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329 プールを割ってロボットが出てきたりはしないらしい

 ボクはエミリー先生にビシッと敬礼。隣のシャルも見よう見まねで揃って敬礼。

 先生はウインクを返して来た。


「と、いう訳で潜水艦は何処でしょうか、エミリー隊長殿」

「ふっふっふ、ひみつのマシーンなのでもうちょっと中を歩いて特別港に行くのだよ。アダマス二等兵」

「妾はなんなのじゃ?」

「じゃあ、シャルちゃんも二等兵で」

「わあい、お兄様と一緒なのじゃ!」


 笑い顔の中の八重歯が輝き、エミリー先生のリードでトコトコと歩き出す。

 普段のシャルだったら兎のように飛び跳ねたり竹トンボのように回ったりと、もう少し身体全体で楽しさを表すものだが、流石に物にぶつからないよう自嘲気味。

 資材や機器が無造作に積まれている作業用建屋で物が倒れるという事は致命傷なのである。

 図体が大きなアポロの方もアセナがリードしているが、それを抜きにしても以前から訓練は受けているとの事で至って大人しい物だった。

 安全ヨシ。


「ところで、船着き場なのに特別『港』なんですね」

「だよね~。まあ、現場は一言で理解できる言葉を望むからって覚えておけば良いよ」

「確かに。作業用の道具の名前とかそんなのばっかですし」


 そこでピタリと止まる。

 と、いう訳で更に個室で区切った特別港への到着なのだ。

 雰囲気に違いは無いのだが、機器がグレードアップして特殊な装置も増えて、セキュリティも厳重になった印象。


 そしてとうとう、目的の物と対面した。


「これが潜水艦……。色々と凄いな」


 それは、とてつもなく大きな物だった。

 定期便に使う外輪船と同じくらいを想像していたけど、それより遥かに大きいぞ。因みに外輪船は80m程だ。


 全体的な形は分厚い魚のような体。エビっぽくもあるな。

 つまり水の抵抗を流し易い形をしており、脇には丸い窓が取り付けられていた。目を凝らして見た感じ、1側面で4つ並んでいるという事は、合計で8つかな。

 窓が多くて、まるで観光用なのかと言いたくもなるが、少し考えれば調査において外を見る事が出来るメリットは幾つも見つかる。

 別に純粋な兵器って訳でもないしね。


 所々には何らかの部品を接続する為の穴が開いていた。

 例えば前方の穴には、ウミサソリの名に由来する通り作業用アームを取り付けるように出来ているのだろう。

 少し弄れば魚雷発射装置でも取り付けられそうだが、純粋な兵器って訳でもないと自分に言い訳。

 少し探せば絶対に出て来るだろうけど、これは兵器ではないのである。


 色は金属板で覆っただけの鈍い銅色で、所々で補強するように金色の金属が使われていた。

 どういった性質の魔骨であるかは不明だが、最新技術で作られた合金である事は確かだろう。

 エミリー先生に聞けばきっと答えは分かるのだが、それは後で良い。


 なんせ、『足元』のコレがクレーンで吊るされている訳ではないのだから。

 シャルは思わず声を上げていた。


「凄くおっきなプールなのじゃ」


 そう。潜水艦は、『プール』に沈んでいたのである。

 一見すると当初の予想通り海に沈んでいる様に見えるが、海とは壁で区切られている。

 水を透かす光を追えば水深も違っているのが分かった。

 縁の辺りにマンホールの蓋のような物があるが、恐らく地下室に繋がっていてプールの『壁』から内部を見ながら操作出来るようになっているのだろう。

 此処まで大きな物だと、流石に陸上に置くのは無理なようだ。


 エミリー先生はシャルの柔らかい頬を両手で挟んでグリグリと動かして見せた。

 チョイブサなタコ顔が可愛らしい。


「ぬふふ、只のプールだと思っているなら気を付けた方が良いぞう。

なんせ誤って飛び込むと、水圧で潰した空き缶みたいになっちゃうから取り扱い注意だけどね」

「ひええ……」


 タコ顔のまま怯えるシャル。

 エミリー先生はパッと手を放し、頭を撫でて「怖がらせてごめんね」と謝ると、シャルは頬袋を作りながらも先生を許す。

 一方でボクは、何故、このような物があるかに目星を付けていた。


「水圧とかの変更とかが可能な、試験用の水槽ですかね」

「そだね。粘度の変わる錬金試薬を使う事で、深海並の水圧の再現が可能なのだよ。耐久試験にとても便利な訳だ。他に物凄い水流を流したりしているね」


 それを聞いてボクは頷き納得の意を示す。


「なるほど、つまり『アレ』は試験中という事ですか」

「ニヒヒ、それも外れなんだなあ。既存の機構には察しが良いけど、新技術にはまだまだだね」

「むっ。習ってないから仕方ないじゃないですか」

「あはは、そうだね。ゴメンゴメン」


 こうしてエミリー先生は詳しく教えてくれる訳だが、ボクの読心術は『嫉妬』の念を捉えていた。


「俺にはあんなに謝らないし、直ぐに教えてくれないのに……」


 ネモはボソリと呟いた。

 しかしそれは、目の前の大きな状況に流され搔き消え、ボクと彼の心の隅に残るのみとなった。


 エミリー先生は仁王立ちで、プールに浸かっている鈍い金色の巨体を嬉しそうに紹介する。


「試作型海底調査用潜水艦【プテリゴ号】

全長152m、幅47mの超大型潜水艦。

このサイズは長距離航海試験と、内部でドラゴンを飼育する事を想定したものだ。

しかも装甲に使っている魔骨の性質のひとつには自己再生があり、大量の魔力を溶かした錬金試薬に浸す事で自動メンテナンスが可能なのだよ」


 強力な魔物の分類から分かる通り海底に行くほど魔力は濃くなる。海底に行った際、周囲の魔力を有効に使えないものかという実験でもあるそうだ。

 魔力の濃い深海に近付けば近づく程強力になり、最大予測値で核融合(太陽)を上回るエネルギーを発揮して、水圧を押しのけて光速に近い速度を出せるとか。


 尤も、深海の魔境だと『その程度の貧弱な性能』では勝ち抜くのは不可能だというのだから恐ろしい。

 余談であるが地上だと直ぐに魔力切れになるので、絶対的なアドバンテージにはならないとの事だ。


 つまり、超巨大水槽に入っているのは通常の状態という訳だ。

 何時でも出港出来るらしいので、早速クレーンで引き上げる事になったのだった。もう少しで乗れるぞ。

読んで頂きありがとう御座います。


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