てる事は不可能になるとても脆い技なのだ。

 『近くに催眠術士が居る』と警戒されるだけで半分以上は当てる手段が減ってしまい、故に術士は正体を隠したがる。


 そして相手の一段階は暗部封じ。

 だとしたら次は、ボク達の警戒を逸らす行動に移る。

 だからドラゴンより強い『強力な何か』がある筈なんだ。

 一番お手軽なのは武装船といったところだが、それ位ならなんとかなりそうではある。


 たまに視界に、『虫』が飛んでいるのが見えるのだから。

 正体は母上がドラゴン牧場の防衛システムから幾つか拝借してきた、虫ロボットである。宇宙開拓文明のオーパーツであるそれには、若干の重力操作機能が付いていた。

読んで頂きありがとう御座います。


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