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287 「なんか面白い事をしろ」という暴挙

 ハンナは一人、フローリングの上に立っていた。

 真鍮色の髪の毛は、靡く事で髪質の良さを。よく手入れが行き届いてシミひとつ無いメイド服は高潔さを主張している。


 そんな彼女は、只今不良的暴挙を行っている最中であった。

 なんと、仕事の合間だというのにスマートフォンを弄っていたのだ。

 ショーヘイが持ってきたアイテムボックスの中身と一緒に、オルゴートが買い取ったものである。


 けれどもこの場に居る誰が見ても気にしない。と、いうより彼女に気付けない。

 確かに催眠系の力は貴族権限によって弱体化されている世界観だが、それを定めた彼女にとっては関係無いのだ。

 認識操作・常識改変なんて朝飯前のオヤツ前である。


 この暴挙的行動を以て何をやっているかといえば、アダマスとショーヘイを『引き合わせた』後始末だった。

 とはいえ今回に関して言えば、全ての元凶が彼女という訳でもない。

 たまたま『甘い言葉』に引っ掛かって此方の世界に来てしまった異世界人が居たので、次期領主としてアクシデント中の『教材』に丁度良いだろうと、引き合わせてみただけである。


 スマートフォンにて開いている場所はアプリのダウンロードサービスのページ。

 相変わらず電池は機能していないしアンテナは圏外だが、細かい事はいいだろう。


 人気のゲームだったりクッキングレシピだったりと様々なアプリが並んでいるが、その中に彼女の目当ての(アプリ)が見つかった。

 物理的な形が無いが、これも一種の『オーパーツ』である。


【異世界人召喚プログラム】


 遥か昔の文明にて『宇宙を征服した人類は、自分の意志で進化の方向を選択するべきである』という傲慢な思想の元で開発された自律プログラムだ。


 具体的には異次元を漂い、異世界の電脳空間へ侵入。

 異世界の文化を学習して『甘い言葉』で此方の世界へ連れ去るという迷惑極まりないものである。

 これを作成した文明では『チート付与』の原理が少しだけ解析されていて、世界間を移動する際に発生するエネルギーと思想の共鳴に着目していた。

 これを応用し、『進化』の一例となるチート能力者を生み出そうというものだ。


 超能力と呼ばれる魔力に近い力まで解析するほど文明が発達したものだから、『下等文明』の異世界人くらい支配出来ると思ってしまったらしい。

 結果は現代の遺跡を見ての通り。もはやこうした『残滓』がたまに悪さをする程度である。


「……さて」


 これを消去するのは容易い。

 だが、それによって得られるメリットはなんだろう。せいぜい甘い罠にかかるような『弱い』異世界人がやってくるのを止める程度だ。

 それに、今回のような異世界人はラッキーダスト家の子への『教材』として非常に役立つ。向こうに未練があるなら、暫く観光でも楽しんで貰ってから選択させるのも手か。


 異世界にとってメリットはあるが、此方の世界にとってあっても無くても良い。

 故に、これといった感情の籠っていない目付きで呟いた。


「やっぱ放っておきましょうかね。どうせ元の世界への帰還は自由ですし」


 画面をスライドさせると、再び異世界人召喚プログラムはアプリの中に埋もれていった。スマートフォンの電源を切ってポケットに入れると、また仕事に戻る。


 今日は、太古の自律プログラムによって異世界人がやって来た。

 彼女にとってはたったそれだけの、何の代り映えの無い一日であった。



 あれ?誰も居ない。


 冒険者ギルドの酒場にて。

 改めて席に座り直したボクであるが、ふとハンナさんらしき人を部屋の隅に見つけた気がしたのだ。なので振り返ってはみたものの、空振りだった。


 まあ、あの人はそもそもが神出鬼没だからな。何処にでも居るように見えるのだから、常に『居る』という錯覚を覚えるのかも。

 ……と、見せかけて今もこの部屋の何処かでスマートフォンでも弄りながらボクを観察しているのかも知れない。

 なんせお忍び中なのに護衛が居ないように見えるのは、あの人の目が必ず何処かにあるからだし。


 つまり、深く考えるだけ無駄という事だ。

 ボクは冒険者たちの目の前で演説するエミリー先生に視線を戻した。ゴンザレスの号令の後、「ちょっといいかな」と前に出たのだ。

 確かに冒険者の中で一番偉いのはゴンザレスであるが、エミリー先生は大依頼主だ。いわば社長と株主の関係。

 ゴンザレスの言葉に上乗せしても誰も文句は言わないのである。


「クフフ、ショーヘイ君は私の紹介だからね。今日の宴会は私のおごりだ。

皆、飲んで騒いで新たな仲間に『冒険者のやり方』ってヤツを教えてくれたまえ!」


 宴会の費用はエミリー先生がポケットマネーで出してくれるとの事で、彼女が音頭を取っていた。

 ボクがお小遣いからから出そうとも思ったのだけど、如何せん今はお忍びモードだ。

 立場は『エミリー先生の知り合いで、ショーヘイの友達』程度なので大金を見せびらかすのはリスキーとの事。

 仕方ないので、今度のデートに取っておく事にする。


「うおおおお~!流石のエミリー様だぜ。よっしショーヘイ、来い!

チート持ちってのは大体が町育ちのお上品な喰い方をするものだけど、それじゃやっていけない事を教えてやる!」

「え?あわわわわ!」


 こうして冒険者諸君はヒートアップ。

 ショーヘイは、無理やりどんちゃん騒ぎの中に消えていくのだった。


 食事はほぼ全ての世界で共通のコミュニケーション手段であるが、『作法』は多岐に渡る。

 『現地人』のボクでさえ下町流の食べ方に驚く事が多かったので、『多国籍』な冒険者達に手探りで合わせるのは大変だと思う。

 ゲームの序盤は、情報を得る事が大切だけど、その情報を得る手段を先ず知らなきゃね。


 冒険者の宴会は酒を樽で持ってきたり、豚を丸焼きで持ってきたりとかなり派手な印象がある。

 あちこちでお得意の一発芸の披露(ひろう)やら、勢い任せで服を脱いでのバカ騒ぎやら大分激しい。


 服を脱いでいる女の人が居た。

 シャルが割とドン引きしつつ、アセナを見やる。


「アセナ、服を脱いでいる女の人もおるけどアレって普通なのかの?」

「いや、アレは『そういうキャラ』で通しているヤツだな。

『女の武器』を利用して上手く仕事をこなすのさ。シャルは真似するんじゃないぞ」

「わっ、妾はお兄様一筋なのじゃ!」

「あっはっは、そりゃ頼もしい」


 耳まで真っ赤にするシャルにほっこりした。

 フルーツ盛り合わせの中には真っ赤なリンゴがあったので、質の良い物を選んで彼女とアセナに渡す。いっぱいお食べ。


 一方でショーヘイは話題の彼女にどう対応して良いか解らず、アワアワ言っているばかりで、とうとう揶揄(からか)われてしまう。

 彼女はこの機に乗じて『宣伝』している訳だな。

 こういった特殊な例は言われないと中々分からないもので、一目見てソレが『当たり前』だと判断してはいけない典型だろう。

 今のうちに知れて良かったね、ショーヘイ。おっぱい触れたし。


 そうこう考えていると隣に座っていたアセナが食べる速度を上げ、リンゴの芯ごと腹の中に飲み込む。

 なんだと思いきや、その視線の先には『舞台の主役』にされるショーヘイの姿があった。


「え~、それでは次の一発芸は新人冒険者。ショーヘイ・アキタ君。チート持ちだからなんか凄いのをやってくれ」

「え、え~……」


 しかし向こうで人付き合いが出来なくてニートをしていたショーヘイだ。突然話題を振られても、今の彼は力不足だった。


「ありゃ無理だな。ちょっと行ってくるよ」


 アセナは腰を上げ、ショーヘイの方に向かっていく。こうした冒険者に馴染む為なのか、多種多様な特技を持つ彼女の背中はとても頼もしく見えた。

 こないだとか『口笛でハーモニカの音を出す』とかいう一発芸を見せてくれたっけ。

挿絵(By みてみん)

お絵描き。ハンナさん


読んで頂きありがとう御座います。


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