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274 アニメじゃないアニメじゃない。ホントの事さ

 先ず実物を見せる事でインパクトを与えられる。

 良いプレゼンのやり方だ。もはや驚くべきではないと意気込んでいたショーヘイは、呑まれて目を丸くしていた。

 ボクはボクで、ぶっちゃけスマートフォンが動いているのをはじめて見たので、驚きはショーヘイ以上だと思う。


 確かにハンナさんとエミリー先生の特別授業では聞いたけどさ。

 起動させる裏技の存在自体が結構な秘匿技術なので、スマートフォンのサブ機能を知る者なんて物凄いインテリ層に限られるのだ。


「父上……写真の撮影にしては随分、撮影速度と解像度が高いようですが」


 現代において写真は発展途上の技術だ。

 ガラス乾板に写真乳剤を塗って被写体を板状に写すのが主で、一枚撮るにも結構な時間が掛かる。

 尤も、そうした純粋な科学技術に加え魔力を用いた機工と写真乳剤にする事で、時間をかなり短縮したり写真フィルムを使えたりする発展型も作られており、アセナも父上から貸与されている。

 高価なのが欠点だけど、社会の発展具合を考えればガラス乾板型を駆逐するのもそう遠い未来ではないかも知れない。


 それでもこんなに素早く撮ったらブレは出るし、そもそも白黒写真だ。


「凄いだろ。滅多に使わない機能はついつい使っちゃいたくなってね。動画もやっとく?」


 まるで箱入りお姫様のように父上は軽く言うが、動画技術はボク達の世界でも映画作成で用いられるが国家プロジェクトの領域である。

 技術の未熟をカバーする為にオーパーツやふんだんに魔力を用いた錬金試薬などを使うのだが、これがまた高い。

 何年も同じ映画を各地で使い回すくらいだ。


 まあ、逆に言えばお金さえあればどうにかなるのでウチには小さな『視聴覚室』があったりするけど。


「結構です。でも良いのですか、部外者(ショーヘイ)の前でこんな技術使って」


 ラッキーダスト家の立場的に社会的優位性がこれ以上要らないのであれば、秘匿すべきではないだろうか。

 オーパーツの研究を様々な貴族と合同で行っている学園都市なら兎も角、高ランクの技術を個人で所有していると触れ回るだけでもアドバンテージは大きいだろうが、その分厄災も呼び寄せそうではある。


「構わんさ。俺が技術を所有している事を触れ回ったところで、言っているのが文無しの異世界人であれば、真実であっても世迷い事さ」


 確かに父上の言葉とショーヘイの言葉では文字通り価値が違う。

 お金とは信用の代替え品。

 生まれついての貴族であるだけで年金が入って来るのは、それだけ国から貴族という立場が社会的に信用されているから。

 つまり貴族という知識層が国民の為にお金を使うという信頼があるからだ。


 尚、後からショーヘイの居ない所で聞いた話であるが、スマートフォン撮影機能は本体が無ければ再現不可という事で外に広めるには向いていないので商品価値が低い。

 現像出来ないしね。

 写真が欲しいならアセナに鉛筆とスケッチブックでも持たせて写実的な似顔絵でも描かせた方がずっと『マシ』との事だ。


 おまけに機器そのものを僅かな時間だけ使えるようにするだけで、映画一本作るよりも高い費用が掛かるらしい。

 先程余裕そうに写真を撮ってみせた時も物凄いお金が犠牲となったとか。

 動画を断るのはボクの性格を知った上の事で、実際にやったら莫大な費用と時間をかけてやっと再現した本体が壊れる危険性もあり。


 なので有名なアイテムではあるのだが、肝心の異世界人ですら原理を上手く説明できないのもあって、その機能を把握している者はかなり少ない。

 『電話(フォン)』という名前に騙され「スマートフォン自体は沢山あるんだから、先ずは簡単そうな基本機能の『通話』を再現してみよう」と、意気込んでみるもの『何を仲介して』『何処へ』が解らないので挫折する者が多いのとか。


 だが、此処に実践レベルまで解析してしまった者も居る。


「俺がショーヘイ君の『元ネタ』について知っている事のネタバレは、異世界人を元の世界に強制送還する技術の応用だな。凄いザックリと言えば。

電波だけ向こうの世界に『返還』して情報を得ている。

たまーに『本人不在で更新される死者のアカウント』だとか『宇宙人からの通信』だとか『存在しない筈の呪いのID』だとか怪奇現象扱いされる事もあるけどさ。アッハッハ」


 軽く笑っているけど、説明を凄く省いているのはよく解った。

 物体でない電波を次元の壁を介してどのように捉え続けているのか。そもそも、異世界へは返還しか出来ないのに、どうやって向こうからの返信を受け取っているのか。

 後から聞いた話も含めれば、少し動かせば使えなくなるスマートフォンで情報を得るとか、PC専用ゲームをスマートフォンで動かすとか。


 かなりの労力があるのは間違いなく、少なくとも今手に持っているようにスマートフォンを携帯機器として使わないのは確実だろう。

 部屋いっぱいの巨大な機械に接続でもしているんじゃないかな。


 強制送還で送れるのは『元の世界』だけなので、様々な世界にアクセス出来る様に様々なスマートフォンを集めているのは理解できたが、それだけでも凄い出費と労力だ。

 パラレルワールドという概念も使うと一概に『地球』というだけでも無数にあるが、少なくとも集めたスマートフォン分の知識はほぼ全て、父上の頭に入っているのではないだろうか。


 相変わらずヘラヘラとしているが、彼は『交流』を本分とする大貴族。相手は外国人でも異世界人でも変わりは無い筈だ。

 そう考えると彼の黒い(まなこ)が底知れぬ物に見えると同時、それ以上に計り知れない努力も感じざるを得ないのだった。


「ショーヘイ君。これは優しいおじさんからのアドバイスさ」

「アドバイスですか?」

「そう。ゲームでは想定されていない事を突かれてしまう転移者ってのは凄く多い。

例えば『腕っぷしでは負けないぞ』と暴れてみたもの、ゲームでは想定されていない体勢にされた状態であっさり捕えられたりね」


 あ、ボクが「ショーヘイと戦ってもこうすれば勝てるだろう」と思って考えておいた戦術だ。

 「攻撃中にくくり罠とかで転がせちゃえば臨機応変に対応できないよね」とか、「ゲームでは扱われないマイナー技とか、一般人には公開出来ない技なんかは対応策無さそう」とか。


 尤も、後に父上に言ってみたら「それだけでは駄目」と言われた。

 チートの種類によっては、ゲーム知識では判断できない動きを『覚える』ケースもあるらしいからだ。

 詳しくは解らないが、モーションという概念の無いボードゲーム系などには経験値などで能力を得る「スキル獲得性」の物が多いらしい。


 しかしこの場合「その場で最も適した動き」が頭に浮かび半自動で動く程度なので、基本技でチェスの様に詰めていけば対処可能との事。達人の技をインストール系も同様。

 そしてこう付け加えられる。「お前と同じさ。沢山の技を使えるけど本質を理解していないから小細工にしかならない」と。

 余計なお世話だクソ親父。


 他の有効手段として、暗殺者(スパイ)等は当たり前に使ってくるが『地球人』には免疫が無い、悪質に心を攻める弁論術。

 権力を用いて『ゴールポスト』を動かす事で勝利条件や前提条件などを突然変える事で動作と思考を乖離させるなどの方法があるらしい。

 戦う当人がルールを破るのは反則だが、ルールを定める側が何度もルールを変えるのは反則で無いのだ。


 しかし父上が見せて来たのは、もっと元も子もない事だ。スマートフォンをポチポチと弄っては、ニヤける。


「ユーザー名は『ハニワマン』。使える魔法のチョイスがソロプレイっぽいなあ」

「ええっ、ちょ!?」

「あっはっは、相変わらずショーヘイ君は驚いてばかりだ。

お、アイテムボックスは此方でも使って良い物が幾つか入っているぞ。良かったな」


 再びクルリと回して画面を見せると、そこには文字や数字が羅列されていた。

 Lv56?STR?他にも色々な項があるけど、どういう意味なんだろ。そう考えていると、父上は楽しそうに二っと笑いながら話を続けた。

 ボクに意味はよく解らないが、父上が説明してくれる。悪い笑顔で。


「『ステータス鑑定アプリ』……チート能力界隈では定番だねぇ。定番過ぎて解析できちゃったよ。

異能力アプリの入っているスマホは半永久的に動く事が知られているけど、その研究の延長でさ。普通のスマホにチートアプリをインストールすると、起動時間が延びる事があるのね。

アプリ作成方法やインストール方法なんかは難しい専門知識や高価な機材が関わるし、企業秘密だから省くけど」


 そしてスマートフォンを再び内ポケットに入れ、台詞を残す。


「よかったねえ。

これが状態異常耐性貫通型の催眠アプリとかだったら、君はなすすべもなく終わっていたかも知れない。『ワンダーホライズン7』には実装されていない概念だからね」


 受動的に驚くだけだったショーヘイは、意味が解らず数秒ポカンとしていた。だが、少し考えるとゾッと一気に青ざめる。

 様々な想像を巡らせているのが読み取れて、それは父上にゲームの元ネタを言い当てられた時の比ではない。

 スマートフォンは誰でも扱える道具だという事は、今のシチュエーションを『別の誰か』に『此処ではない何処か』にやられていた可能性だってあるのだから。

 しかも父上のように丁寧に説明してくれるとも限らない。


 此処はゲームや小説の世界じゃないし、チート能力は一般人相手ですら無敵じゃない。それでも異世界人というだけで、社会的に不利な立場に置かれる。

 その事実を本当の意味で理解したようである。

読んで頂きありがとう御座います。


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