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332 レーダーとソナーの違いは電波か超音波か

「半魚人が、今もこの海に!?ちょっとそれ怖すぎるのじゃ、ふえええ……」


 軽いお話程度の気持ちだったんだが、怖い話過ぎてシャルが泣き出してしまった。

 ボクの膝の上でクルリと回り、顔をボクの胸に埋めて抱き着いてくる。

 操作補助なんて知った事かといった感じだが、究極の話エミリー先生が一人で操作できる潜水艦なので問題は無し。


「よしよし、ごめんね。

でもボク達は割とオーバースペックなところもあるから半魚人一匹如きに負けない……とは思う。

潜水艦とか巨大ロボとかも、作ってみたはいいもの、釣り合う相手が居なくて持て余し気味なところあるし」

「ホントじゃな!絶対じゃよ!」

「ああ、本当さ」

「……分かったのじゃ」


 キスしそうな位、泣顔を思い切り近づけて訴えかけたので頭を撫でて約束した。

 大人しくなったので、シャル用に持ち歩いているハンカチを取り出す。


「はい、顔を綺麗にするよ。ちょっと痛いけど我慢してね。最後に鼻チーンしようね」

「はむっ。もがもが……チーン!なのじゃ」

「うん。頑張った。じゃあ、頑張ろうね」

「ハイなのじゃ!」


 元通りの顔に戻る。

 因みにボクが言ったのはその場凌ぎの方便という訳でもない。

 噂を聞いた時からずっと対策は考えていた。


 今の案としては、今日の夕飯後にでもお爺様に、秘密裏に暗部と宇宙文明兵器を総動員させて処理してくれと頼み込もうとは思っている。

 頭の良い半魚人も居なくはないのだが、人道的な対話は無理だろう。

 大抵はサイコパス系の脳構造に近いらしい。過酷な環境で生きる為の進化とも言われている。

 まあ殺処分が妥当か。

 死体を写真に撮って新聞で報道すればシャルも安心してくれるとは思う。


 さて。

 そんな活動に役立ちそうな機構が、ボクの目の前にある。

 手元の操作盤に皿のようなものが嵌め込まれていて、上から硝子の蓋が付けられていた。

 羅針盤と似た構造をしているそれは、『探信機(ソナー)』と呼ばれる最新技術らしい。


 羅針盤と違うのは、針ではなくて銀色の液体金属がスープのように注がれている所だ。

 潜水艦が移動するたびに液体金属は形を変え、立体的な地脈を形成して衝突事故を起こさないようサポートしてくれる。


 超音波と同時に魔力を周囲に放ち、液体金属メリクリウスが反響を元に地形を作成する。

 『受信』には海の魔力を吸収して自身の力に変える装甲版の魔骨を利用しているとの事。


 ボクみたいな素人では液体金属を剣や盾なんかに変える程度しか思いつかないが、こういう使い方もあるんだな。

 なんとコレ、かなり小型なので一つの操作盤に一つ付いている豪華仕様である。


 後ろでエミリー先生がニシシと笑う。


「便利な技術でしょ。この艦で幾つか実験したら、探知に特化させた軍艦も作る予定らしいね」

「……でも、複雑な気分です。

コレって『ミアズマ』の技術なんでしょう?完全にエミリー先生の敵じゃないですか」


 世界中に悪意をばらまく悪の組織ミアズマ。

 エミリー先生を子供の産めない身体にした黒幕でもある。


 生身の首だけ残して生きる改造人間は、特殊な魔力を持つ子宮を犠牲にして作られる訳だが、エミリー先生がその魔力の持ち主であった。

 魔力を探知する為に、魔力の匂いを嗅ぎ分ける事の出来る、アセナ達ルパ族が無理やり使われていたのだ。

 しかしアセナとエミリー先生が手を組んだ『ルパの反乱』を起こす事で、ルパ族は解放されたのである。

 ここまでおさらい。


 しかしルパ族が解放された後も前も改造人間は作られ続けている。

 だとすれば、特殊な魔力を探知する手段が別にあるという事で、父上が暗部と一緒になってミアズマの支部を破壊して回り、熱心な拷問(話し合い)の結果判明したのが、このソナーの元になった『魔力探知機』という事だ。

 地上だと『レーダー』とも呼ばれるそうだ。


 しかしミアズマ支部には大量の改造人間が居る筈なんだよな。

 父上ってボクが戦っている場面を見た時は確かに強かったけど、改造人間(シオン)一体に結構手間取っていたし。それが出来る程超人じみた強さでは無かった筈だと思う。

 それとも、『本気』じゃなかったとか。


 と、ボクが思考を余計な方向に脱線させていると、エミリー先生は微笑む。

 指令室の肘掛けを使って頬杖を付いて。


「ふふ……アダマス君は優しいねえ。

でも大丈夫さ。どちらにせよペンシル君の探知超音波然り似たような発想は私にもあったのさ。

それに他の技術を沢山織り交ぜる事でミアズマの魔力探知機よりかなり高性能化されている」


 エミリー先生が面白おかしく、勝ち誇ったようにミアズマの魔力探知機の欠点を語る。聞いていると確かに使い辛そうとは感じた。

 小屋のようなサイズの機械に車輪を付けて移動させるような物だったなんて……。


「つまり、沢山の技術を織り交ぜているなら、それはもはや『魔力探知機を発展させたもの』ではなく『沢山の元となった技術の中に魔力探知機も混ざっている』という事でしょうか」


 狭い操縦室だけあって近距離で魔力灯を浴びながら、笑みを深くするエミリー先生。

 その様は正に悪の科学者のようだった。ちょっと格好いい。


「そういう事。あいつらの技術なんて通過点に過ぎないよ。それに、結構『雑』な技術でもあった」

「と、いうと?」

「魔力や此方の世界の物理法則に関して理解が浅い。

宇宙文明系のオーパーツの設計図を、ただそのまま再現したって感じだったね。例えば抵抗、コイル、コンデンサなどの使い方も『電気機器』の概念から抜け出せていない」

「だとすると、ミアズマの正体は電気文明が発達しているソッチ系の住人の可能性もあると?」

「可能性だけどね」


 エミリー先生がそう言って、秘密警察としてミアズマを追っているアセナが口を開く。


「それ以上は実物がないとなんとも言えない。痕跡を残している割には意外と尻尾を掴ませないのもある。

寧ろ、わざと痕跡を残しているとも考えられるが、それ以上は推測の域を出ないな」


 こう言って話を締める。

 因みにネモが居る場であるが、お爺様から彼の国に注意対象としてミアズマの話が伝わっているので大丈夫との事。


 話が長くなってしまった。

 ボクは目の前のレバーに手を通し、ソナーの硝子に浮かび上がって来た点と線の通りに動きを調節する。

 指令席にあるパネルを指でなぞる事で、それぞれの操作盤に指示を出す事が出来るのである。

 先生は『魔力の共鳴現象を利用したタッチパネル』と言っていたけど、要するに液体金属に蓋をした硝子板を指でなぞる事でレバーのような操作が可能なんだそうな。

 本当は硝子ではなく、天然の魔骨になる宝石を削ったものらしいのだが、そこら辺は省略。


 さて。ボクとシャルの操作によって近付くのは岩礁地帯。

 人工的に作られた漁礁だけあって、不自然な形のブロックが幾つも積まれている。大振りの貝が幾つもくっ付いていて、小魚が群れで泳ぐ様は巨大なアクアリウムのようであった。


「わあ、美味しいそうなのじゃ」


 ボクの膝の上でシャルは語る。

 水族館に連れて行った子供あるあるだね。まあ、待ってな。これから美味しいドラゴンを獲ってみせるから。

癪だけど、ネモと一緒にね。


───リトルホエール捕獲は二人への課題なので、二人にやって貰います


 エミリー先生のそんな台詞を、ボクは胸に当てていた。

 だが、この時はまだ隣でなんか物凄い形相で悩む従兄の面倒くささを考慮していなかった。

 アセナの口調を借りるなら、「『癪だけど』なんてものじゃねえ!」と、いったところだ。

読んで頂きありがとう御座います。


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