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319 どうしても楽じゃない道を選んでる

 ネモの出生にボクは頭を抱えていた。意外と情報量が多くて返答に困る。

 「貴方はどちら様ですか?」と、気軽に聞いた結果がコレだよ。世の中に普通の人なんて居ないとはよく言ったものだ。


 どうしたものか。

 不発弾を見る目でジトッと彼を観察していると、今度は向こうから話を振って来た。突然の事に驚く。


 腰に手を当て、インテリ然としている癖になんとも爽やかで自信を持った立ち姿だ。

 つい最近会った暑苦しい政治家を思い出させた。


「それで君は……なるほど、『お前』が俺の従弟にして宿命のライバルであるアダマス・フォン・ラッキーダストか!」


 ええ~、ツッコミ所しかないよ。

 はじめて会った人にライバルって言われた経験なんてない。

 周りをキョロキョロ見回してみても反応を待つようにボクを見るのみだった。

 渦中の人はボクという事なのだろう。


 とはいえ黙っている訳にもいかないか。

 昔はこういう時に何も言えなくなってしまうのがボクだったので、先生やアセナの背中に隠れていたものだが、最近は少しだけ成長した気がする。

 今でも隠れていれば、彼女達ならボクの都合に良いように話を上手く進めてくれるのだろう。

 だけど少しだけ頑張ってみようと思う。


 世の中に普通の人なんて居ない。ボクの主役はボクなのだからね。

 完璧を目指しても良い事は無いので、思った事を口にし状況を把握しようと試みる。


「……初対面だというのにボク個人を特定する理解力高いね」

「まあ、エミリー先生から常々聞いていたからね」


 常々ボクの事を聞く状況ってなんだろう。

 なんか腰の大きめの四角いホルスターに、革張りで鎖に繋がれた本が納まっているけど、あれにビッシリとボクの事とか書いてあったらやだなあ。

 留学生なんだから普通にメモ帳かなんかだろうけど、ボクの偏見がそんな気持ちを加速させる。


 エミリー先生の方に視線をやると、片手を後頭部に当てて可愛く笑っていた。どうもボクの事を聞いていたのは事実であるらしい。

 でもエミリー先生がボク以外と行う授業で私事を挟む人間かと言えば違う。修業場でもジョークは挟むけど授業は解り易く教える面白先生くらいに留まっているし。

 しかし、だからこそ納得はした。


「つまりネモさん?」

「うんうん、気軽にネモって呼んでくれていいよ。ライバルだし」

「あ、ハイ。じゃあさネモ、そのライバルってのは恋のライバルって意味かな?」

「勿論その通り。エミリー先生をかけて勝負すると、『もしもお前に会ったら』と俺が以前から考えていた訳だ」


 やっぱこの流れかあ。エミリー先生、美人だもんな。

 確認の為に身体を前に乗り出し、小さな声で言う。


「エミリー先生は君と結婚できないのは知っているかな?」

「子供が作れないし、元娼婦だし、愛情は我がライバルに全て向いているという事だろう?」

「……解っているのかよ」


 ボクはつい舌打ちした。


 エミリー先生が教え子から本気で告白された場合、三段階の対応があるとベッドの上で聞いている。

 先ずは「教え子との恋愛はダメです」と流す大人の対応。

 それでも食いついてくるなら「侯爵様の子と婚約しています」と政治的な盾を使い、最後に「過去の事故の影響で子供が作れない身体です。元娼婦です」と言う。

 大体二回目でどうにかなるし、三回目は数える程しか使っていないらしいが、まさかそれを上回る猛者が居るとは。


 とは言っても、ボクも形式上は三回目をぶちまけられた上で付き合っている仲なので人の事は言えない。やはり血の繋がりは女性の好みに現れるのかも知れない。


「なんか君の言っている事って、色々すっぽかして飛躍している気がするんだよなあ。現実的なプランとかあるの?

なければ雑な物語なんかによくある、単なる舞台装置用としての小悪党と変わらないよ?」


 そこまでジットリ。あからさまにトゲのある対応をしてみせる。

 ボクは偉い人で、デートはとても重要なお仕事だ。なので邪魔をされたくないのである。

 ここまですると向こうも流石に察してくれたようで深く頷く。小悪党ほど頭は悪くなくて安心したよ。


「……すまんね。エミリー先生とアダマスのツーショットでテンションが上がっちゃっていた。

でも俺は王族だから本国に行けばお前に負けない位の待遇は用意出来るし、何よりエミリー先生への愛情は世界の誰よりも負けないと思っている」


 真実を吐き出し、グッと握り拳を作った。

 交じりっ気が無さ過ぎて、読心術を持つボクに眩し過ぎるものだった。

 でも、それを許容する訳にもいかない。


「エミリー先生の意思はどうなのさ」

「うん、ソコだ。確かにお前への愛情は相当なものだ。しかし、順番の違いとも思っている」


 エミリー先生の左手の薬指。そこに嵌められているのは、何時も通り玩具の指輪。

 ボクが幼少時にプレゼントして、娼婦時代に彼女の心の支えになっていた物である。


「『アレ』を渡すのは俺でも良かったのではないだろうかと、先生を想う際は何時も思うんだ。その度に結構悔しい気持ちにもなる。

『なんでそこに居たのが俺じゃなかったんだ』とね。聞く限りじゃ俺とお前、身分も才能も似たようなもんだ」


 君にボクの才能の何が解るって言うんだ。

 言いたくなるが、彼はドンと自信満々の口調で言ってのけた。


 しかし読心術で見れば実は口調のみ。

 寧ろその中に本当の意味での『自信』は一割ほどしか含まれていなくて、不安ややけっぱちの若々しい粗削りな感情。

 そして、エミリー先生への深い愛情が大体を占めていた。


 旅先で出会った魅力的な女性を好きになって、可能性を諦めずにぶつかっていく。

 何とも青く、なんとも分かり易い人間だ。羨ましい位の素直さだよ。

 彼はお爺様の推薦なので、「鬱陶しい」とボクからお爺様に一言言えばそれで終わるし、エミリー先生から直接指導を受けている彼に理解できていない訳じゃない。


「だからこそ、お前と争ってエミリー先生を振り向かせる必要がある。

というわけで勝負だ、アダマス!」


 故にボクは返す。


「分かった。良いよ、受けよう」


 ボクは臆病なのだ。

 自身のエミリー先生への愛が、彼よりも優れている事を証明しなければ不安になってしまう。不当な方法で除外してしまえば、それはずっとシコリとして人生に付きまとってしまう気がする。

 ネモは打って変わり、柔らかく笑った。


「良かった。流石エミリー先生が見込んだ男だ。信じていたよ」

「そりゃどうも」

「それにドゥガルド様の血も強く継いでいる」

「そうかな?」

「ハーレムじゃないか。寧ろ先ず目を付けたのはそこだったよ。

なんせウチの国民はドゥガルド様の伝記は一般常識だし、王子の俺は直にお婆様から本人の事を聞いている」


 ぐうの音も出なかった。

 ボク個人を特定した要素ってそこかあ。確かに大雑把でもボクの外見の特徴を知った上で、エミリー先生と一緒に居るハーレム野郎を見れば、まあ思うよね。

読んで頂きありがとう御座います。


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