28 駅に着いた。なんとライバルヒロインに背後を取られてしまった
駅前は賑やかだった。
凱旋門のような出入り口の上部は懐中時計をイメージして作られた巨大な時計。
その両脇にはラッキーダストの紋章旗、頂上には国旗が掲げられている。
そして壁を真鍮色の管が幾つも這っていた。魔力伝達用の金属管だ。
大きさは様々。数人の成人男性が歩いて作業できる物から、女の子でも簡単に曲げられそうな物まで。
魔力の波長や媒体の特性などで、それぞれが使い分けられるのである。
門の脇にはラッキーダストの親衛隊が立っている。
少し豪華に装飾された憲兵の服と、軍帽に刻まれた侯爵家の紋章が目印だ。
彼等は学生、旅芸人、記者、行商人、冒険者……そんな人種のるつぼを見張るのである。
そしてボクら兄妹は、その『るつぼ』へポツリと紛れていた。
「ほへ~。豪華だのう、でっかいのう」
シャルは出入り口を見上げて呆けた表情。
とはいえ似たような表情をしているのは彼女に限らない。
これほどの物を一般に開放している貴族は中々居ないが故に、免疫のある者も中々少ないのだ。
「まあ、学園都市・王都・その他恩威を受ける貴族を巻き込んだ大プロジェクトで建てられた国営鉄道の駅だしねえ。
駅は今のところ王都、学園都市、ラッキーダストの三つしかないけど、この主要都市三つが繋がれる事で大分経済の流れが良くなったよ」
シャルは感心している。
でも、良いところばかりじゃないんだなあコレが。
「その分シャルの実家のように自由には出来ないんだけどね。
後、結構な税金を国に支払っているのとか技術者も自前って事とか……うん、デメリットの話は辞めておくよ。多すぎる」
あんな事もこんな事もあるよと、頭の中で幾つものデメリットが押し寄せる。
一言語る度に現実に引き戻されて気が重くなった。
「シャル、ちょっと髪の毛触るね」
「分かったのじゃ」
なのでシャルのお下げ髪の先っぽを両手で摘まんでピコピコと上下に動かす。
ボクの心中では「何が『なので』なんだ!?」のかと自分ツッコミが入っているが手は止まらない。
彼女は突然の事態にどうしていいか分からないようだった。
「む……。なんなのじゃ、これは?」
「なんか現実に引き戻されたから癒されたくて」
「そ、そうなのか!?え~と、え!?こんな事して癒されるのかや?」
「うん」
「ふ、ふぅん……?そうなのか。世の中にはまだまだ妾の知らない事で溢れているんじゃなあ」
「そうなんだよ。不思議だよね」
シャルの感情は、振れ幅大きくブレた後に、諦めとも呼べる想いにパッケージングされて落ち着いた。
納得してくれて何よりだよ。
実はボクもよく分らなかったんだけど、そうしたかったのだから仕方ない。
そして暫く。
ボク自身も気分が戻ってきたので、丁寧に髪から手を離した。
見届けたシャルは、よく分らないけどひとつ頷いて腕を組んで駅を見やる。
「さて、この駅のホームがあの女のハウスという事じゃな。クックック、腕が鳴る」
「あの女ってエミリー先生の事かな」
「その通りっ!さあっ、行くのじゃお兄様!」
八重歯を光らせて元気よくボクの手をを引っ張って行く。
ところがこの直後、冒険者と思われる強面な人にぶつかり転がってシャルは泣きそうになる。
それをボクは先ず謝り、シャルも謝って強面な人は許してくれた。
元気なのも良いけど、公共の人込みの場で走っちゃいかんね。
シャルは反省しているのか少し大人しくなっていた。
なので手を繋ぎボクが先行して、駅に歩調を合わせて歩んで入るのであった。
何時もの癖で親衛隊に挨拶しそうになったけど、今は平民の少年なのでスルーだ。
ボクの顔を見た途端、微妙に反応した気もするがきっと気のせい。
「さあ、此処が駅の待合室だよ」
「長椅子がいっぱいなのじゃ」
正確には他にも椅子はあった。
普通の一人用の椅子もあれば、ドーナッツ型に複数座れる円形長椅子といった変わり種もある。所々には売店もある。
貴族基準で軽くパーティーでも出来そうなスペースに、それらが幾つもあるのである。
その内のひとつ。
飾り気のない長椅子へ座ると、習ってシャルも隣に座った。
「ところでシャルよ。エミリーをやっつけるのは良いが、見た目の検討は付いているのかな?」
「クックック、当然よ。なんせ領主館を出た時から考えておったからの」
腕を組んで得意気な妹には、どこか無敵感が漂う。
ああ、これはダメな人のパターンだわ。
「そういえばそうだったね。じゃあ、発表して貰おう」
「先ずは巨乳なのじゃ!」
「根拠は」
「メインヒロインの妾がロリキャラだから、ライバルキャラはその対の筈なのじゃ」
それが科学的見解に基づいているかは別として、一応根拠はあるらしくて何よりだ。色々なフィクションを読み込んでいる事が分かる。
妹キャラがメインヒロインなのは良いのだろうか。それを聞くのは無粋なのかも知れない。
「で、じゃよ。
なんかダークなキャラっぽく動き易さ度外視の黒いドレスを着ていて、それに合わせた黒髪ロングのウェーブヘアで……」
「ふむふむ」
「目の片方が機械で、何時も謎の発明品を持ち歩いていて、笑い方がマッドサイエンティストっぽく『クフフ』なのじゃ」
色々属性詰め込んだなあ。
思い、ボクはシャルの隣の席を見る。
今、彼女はボクの方を向いているので、シャルの背後側になる。
「つまり、シャルの後ろの人の事かな?」
「……え?」
読んで頂きありがとう御座います。




