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281 無理ゲはだいたいパーティー前提

 冒険者ギルド同士で戦争が起きた。


 この重要なところは、二つのギルドを仲の悪い別々の貴族がそれぞれスポンサーとして『運営』していた事だ。

 ギルド本部の言う事は貴族に踏み倒される。しかし事が終わった後も貴族は態度を変えず、逆に冒険者ギルドを縛る新しい規則が増えたという流れである。

 ほぼ泣き寝入りだ。


「だから依頼を受ける際、小説なんかだとパーティーのリーダーが格好良く全部決めるけど、現実はもうちょっと複雑だね。

大抵はリーダーが方針を決めた後、法律や貴族の関係に詳しいマネージャーが話を纏めて、最後にまたリーダーが承認する。

このマネージャーは家を継げなかった貴族の三男坊だったり、貴族の縁者である事が多い。

ちゃんとした教育を受けているし、スポンサーの親戚だったりする場合もあるからサービスも良いからね」

「ふーん、会社みたいじゃの。リーダーは社長で」

「実際そんなもんかな。パーティーメンバーは給料制だったりするし、時代だね」


 冒険者の仕事が変わった今、金払いの良い信用ある仕事を受注できるのは一部の上級冒険者。及び、上級冒険者の率いるパーティーだ。

 仕事が上級の物になるほど貴族のしがらみが関わって来るので、冒険者で成功するにはパーティーを組むのは必須事項と言えよう。


 そこでショーヘイが手を上げる。


「でも、アセナさんはソロで成功していたんじゃ……」

「ん~。それは彼女が超人の肉体と弁護士の頭脳と上級貴族のコネと、ついでにそれだけやって人から憎まれないコミュ力を全て持っていたからで、完全な例外だねえ。

ショーヘイがスーパーチート能力で全部出来るならいいけど、コネ的な意味で一介の異世界人にウチはそこまでフォローしないよ」

「俺が悪かった。流石に無理だ。ウチのゲームも法律関係までは設定してなかった」


 尚、法律関係については王国法に限らず、領によって微妙に違ったりするから其方も覚える必要もあれば、貴族の情勢を知る方法を独自で入手しておく必要もある。

 ボクに褒められたのが嬉しいのか、ショーヘイの背後にてアセナが鼻高々な様子でパタパタと尻尾を振っていたのだった。


 そんな訳で冒険者ギルドは『独立』『自由』『誇り』に執着する余り、物凄く面倒くさくなった組織と言える。

 いっそ経営をウチに委ねてくれるなら、大喜びで本部ごと買い取って現代のニーズに合わせた本格的な難民の職業斡旋組織として改造出来るんだけどな。

 ボクが手伝う書類にもそうすべきだという、家臣の案は大量にある。しかし実行に移すは難し。


「経営を続けたいなら止めないけどさ……」


 寂れた冒険者ギルド自身の紋章を見つつ呟く。

 『革靴と剣』の紋章は、魔物を倒し、人間の世界を広げるという意味だ。

 魔王は死んだ。王国は全て管理下に置かれた。新しく開拓した海は既に商人の領域だ。今の彼等の居場所は何処にあるのだろうね。

 まあ、個人的には破産したら買い取れば良いか程度に思っているけど。ウチ、金持ちだし。


 そこでショーヘイが話しかけて来る。


「思っていたより冒険者っていうか……『組織』って出来る事が少ないんだな」

「だね。中に居てあーだこーだ言われている時は万能の怪物に見えるんだけどねぇ」


 故にボクは言葉を続けた。


「それでも冒険者という枠組みの中では『自由』を保ち続けているし、ギルドもそれを奨励している。ただし、行き過ぎた自由とは即ち無法である」

「と、いうと?」

「冒険者同士では何をしても良い。

自分の身は自分で守れという、超DQN(どきゅん)ワールドであるって事だね」


 気を付けなよショーヘイ。冒険者同士のいざこざに公的機関の保護は適応されないのだから。そしてどのような人間も受け入れるが故に、多種多様な『正義』に溢れている。

 君が今から入る世界とは、そういう所だ。


 ボクは頑丈そうな扉を開けた。

 古くて重いそれは、まるで浮世と冒険者の世を隔てる境界にも思えたのだった。


「いらっしゃいませ」


 建物の中に入る。

 先ず目の前に入ったのは、笑顔で対応する受付嬢だった。

 顔面偏差値が高いが、何処か外国の顔立ちをしている。敢えて言うなら、ショーヘイの顔立ちに近いか。もしかしたら異世界と関係がある出身なのかも知れない。

 ベージュ色をしたフリルブラウスの上には、ギルドの紋章が入った焦げ茶のベスト。下半身が気になるがカウンターで隠れていた。


 どうにか全体を見れないものかと目を凝らしていると、後ろから誰かがボクの脇の下に手を入れてひょいと持ち上げてくれた。

 犯人としては一瞬アセナが浮かんだけど、指に嵌められた婚約指輪の感触がエミリー先生だと教えてくれる。


 ぐんと上に持って行かれた身体は、無事に受付嬢を見下ろし、彼女の全体像を捉える事が出来た。チェック柄のフレアスカートかあ。


「どうもありがとうございます、エミリー先生。よくボクの考えている事が解りましたね」

「アダマス君って服マニアだから、喰らい付いてくると思ってね。

此処は依頼者としてよく利用しているから、口で教えても良かったんだけど、こっちの方が面白いから持ち上げさせて貰ったよん」

「いえいえ、百聞は一見に如かず。かなりありがたいですよ」

「クフッ。そりゃ良かった」


 そう言ってポテンと床に降ろして貰う。だが、すぐさま再び身体を持ち上げられた。

 この褐色肌はアセナだ。なんと片手でボクの膝を掬い上げ、そのまま鎌のように曲げた状態で固定し、下げられた彼女の前腕に座らせられたのだ。彼女の肩が背もたれになっている。


 凄い剛力だ。でも、なんか腹話術の人形になった気分だなあ。

 ボクの視線と同じ場所に彼女の顔がある。健康的な口が陽気そうに開かれた。


「因みに、他の冒険者ギルドはメイド服が一般だったりするんだぜ」

「ふ~ん……あ、もしかしてスポンサーの意向ってヤツ?」

「正解だ。余っているメイド服でどうにかしようとするんだな。ただ、ウチの領は金持ちだから専用の制服がある。

このように冒険者ギルドをグルリと見渡すと、どれだけ豊かな貴族が出資しているかを測る音が出来るのさ」


 なるほど。

 だとしたら逆に、冒険者ギルドに出資する事で自領の宣伝になるのかも知れないね。冒険者っていうのは根無し草な人達だし。

 冒険者ギルドに来ることが滅多に無い上に、領の外に出る事もそんなにないから全然知らなかった。


 そういう視点から見ると、制服を見る目も変わるものだ。

 しかしマジマジ見ようとすると、ポテンと床に降ろされた。直立の体勢で着地。


「まあ、服を見るのは要件が済んでからで良いだろ。アタシが着てあげるから」

「ホント!よろしくね!」

「ああ、任せろ。なんかお前、顔は無表情のままの癖して目が輝いているな。中で星が輝いているみたいだ」


 服オタクですから。好奇心の奏でるワクワクは止まらんのです。

 更に横から入るエミリー先生とシャル。


「ならばアダマス君!他のギルドとの比較分析との為に私も付き合おう!

直ぐに機関車を使い、国中のギルド制服をコンプリートしてよう!」

「なら妾もギルド職員やるのじゃ!いらっしゃいませなのじゃ!」


 着々とウハウハに決まっていくファッションショーに期待が高まる。このバクバク感は止まる事を知らない。

 夢いっぱいになっていると、横やりが一本入って来る。


「あ~、アダマス。ちょっと良いか?」

「む、なんだいショーヘイ。まさか君も着たいのかい。女装趣味があったとは。

まあ、それならそれで呼ぶけど、オヤツは冒険者ビスケットで良いかな」


 因みに冒険者ビスケットとは『冒険者食』として屋台で売られている焼き菓子の事で、ギルドの貴重な収入源である。

 昔の冒険者はフワフワのパンではなくて硬く焼いたハードビスケットを持ち歩いた事が由来とされ、『冒険者らしく』レーズン、クルミ、ベリーといった木の実などが練り込まれている。


 尚、本物の冒険者ビスケットにはそんな物は練り込まれていないし、保存の為に塩気が強いし、オヤツとして食べられる程柔らかくもない。『人が殺せそうな程硬い』と言われている。ギルドの立場としてはは「一般向けするよう『多少』味を調節している」との事。


「ちゃうわい。楽しいのは結構だが、本題は俺の冒険者登録だったろうに」

「……そういえばそうだった」


 つい趣味の事になると周りが見えなくなるね。

読んで頂きありがとう御座います。


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