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268 翻訳チートがある事と言葉を話せる事はイコールで結べない

 改めてアセナの視点に立ち、エミリー先生の魔力の講義を思い出せば確かに納得。

 この世界の魔力の定義だと、ショーヘイの使うような魔力を人体に溜め込む事は不可能だ。

 彼の使った途方もない魔力の量とかを意味なく脳内で計算していると、赤いケモ耳が可愛らしくピコピコ動いていた。

 追加項目があるらしい。


「ついでに異世界人だと気付いた事には、アタシの耳がいいのもあってな。

川で大きな音がした時点で『ちょっと』耳を澄ませたんだが、会話が丸聞こえだった。

しかも翻訳チートで出した言葉ってやつには独特の『訛り』があるんだ」

「訛り、あったんですか!?」


 此処からあの川って数キロは距離があった気がするんだけど。しかも風下。

 これは割と大きな問題なのだが、ショーヘイはまるで「息が臭いよ」と指摘された人の様に自分の口を抑えてギョッと反応した。


 なんとも目先の心配第一で俗物な反応をしているなあ。それが彼の良い所でもあるけれどさ。


「正確には『訛りが無さすぎる』だな。

よく『実は貴族の出身なのですよ』とか言って誤魔化そうとする異世界人なんかも居るが、そういうのは『上品な言葉遣い』と『丁寧な言葉遣い』をはき違えているだけだ。

貴族のパーティーでは規則的な韻を踏む習慣があったり、古語や流行りの詩の引用なんかの独特の教養が求められる。

どの派閥に属しているかで、何を引用するかとか違ったりするな」

「と、いう事は『オレサマオマエマルカジリ』な感じにどこぞの田舎者や蛮族っぽく聞こえるとか、そういうのは無しで?」

「それは無いから大丈夫さ。

後、蛮族でも最近は田舎者より流暢に話すから、実際に蛮族を見たら言わない方が良いぞ」


 少しだけ言葉にトゲが乗った。

 異民族(蛮族)のトップなだけあって、思う所があるのだろう。

 はじめの滞在先で大外れを引いた彼女は文字通り『出来なければ死ぬ』の環境で此方の言葉を短期間で学んだ過去があるし。


「……と、ちょっと八つ当たりになったか。すまんね。

ああ、そうだ。ついでに『コレ』で姿を確認できたのもあるな」


 アセナは人当たりの良い柔らかな表情を作り、人差し指と親指で小さな丸を作った。それを目元に持って行く。

 望遠鏡の様に遠くを覗き込むジェスチャーだ。

 実際でもあのように目の焦点を絞る事で多少遠くの物が見え易くはなる。サバイバルではよくやる動作だった。


 しかしとボクも話に加わる。


「此処って普通に望遠鏡あったよね」

「まあな。ただ、川の位置は分かり切っていたのと高台な事もあって、特に要らなかったなあ。倍率合わすのめんどいし。

流石に顔までは認識出来なかったけど、棒を振り回す『ショーヘイ』も見えたよ」


 ショーヘイのイントネーションを強調し、本人へ眼を合わせてニッと笑った。お前の名前は前々から知っていたんだぞと言いたげに。

 狼の獣人だからといって、狼同様に視力はそこまで良くないという訳でもないそうだ。


 異世界人の特徴についての講釈が終わり、アセナは一息つく。

 その頃にはショーヘイが両手をグッと握りしめ、もはや目の色はキラキラと尊敬に染まっていた。


「さ、流石は黄金級冒険者……」


 いやいや、別にこれが黄金級冒険者の当たり前でも獣人の平均って訳でもないからね。アセナの身体能力がチートを疑う位おかしいだけだからね。


 エミリー先生だったりハンナさんだったり、ボクの周りってこんな人ばっかり集まる気がする。でもシャルは普通か。

 普通枠で良いんだよね?でものじゃっ娘だしなあ。


 ともあれ。やはり森番にはアセナを選んで正解だったと、改めて思った。

 なんか大声出せば普通に探知しそうだし。


「そんな訳でアタシは今までの話の流れは解っているので説明の必要はない。アセナねーさんは物分かりが良いのだ」


 エヘンと得意げな顔をしているアセナはショーヘイに視線をやる。


「後はショーヘイの働き先なんだけどさ……基本は冒険者だな。社会常識を肌で学ぶのに丁度いい。

住居はアタシが経営している新聞社に住み込みだ。

これには新聞の読み書きや社会情勢の把握など座学の意味も含めているし、ウチにはルパ族の自治区からやってきたばかりの新入りを教育する為のマニュアルもあるから丁度いいんだな。

当然、新聞売りやらの手伝いもやって貰うけど」


 そこでショーヘイは何かを思いついたらしく手を上げた。


「話途中ですけど、冒険者だったのに新聞社経営しているんすか?」

「ああ。冒険者は上級になると、スキル次第で情報系の仕事も取り扱うようになる。

吟遊詩人は初級からでも出来るが、人気のある上級冒険者だとギルドのスポンサーである貴族や依頼人の指定した唄を歌うとかな。

その中にも物書き(ライター)の仕事はあるんだが、新聞はその経験が活かされている訳だ。

勿論、物書きの経験だけじゃ経営なんて出来ないから、商売人としての経験はもっとあるけどね」

「それも冒険者の仕事すか」

「ああ。レジ打ち、接客、算盤、管理業務。ついでに調理スタッフなんかも。ここら辺は最近の冒険者の定番クエストだな。

信頼度が上がると雇われ店長の仕事も請け負ったりするぞ」


 アセナは族長の生まれだからそういうの得意そう。


 ただし彼女は合理主義者だ。完全に遊びでやっている訳でもないのだろう。

 冒険者の仕事でそういう事をしているって印象があれば、秘密警察としての情報収集に便利だとは思った。

 最終目標であるアルゴスをはじめとした改造人間の情報等を探っていても間諜だと思われにくい。


 そういえばと、「これから冒険者になるのだったね」という意味も込め、ショーヘイに聞く。


「ショーヘイはギターとかやるの?興味があるならウチの楽器貸そうか」

「……ごめん。無趣味なんだ」


 突然目を逸らしてボソボソ声で喋り出した。


 嘘つきによくある行動だが、読心術で調べても嘘は付いていない。しかし後ろめたい感情は読み取れた。

 ボクの周りでは見ない行動だ。しかし、見覚えそのものはあった。

 修業生時代のボクが「アセナ先輩以外に友達って居るんですか」や「一人の時とか何やっているの」と聞かれた時に何となく取っていた行動と同じなのである。


 つまり無意識の内に自信の無さを表現しているのだろう。

 ショーヘイの中ではギターを弾くというのは自分より社交性に恵まれた人間がやるような物であるという事か。

読んで頂きありがとう御座います。


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