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261 もしも召喚した異世界人が思い通りに動かなかったなら

───まるで意味が解らない。


 ショーヘイの心の声は読心術を使わなくても伝わって来た。ポカンと口を開けている。

 父上にこれを聞いた異世界の人達と同様の反応だった。


「え、帰れるの?

こう……俺の知っている創作なんかだと召喚された側から『すまないが元に戻す方法はない。君たちのチート能力で魔王を倒してくれ』って言われる例が多いんだが」


 あ~、外国だとそういう事あるって聞くけどねえ。

 でもチート能力で裏切って、例えば魔王側に亡命するとか、いっそ誰も止められない悪逆非道の悪党として此方の世界に居座るとか、割とどうしようもない事例多いからなあ。

 故に手を仰いで否定。


「ないね。

真っ当な政治家なら敵対したケースを先ず考えるものさ。大失敗を起こした時の政治家の対応とは、大体『臭い物には蓋をする』なんだ。

『ゴミ置き場』への道のりへの開拓に関しては、王国貴族達が珍しく一致団結して最優先且つ最高の士気で行われたそうだよ」

「俺の世界、ゴミ置き場かよ……」


 ショーヘイは少し落ち込んだ。


 それこそ、先程言った傲慢な国のようによっぽど異世界人の制御に自信があるなら「返し方は分からない」と嘘を付くケースも考えられるけどね。

 最近は人を思い通りに操る麻薬や洗脳技術の向上。他にも催眠系のオーパーツなど。確かに『制御』の方法は増えている。

 それでも、規格外の力でそれらを破ってくるかも知れないのが『チート能力』なんだ。安全に国家運営をしたいなら『何も無かったことにする』為に強制送還先を見つけるのが最優先だったのである。


 因みに付け加えるなら、洗脳・操作系チート持ちの異世界人の割合も多く、正直なところマンネリ気味だった。

 学園都市の発表では、人を高みの立場で好きに操りたいという欲求を持って異世界に来る者が多いせいだとも言われている。


 その事実に対し、貴族が操られてしまっては危ないと、人権や倫理観なんて放り投げた研究によって解析されて対策も取られる事になったのだ。

 当初このプロジェクトは失敗すると思われていた。無限に近い多様さを持つチート能力には勝てないだろうという声が多かったのだ。


 だが、何故か研究者達の間で天才的な閃きが連続して発生。それらを融合した結果、理論上どのような洗脳でも防ぐ事が出来る技術が完成してしまったのだ。


 奇跡の研究者たちは錬金術士として多大な栄誉を得る事になると思いきや、対操作チートの技術を無償で国全体に伝え、こぞって隠居し余生を過ごす事になる。

 頭を丸めて寺院に籠る者も居た。


 皆は揃って「あれは私自身の閃きではなく、神からの天啓だった。今後は神に感謝しながら静かに生きていく」と、神が実在すると信じ切った答えを出すのだ。

 神を全く信じていなかった者も「自分でない高次元な何かが私の精神に入り込んできたのだ」と、確実にそれらしい存在を認めている。


 隠居生活の元手となる発明の恩賞は、別に慎ましい生活でなくても一生遊んで暮らせる程だった。まるで、隠居という結果を予知したかのような王室の動きだったらしい。

 王室はノーコメントを決め込んでおり、真相は謎のまま。


 尚、この時の成果で権力の拡大を目指す教会内の動きもあったそうだが、そうした連中は揃って不慮の事故に巻き込まれたそうな。

 この事件は「人間とは神に選ばれた霊長の存在である」という歪んだ倫理観にブレーキをかけ、道徳の見直しに役立つ事になる。

 また、学園都市の成果は結果的に洗脳技術の欠陥を浮き彫りにし、余計に異世界人を制御しようという者を減らしていた。


 一部の神学者はこの事件を分析する内に「まるで特別に贔屓している貴族に術を施したいが、影響が大き過ぎるしチート能力のバランスも整理したいから、いっそ全てを操り王国全体の技術にした」みたいな話と評している。


 実際にこの術は、何故かピコピコ=リンリン王国の貴族もしくはその縁者にしか発動しないという特殊な物で、貴族によって強さもまちまちだ。

 貴族としての位階も関係が無い。

 しかもチート的な操作能力に効く事は明らかになっているのだが、威圧などのそこまで強大でない力にはそこまで効かないし、原理も謎だ。

 『神がバランス調節しているのでは』というオカルト的な説が一番説得力があるという事に、どれほど解析出来ない技術であるかが窺えた。


 これを学園都市は『貴族権限』と名付け、現代でもたまに内容が変化しているカテゴリである。

 神様から見れば、技術の進歩と共に『本当に抑制すべきか』という基準も変わっているのだろうね。


 そんな『邪神』、居たとしたら顔を拝んでみたいものだ。

 もしも味方になってくれるなら、ハンナさんなど愛する皆の為に、ボクはなんだってするかも知れない。


 と、逸れた話が長くなった。異世界人返還の話へ戻そう。


 そもそも異世界人なんて『武力』を抱えているなんて知られたら周りの貴族から非難轟々だけどさ。

 そういう背景もあって『王国に仕える貴族として』だったら、異世界人を見つけ次第、元の世界へ強制送還一択だ。

 ウチのように選択肢を与えるのは結構稀な方。


 それでも最近は没落する貴族も多いし、やけっぱちになった古い歴史を持つ貴族が、たまに古文書なんかを使って悪魔召喚よろしく呼び出して都合の良い情報を刷り込ませて暴れさせる事もあるから始末に負えない。


 尤も剣と魔術の時代で呼ばれた異世界人達の中に、世界に反旗を翻すような人は滅多に居なかったそうだけどね。

 さっさと逃げて異世界スローライフを満喫して一生を終えたそうな。

 当時は鉄道も無いし危ない魔物がそこらにウジャウジャしていたから人類の移動範囲は限られており、王国の目の届かない所は現代よりもかなり多かったのである。


 と、言う訳で皮肉な事に魔王が居た時には大して役に立たない技術だった『強制的に元の世界へ返す』は、泰平の世になってからその効果が発揮されるのだった。

 因みに元の世界に送り返す技術であって、別世界に行く技術ではないので異世界を植民地化しようとかそういうのは無い。

 魔力や遺伝子なんかの波長が関係しているらしい。


 更に余談であるが、ボクとシャルと一緒にお菓子を作って遊んだ、地球でない異世界の女の子であるが、その後彼女の兄を名乗る男の子二人に連れられて帰っていった。

 今思えばアレも、この帰還技術を使って帰ったのだと勝手ながら思っている。男の子二人が父上に会ってから迎えに行った図式だ。


 と、いう訳でウチの領は異世界人が何時観光に来ても大丈夫。

 おいでませラッキーダスト侯爵領。我々は何時でも異世界からの来訪者を歓迎いたします。


 そんなこんなで『地球』に返す事は比較的簡単に出来るので聞いてみたが、ショーヘイは否定した。


「いや……俺はいいよ。元の世界に居場所がない」

「そうだね。君はそう答えると思っていた。と、いう訳で二つ目」


 また一本、指を折り曲げる。


「『学園都市で実験動物として飼われる』だ」

「却下ぁ!」


 元気いっぱいに否定してきた。

 でも与えられるだけの世界なので『幸せ』なニート生活を送って一生を終えるにはこれ以上ない待遇だったりするぞ。

読んで頂きありがとう御座います。


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