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254 アダマスの胸中

 ボクはアダマス・フォン・ラッキーダスト。

 名前に貴族を表す『フォン』が付いているので偉い人だ。


 今日は潜伏などの訓練として、スポーツハンティング用にラッキーダスト侯爵領が所有している森林でサバイバルをしている。

 潜伏『など』というのは、自然の中で生活する事で都市部では得られない感覚を得るというエリート教育の一環でもあるのだ。


 服装は自由だが持ち込みで許される武器はナイフ一本。


 人目の付かないこの機会を利用して外部勢力ボクに誘拐や暗殺を仕掛けてこないよう、森は探知に優れたルパ族に包囲されて猫の子一匹侵入させない状況だ。

 少なくとも道に迷った行商人なんかが偶然入り込むなんてないね。


 更にあの父上の事だ。

 知らされてはいないが、森内部への対策をしていない筈ないし暗部に尾行されている可能性もあるな。

 暗部の尾行術はハンナさん由来のものなので、気付けないから居ても居なくても同じなんだけどね。シュレディンガーの暗部だ。


 こう長々と書くと大した事のように見えるけど、ぶっちゃけ補習授業である。

 こないだ誘拐されたから「誘拐用の訓練追加だ」と、父上に押し付けられたのが実態だ。期間は五日。


 取り敢えず一日目は森生活の『師匠』であるアセナから教わった方法で作ったショートボウを作った。


 作り方としては打製石器の要領で石斧を作り、適当な木材を叩き割ってナイフで形を整える。弦は木の皮を裂いて採取した繊維をよじって作った細縄を使用。

 矢羽は硬い草でも代用が効くが、時間が経つにつれて丸まっていくので鳥の羽を地道に集めるのが望ましい。集めたそれを、木の幹の樹脂を接着剤にし繊維で結ぶ。

 一方で矢先も石や骨の(やじり)が望ましいが、作るのに手間がかかるので尖らせた先端を火で炙り、程よく炭化し硬質化したものを使っている。

 こんなのでも木の幹程度なら簡単に刺さる威力をしているね。


 大型獣などを倒す為に威力を重視するならロングボウだが、矢が貧弱過ぎるので毛皮を貫けないだろう。強化魔術を使えばどうにかなるかも知れないが、連発できるようなものでもなし。

 故に鳥や小動物、もしくは魚狙いのショートボウにした。木が茂っているので取り回しにも便利だしね。

 こうして順風満帆なサバイバル生活を送る事はや四日目。


 不審者を見つけた。

 ボクは気配を消し、草陰から様子を伺いつつ読心術を発動させる。


 人種は黄色人種。変な柄の安っぽい上下の服。

 武器は特に持っておらず、ポケットからは電源の入っていない『スマートフォン』を取り出して、鏡代わりに自分の顔を確認していた。


 スマートフォンは転移者が持ち込んでいる事の多いアイテムだ。

 魔力が電気機器を無力化する為、プレーンな物は先ず使い物にならずそこら辺に落ちている事もしばしば。

 ただし拾う神もあり。父上が何かの研究に使うらしく、珍しいクワガタくらいの値段で引き取るおふれを出している。

 具体的には大銀貨一枚。


 因みに例外もあり。

 魔力的要素が込められている物は魔力環境でも起動し、スマートフォンとしての機能も使える事が確認されている。

 専門性が強くて詳しくは解らないが、学園都市の見解だと電気とは別の何かで動いているらしく、魔力環境下で電気機器を動かす裏技のひとつである。

 そんなスマートフォンには『ステータス操作アプリ』や『催眠アプリ』や『あらゆる物が出るガチャアプリ』などのチート能力が備わっていたり。


 話が反れたが、真っ黒い画面をのぞき込む彼に対しては、例外を警戒する心配はなさそうだと思った。


 あれは間違いなく『異世界人』だ。

 稀に現れるのを父上に会わせられる事がよくある。出身は見るからに『地球』だな。分かり易い。


 多様な世界線から現れる彼らは、しばし地球ではない世界からの来訪者も存在するが、そうした転移者の判断は文明が似ている分難しい。

 特にファンタジー世界の人とか。


 つい最近の事だが、此方に来たばかりで迷子になっていた異世界人をシャルが偶然連れてきて、チョコレート菓子を一緒に作った事がある。

 妹がまた新しい友達を作ったんだなと思いつつ一通り遊んだ後にバイバイと別れたものの、それが地球ではない異世界人だったと確信したのは別れた後だった程だ。


 さて。

 異世界転移してきた殆どの人間は、特殊能力(チート)を持っている。故に、異世界人に会ったら先ずは情報の把握が求められた。

 ボクは遠くからジッと観察し、分析する。


 仕草を見るに、まるで田舎から都会にやって来たお上りさんの如く状況を確認している様に見える。

 自分の顔を見て驚きの感情を抱いたという事は、異世界に居た頃に比べて見た目が変わったのだと思う。

 そこに嫌悪感は無く、寧ろ幸福感を読心術が読み取った。

 恐らく性別が変わったとかの類ではなく、若返った・美形になったといったところか。


 総合するに、此方の世界にやって来たばかりと結論を出す。

 だとしたら好都合。自身の能力すら把握していない可能性があるね。ちょっと仕掛けてみよう。


 木の葉や枝だらけの地面で物音を出さないよう、サバイバルで培った忍び足で背後に回る。

 此処まで接近されても気付かないという事は、気配探知型の能力を持っている可能性は低い。

 ナイフを背中から打ち込めば殺せる。そんな目と鼻の先の距離まで歩を進めた。


 ここで一旦「実は相手は気付いていて、奇襲の機会を伺っている」と仮定した状況から出される攻撃方法と対処法をシミュレート。

 心の覚悟が出来ていれば、大体の不意打ちはどうにかなるものだ。これが出来ていれば、そこらの殺し屋程度なら返り討ちにする自信はある。


 そんな警戒を背中に隠しつつ、表では無知で無邪気な子供っぽい演技を心掛けて話しかけた。


「君、誰?なんかおじさんっぽい」


 転移したばかりの異世界人ははじめて優しくしてくれた人間に友好的な態度を取る事が多い。自身より『か弱い』者に対しては特にそうだ。育った環境の倫理観によるものか。


 そうでない場合もあるので油断はしないがね。どこの世界にも悪人は居る。

 そして返事が返ってきた。


「おじさんって言うなし。そりゃ、少し俺の方が年上だけど同じくらいだろう」


 やたら年齢に突っかかるね。見た目の変化は『若返った』でほぼ決定かな。

 『前世界よりもハンサムな別人になっていた』の線もあるから、決めつけはいけないけど。


 そして此方の言葉でも通じるから、翻訳チートは持っているという事だ。


 助かる。異世界語は苦手だから上手く出来る自信がなかったんだ。

 実はボク、次期領主として異世界文化の授業をハンナさんに習っている。

 知っている言語は転移人口が多い為に資料の多い日本語か、向こうで共通語とされる英語。そして古代人が来た場合の為に僅かなラテン語のいずれかで会話する必要があった。


「……ごめん。後ろ姿がそれっぽかったから」


 その背中は疲れ切った中年男性のようだったよ。


 言語と一緒に習った異世界史を思い出していた。細かい技術なんかは教えてくれないが、大雑把な歴史の流れや服装なんかは教えて貰える。


 態度と服のデザインからして、地球における20~22世紀の日本人ってところか。

 でも、確かスマートフォンは21世紀の持ち物だったっけね。

 よく居る普通の異世界人だ。


 彼は頷きながら話を続ける。


「うんうん、結構失礼だけど分かってくれれば良いんだよ。謝るのは良い事だ。

でも名前を聞くには自分も名乗ってからじゃないかな」


 プライドが高いというより情報を引き出したいんだな。

 この下手くそな誘導は専門家という訳ではなく、人をそんな信用してない感じだな。

 異世界人には結構多い、人付き合いで痛い目にあったタイプかな。


 先ずは挨拶からはじめよう。

 握手の為に手を差し出した。この習慣がはじまったのは19世紀。21世紀の日本なら一般的な挨拶……だった筈。


「そうなんだ。ボクはアダマス。

侯爵領から許可を頂き、師匠と共に森で生きている者さ」


 嘘は言ってない。

 父上の許可を貰ってアセナの指導の元でサバイバル生活を送っているのだからね。

 何も知らない人だったら、昔のエルフみたく中世で森と共に生きる原住民か何かと勘違いしそうではあるけど。


 同調効果で似たような挨拶をする事を期待する。

 自分は何者で、現状の社会的立場に対してどの様な認識をしているか。

 医者や学者など、職業に自信のある人だったら前世界の立場をはっきり言う確率が高い。


「アキタ・ショウヘイだ。

気付くと此処に居た迷子の行商人だ。森の使用許可を頂きたいから、案内して欲しい」


 はい無職ね。

 ギュッと互いの手を握る。これだけでも力加減や指の扱い方、体重の取り方や伝わって来る力の流れなんかで多大な情報を得る事が出来る。

 握手で得た情報からして格闘経験どころかスポーツ経験もなし。

 しかし、見た目に反して握力は高め。何らかの身体能力に関するチートはあるそうだな。もう少し調べるか。


「よろしく。ショーヘイ」


 取り敢えず減点だな。

 確かに行商人になるのに年齢制限はないが、その年齢だったら行商人見習いの方がこの世界の社会では整合性を取り易い。


 そんな胸中を抱えつつ、警戒されない様にニコリと微笑んでみせた。

挿絵(By みてみん)

お絵描き。アダマス


読んで頂きありがとう御座います。


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