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312 大好きホールド

 取り敢えずボクは、シャルを何時もの定位置である膝の上に座らせる。

 彼女の隣に座った状態から脇を掴んで、膝に乗せたのだ。

 

 少し重く感じるのは、単に何時もはシャルの方から座りに来るせいか、それとも彼女の心その物の重さなのか。

 後ろから優しく抱いて頭を撫でるのは無意識の事だった。

 ボクはポツリと話す。


「アイツは追い払った。もう会わないって」

「……」


 勿論それだけではいけない。此処で終わったらいけない。

 一方的に手紙を渡すバルザックと大して変わらないのだ。

 人が人らしく在るには『会話』が必要であり、つまりは少し楽しい話でもしようじゃないか。


「知っているかい。

学園都市を卒業したエミリー先生はアルバイト時代、人造人間技術を半年で極めらしいよ。

それが彼にとって『全て』だったというのにだ。

シャルの呪いは大きなものだけど、全体から見た彼自身はそのくらいの物だというのは知って欲しい。

実際に今は全てを失っている訳だしね。アレくらいの下級貴族なら父上の配下に幾らでも居る」


 まあ、そんな事はないんだけどさ。

 バルザックは間違いなく天才だ。低く見積もっても『幾らでも居る』なんて事は無い。


 父上を上回り学園都市の主席であり、一部でしか知られていない人造人間技術を若くして昇華させた。

 同じ人間(クローン)を作るのと、この世に存在しない人間を創造するのは意味が大分異なるのは周知の通り。

 しかも『一部でしか知られていない技術』という事は、意見をやり取り出来る協力者は居ないに等しく、必然的にほぼ独りで新技術の開発を行なった事になる。


 また、アポロを生み出す際に彼の遺伝子技術はかなり使われている筈だ。

 時系列的に彼が加わったのは最近だと思われるが、それでも遺伝的な後遺症を調節するのは、妻の死という『実物』を目にした彼しか出来ない仕事だと思う。


 大した事ないのに見えるのは、エミリー先生がそれを上回る世紀の大天才だからに過ぎない。


 なんせ彼女は放っておくと文明を数百年進める人だからな。

 今の王国が安定しているのは、技術と政治のバランスを調節している父上によるものが大きい。

 遅れた常識で生きる文明に超技術を放り込んでも混乱を招くだけだ。優れた人工知能とかな。


 後は、ボクへの愛情がある事で素直に言う事を聞いてくれるのもあるかな。

 恐らくエミリー先生が遥か未来に放り込まれても、直ぐに現地の物理法則を理解してデバイスを使いこなすだろう。

 そしてボクというリミッターの無い彼女は、好奇心のままあっという間に文明を進める発明を連発して世界を混乱に陥れるのは確かだ。

 それこそ『魔女』や『悪の天才科学者』とでも呼ばれるんじゃないかな。


 そんなとんでも人間が同時期に現れたのは、バルザックにとって幸福か不幸か判断が難しいところである。

 しかし、ボクにとってはかなり幸運な出来事なので存分に利用させて貰う事にする。


「……うむ」


 シャルがはじめて言葉を発した。

 自分の中で大きくなっていた物が、外から見れば大した物でない事実というのは心に効く。


 例えば嫌な上司を相手にした時も「なんでこんなオッサンに人生振り回されなきゃならないんだ」と心の何処かで思っていれば、案外心の負担は軽くなるものだ。

 ボクが父上に対してよく思っている事だ。

 そして自身の味方が、心の中で巣食う人物よりも優れていてどうにか出来る人物であるならば、より励ましになる。

 それこそエミリー先生やハンナさんとかね。


「彼自身にとって君のお母さんを作る事は全てだったとしても、君にとって生まれは全てじゃない。

ボクの存在は、君の中で彼よりずっと大きな物になれる筈だ。

いや、絶対そう!」


 ボクは手をゆっくりと、彼女の頭から離れてお腹に軽く当てると、もう片腕を曲げて太ももを挟んで上に持ち上げた。

 故にシャルの膝が持ち上がれば、足を大きく広げた形になった。

 半ズボンを履いているとはいえ、ちょっと恥ずかしいポーズになる。


 意外な行動だったのだろう。彼女はつい、素の声を出してしまっていた。


「んにゃ?」


 太ももを持つ腕を、シャルの背中とボクのお腹の間にある空間へ横に滑らす。

 偶然できたこの空気、折角なので利用させて貰おうか。

 愛するシャルの為に、ボクの持つ技術をフルに使って振り向かせてみせよう。


「それ~」


 身体の構造を突くバリツの訓練をしているので、人体における重心の把握はそれなりに得意になってきている。

 腕の軌跡を膝が追って、彼女は駒のように半回転した。


「ひえええ~!?」


 お腹に回していた腕を使って、今度は社交ダンスの要領で彼女の背中を支える。

 ボクは大貴族というだけあって、昔から稽古とパーティー(実践)を繰り返してきたから目を閉じてもタイミングは解る。


 更に支えた時に彼女の身体を少し揺らす。

 そうすると、持ち上がっていた太ももはビクリと跳ねて吸い付くようにボクの脇腹に向かっていく。


 回転を殺した時の勢いを、そのまま彼女の股関節の動きの調整に使ったのだ。

 バリツの『連動』の簡単な応用である。

 背骨は太いのでエネルギーを伝えやすいし、股とかなり近いのでボクの様な付け焼刃でも動かし易い。

 ついでに回転のベクトルに沿って、もう片足もボクの脇腹に向かう。


 出来上がるのは、ボクの腰に対して足で組み付く形。溶け合いたい程に相手を求める時にやる形である。

 それを向こうの意志に関係なく、『やらせた』。

 この形にしたのはボクの性癖がサド属性であるからであるが、嫌がる様子は無し。


 シャルに向かい合い、おでこ同士をぶつける。


「君の全ては、ボクのモノ。他の男の事を考えちゃダメ」


 自分で言うのもアレなんだけどさ。

 彼女のアーモンド形の目に移ったボクは、とても真っ直ぐな顔つきをしていたよ。

読んで頂きありがとう御座います。


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