33 先生に案内されて聖地巡礼して原作ごっこ
駅のホーム、金管の脚と網目状のデザインが施されたシートを持つシートがある。
余り物で造ったような質素な造りだというのに、手すりの先端が渦巻状なっているというだけでアクセントになっていた。
これはこれでありだと思えてくる。
そこに、スチームパンク風な服装のボクとシャルは隣り合って座っていた。
待合室があるのにホームにも椅子があるのか。
疑問にも感じて聞いてみたところ、それはこっちの方が便利だからとの事らしい。
やはり座って報告を聞いているだけでは分からない事もあるものだと、改めて感じた。
ボクは太々しく、やや前傾体勢で手元の楽譜を読んでいる。対して隣の彼女は頭をボクの肩に委ねて寝たふりをしている。
小説のワンシーンの再現だ。
そこへ学園都市からの電車がやって来た。
勿論、本物ではない。
「しゅっしゅ、ポッポッ。ボッボー♪」
エミリー先生だ。
『小さく前へならえ』をした両手を、前後に回すように動かすエミリーが歩み寄ってきた。電車の車輪なのだと、言いたい事は分かる。
口は尖らせ汽笛を再現。歩みはスッキプのようなやや大袈裟。
いわゆる「電車ごっこ」の動きである。
「チリンチリーン。ラッキーダストー。ラッキーダストー♪」
その動きによってたわむように胸が弾む。
よく動く事でクビレが強調され、スカートに腿が張り付き、今までは目立たなかった大きな臀部にも目がいってしまう。
薄目を開けて此方を見るシャルの視線が少し刺さった。ごめん。
いや、そりゃ電車を個人の遊びで使えないのは分かるけど良いのかコレ。
この領地で最上級の才女で、貴族位も持っている筈だよね、エミリー先生。
チラリと視線を向けると、とてもいい笑顔で立てられた親指が返ってきた。
良いんですか、そうっすか。
気を取り直して小説の再現を続ける。
「う……ううん……」
汽笛によって起きる『ヒロイン』……つまりシャル。
彼女はゆっくり目を開けると、目の前には自身の睫毛。その向こうには見知らぬ男の顔。
確か本編じゃここで物凄い長い男の外見描写があるんだっけな。
彼女の中ではそれが再現されている……筈。
意識を現実に取り戻したシャルはバッと身体を離れさせる。
シャルは気持ちの籠った顔付で、それに用意された言の葉を放つ。
とはいえ、顔が真っ赤という事までは再現出来ないのはアマチュアの悲しいところかな。
「ひゃぅっ。す、すみまへん」
シャルは涎が出てしまっていないか口元を何度も擦る。
『男』……つまりボクはニヤリと笑いながら高飛車に彼女を見ていた。
「安心しな。涎は出ていねえから。
ずっと随分幸せそうに寝ていたのを見させて貰ったぜ」
「ずっとですか!?」
「ああ。かわいい寝言も含めてずっとだ」
尻が痒くなる気持ちになる。絶対ボクだったら言わないわー。ホントだよ?
まあ、たまには俺様キャラも悪くないと感じるけどさ。
なので内心の意欲は満天でもあったりする。
「クックック、それで……どうするかな?
もう一回俺の肩を枕にしていくかい。俺は構わねえぜ」
「け、結構です!」
彼女はベンチから飛び上がると、逃げるような早歩きでエミリー先生の方へ歩いて、その腰に捕まった。
実際に電車へ乗れない苦肉の策である。提案はエミリー先生。
ボクはポケットの片方に手を突っ込みつつ歩み寄り、エミリー先生のもう片側の腰に捕まった。作中では『隣の座席に座った』と描写されている部分だ。
子供に囲まれたエミリー先生は幸せそうな顔である。
反してシャルは、声を荒げてボクを見る。
「ちょ、ちょっと!なに付いて来ているんですか!?」
「そりゃ、俺も待っていたからに決まっているからだろ」
「だからって私の隣に座る事は無いじゃないですか」
指差すシャル。
しかし、ボクは図太い態度で先程と同様に、とぼけた顔をするばかりだ。
読んでいる時は何も感じなかったけど、自分でやってみると悪い意味で凄いヤツだなこの男。
「こいつはウッカリしていた。席を移動した方が良いかな?」
「……ふんっ、座ってしまったなら仕方ありませんよ」
「そいつはありがとよ」
「どういたしまして」
頬を膨らませてそっぽを向くシャル。
ボクは頬杖を付いて、魅力的な彼女の横顔を見るのだった。
「ああ、あの歌が似合いそうだな」と考えながら……。
作中の描写はそんな感じだったか。
一区切り終えたので、ボクは腰から手を離す。エミリー先生を見た。
「……と、取り敢えずこの辺で一幕は終了かな。エミリー先生もお疲れ」
「おやま、もう終わりかな。私としてはもう少し続けても良かったんだが……」
「ん、こういうのは休みやすみが大切なのさ」
ボクは再び先程のベンチへ腰かけると、膝の上をシャルが陣取った。
彼女の頭を撫でながら聞いてみる。
「さて、シャルよ。今回のボクの演技はどうだったかな」
「なんか思っていたのと違うけど、それはそれで俺様なお兄様が見れて満足なのじゃ」
「目の付け所がそこにいくかあ」
「お兄様だって、物語そのものよりエミリー先生の胸とお尻に目が行っていたからお互い様なのじゃ」
半分当たっているけど凄い理屈だ。
さてはこの子、特に考えず勢いで言っているな。
そしてエミリー先生が寄ってきた。この様子は、何かを隠し持っているようだ。
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