259 宇宙で爆発音は出ないが、出た方がエンタメ的に盛り上がる
身振り手振りを交え、順を追って説明していく。パタパタってね。
先ず思ったのは、明らかに剣舞に代表されるような『魅せる』動きだった事だ。
とはいえコンピューターゲームという遊具のモーションだ。使い手にとってアバターが何をしているか解らなければ退屈でもあるので、魅せ重視に移行するのはよく分かる。
だが、それを踏まえても彼の技はゆるやかで、しかも大振り過ぎだ。技術力は高いんだけど、実戦的ではない。
経済を円滑にする為、儲かる仕事を民衆に与えるのも貴族の役割だ。その視点に身を置いてみると、リアル思考の顧客には受けが悪いのではないかという考えが浮かんだ。
だがそれは、もう一つの可能性にも至る。
武ではなく舞を扱う『役割』であるならリアル派も受け入れることが出来るのではないかと。
これは踊る為に存在するという意味ではなく、普段は剣などを振り回す事をしない役割だという意味だ。
ボクはパーティーの出し物などで剣舞というものを何度か鑑賞している。
アレはもっと鋭く疾い動きを入れるものだったが、その途中で何かに奉納するような緩やかな舞が混ざるのだ。
場面や曲によって動きが変わるから一概にも言えないけど。
そしてボクが製作者なら『差別化』を考える。
騎士や戦士といった近接系の職業には鋭い動きを与えて爽快感が出る物にする。そして僧や魔法使いなどの魔法職には、たまに見ると楽しい緩やかな動きを与える。
魔法使いが戦士並みにヒュンヒュン動くと他の職業から文句出そうだし。
後は『棒術』という武術ではなくて、力任せに引っ叩くスポーツ的な動きに近い物を感じたのもあったかな。これは武術を学んでいる者としての勘が強いけど。
安直な発想であるが「魔法使いにとっての接近戦は武術ではなく、緊急時の攻撃手段」という事を再現したかったのだと思う。
つまりショーヘイのモーションは、棒を『棒』ではなく『杖』として捉えていた訳だ。
それにしては魅せる技術があったが、需要と供給の関係と言ったところか。
俳優なんかが『オタク系男子』と売り込みつつ、髪をちょっと伸ばしてメガネを付けただけで、ちゃんと一般向けするように細マッチョな筋肉をしっかり付けているあの現象だ。
ショーヘイには言っていないが、ぶっちゃけそれでも安心できなかったので読心術を使ってカマかけもした。
当たっていたのでヨシ!
「と、いう訳でショーヘイ。『奥の手は最後まで取っておこう』なんて考えないで、試してみた方が良いと思うよ。いざピンチになって、一かバチかでは怖いものがあるからね。
流石にこの森を消し飛ばすのはやめて欲しいけど、それでも確認したいゲームの魔法とかはあると思うんだ。ボクがショーヘイだったらそうしている」
ジッと彼を見ていると乾いた笑いが零れていき、段々と大きくなっていく。
彼はペチリと手の平で己の顔を鼻から叩いた。
「はは、ははは……。
お見通しかよ。アダマスは何でも出来るんだな。……ただ与えられただけの俺とは大違いだ」
子供の顔で紡がれる、追い込まれ続け自信を剥ぎ取られた疲れた大人の台詞。
それを見ていて感じたのは「勿体ない」という感情。哀れみでも同情でもない。可能性を自ら潰す行為に我慢ならなかったのだ。
人は何歳からでもやり直せる。
例えばアセナの会社も殆どが素人のルパ族だけど暗部の助力もあって上手く回っているし、ウチの領の冒険者ギルドの人達なんて泰平の世になってから冒険者らしいことは大してしなくなったけどなんとかやっている。
しかも彼は若返る事が出来たんだ。
正直な気持ちを言えば、若返らなくても……なんならチートなんて無くても十分だ。しかし、それによって選択肢は増えたと思う。
きっと『強く』なれるさ。
彼の両肩に両手を置く。独特の黒い目をじっと見た。
「とんでもない。ボクは周りに付いて行くだけでも平気さ。君がボクを凄いと思うのは、ボクの周りが凄いからに過ぎない。
だったら『何でも出来る』ボクの近くにいる君は、きっと周りから見れば何でも出来る人間に見えるものさ」
言うと戸惑い、しかし自信なさげに恐る恐る聞いてくる。
「……ホントに?俺みたいな奴でも、アダマスみたいになれるのか?」
「ああ、勿論。ボク程度なら楽勝さ!」
力強く肩に力を入れてやった。
するとショーヘイはムズムズと下瞼を少し歪ませ、棒を力強く地面に刺す。そこから漏れるは囁くように小さな声。
「なるほど。確かにな……。
この身体になってもチート無双でウハハ~って感じにはいかないもんだしなあ」
だがしかし、声は段々と大きくなる。彼の心の如く。
それが頂点に達した時、彼は両掌で自身の頬を引っ叩いた。パチンと一喝入れた後、その瞳には闘志の炎が浮かび上がっている。
まるで別人だ。いや、もしかしたら今の彼こそ本来のショーヘイなのかも知れない。只、抑圧の中で自信を失い過ぎていただけなのだろう。
「ん。よっし。自信付いた!んじゃあちっと、俺なりに頑張ってみようとするかね」
頬をやや腫れさせ、手の平を前に差し出した。
「【アイテムボックス】!」
この世界の理に反した力が顕現された。
何もない空間から手品や瞬間移動であるかのように宝石を嵌め込んだ杖が現れる。とても実用性に欠ける、演劇で使うような見た目だ。
ショーヘイはそれを握る。
予想の範囲内だ。
アバターの見掛けを変えないように、ゲームで入手した持ち物を異空間に収納するという、転移者に珍しくない能力だ。
こういう能力があるとハンナさんにも習っている。だからボクは、まだ驚かない。
片手で握られた杖は、縦向きで前に向けられた。
この時の『構え』を題するなら『堂に入っている』とでも言おうか。モーション自体は与えられた物の筈なのに、心は止水の如く澄んでいて迷いがない。
失礼な話ではあるが、彼にはじめて『自信』というものを感じた。
たったこれだけは信頼出来る。当たっても外れても、それでも信頼している。
今まで心を読んできた中で、何年もかけて親しんできた技や道具を扱う武術家や職人が持ち得る気持ちの在り方に似ている。
そして彼は言霊を口ずさむ。
「分かる。解るぞ!
どのように体内で力が巡り、形にするか。どのように杖へ力を込めて増幅させるか。どうやって形にした物を目標へ伝えるか。
言葉には出来ないけど解るんだ!呼吸の様な、筋肉の動かし方のような、生まれ持った感覚!それが脳だけではなく身体が理解している」
杖の宝石部に力が収束し、神秘的な赤い光を放つ。
ショーヘイの瞳はその一点をジッと見ていた。黒い目に移る様子はまるで、宇宙にポツンと浮かぶ恒星である。
これが『魔法』か。ボク達の『魔術』とは一線を画す、人間に許された権限を超えたチートによる恩威。
それは力を示す言葉で締め括られる。
「いでよ、【ファイヤーボール】!」
杖の先端から『力』が巨大な火球という形で放たれた。
大きさはサッカーボール程で速度もパスボール程度と、目で追える程度にはそう速くない。だけどもショーヘイの純粋な信頼がその危険さを物語っていた。
『力』は流れる川に着水。
直後。
ガス爆発のような爆音と共に大木をも飲み込まんとする巨大な水柱が上がり、大量の水蒸気を遥か上空まで持ち上げていった。
その様は人に許された力の範疇を超える物であるかのように、天に昇って行く水竜を連想させるものだった。
後で聞いた話だが、【ファイヤーボール】とは着弾時に半径6メートルの大爆発を起こす中級魔法使いが集団戦を行う時の主力魔法との事。
シンプルな名前なので幾つもの別作品に同名の魔法がそれぞれ存在するが『あーるぴーじー』黎明期のファイヤーボールはこんな感じだったとか。
内心で「こっちは焚火ひとつ起こすにしてもあんなに手間がかかるのに魔法ってヤツはさぁ」とかも思ったが、羨ましくはなかった。
この世界において、その力の大部分は制限されるのだから。
昔だったらその力で無双チートなりやっていけたんだけどねえ。共存する為に、転生者に対する法律が整うとはそういう事だ。
でも、自分の実力把握は大切かな。
尚、後から試してみたのだが杖でなくてもそこらの棒。それどころか無手でも『魔法』は使える事が解った。そういう展開はゲームで多いらしい。
読んで頂きありがとう御座います。
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