248 ペロリスト
ボクが牡蠣の身を美味しく咀嚼している一方で、一緒に遊んでいた皆はベッドの上で横になっていた。
息を荒げ、ビクンビクンと痙攣している。
仰向けやうつ伏せなど寝る形は様々であるが、表情はだらけ切って暫し涎も出ていた。シーツが汚れてしまうが、まあ今更といったところ。
たまに「あ~♡」だの「う~♡」だの、言葉にならない甘い声も聞こえてくる。
理想的な絶頂を何度も迎え、全部を出し切ったような余韻に浸っているのだ。肉体的な体力はまだ余っていたりもするのだが、ソレはソレ。
いわゆる賢者タイムである。
ところで、実はこの中で一番ボクが体力で劣っていたりする。シャルも種族的優位があるしね。
だから技術と才能で補った。
読心術をフル活用して快感を読み切り、弱点を最高の技術で攻め続けたのだ。なので暫くは腰が砕けた状態になっているだろう。
恐らく読心術が一番役に立っている場面だ。交渉やバトルなんかより、ずっとね。
こういうのも絶倫っていうのかね。
取り敢えずは皆を失望させてない事は確かなので、ハーレムの主としてはとても役には立つ能力とは感じていた。
さて。
牡蠣を飲み込んだ時なのだが、ふと目の前で微笑を浮かべているハンナさんと目が合った。
さっきまで考えていた事の影響で、昔ハンナさんから色々な『遊び』を教わったのを思い出す。
「折角だしハンナさんも遊んでいく?楽しいよ」
「ありがたい申し出ですが、私はこれから仕事があるので」
少し残念そうに、首を横に振った。
「緋サソリ事件の後始末かな。父上にやらせておけば良いんじゃないの?」
普通のメイドさんなら今日のバリツの訓練の成果なんかを書類に纏めるとかだけど、ハンナさんだったら昼中に終わらせているだろうしね。
緋サソリ事件の後始末は、内々ではなく彼女が国全体の動きに合わせなければいけないので彼女基準では遅れる案件になるだろうと目星をつけてみたのだ。
故に、それは当たっていた。
「これも侯爵家に勤める家政婦長の義務ですから。後は、そうですね……」
「後は?」
「シーツを取り換える者が居なくてはいけないでしょう?後でまたお邪魔させて頂きます」
「アハハ、それもそうか。ありがとっ」
軽い笑いを交わす。
そんな何気ない会話をしていると、第三者の声がやってきた。
「……おや、美味しそうなものがあるじゃないか」
ボクの隣にヌッとエミリー先生が現れたのだ。
余裕そうな口ぶりであるが足腰をガクガクさせていた。そんな状態で牡蠣を手に取ろうとしているのだから、当然上手くいっていない。
ところでこの姿は既視感があるな。少し考え、ピンと直感で思い出す。正に妬いている時のエミリー先生じゃないかと。
なのでボクは、エミリー先生の取ろうとする貝を手に取った。「あっ」という彼女の驚嘆もを束の間、横から抱きつく。
腰が砕けてよたよた歩きだ。予想通りに直ぐバランスを崩した。
倒れる彼女を背中から支える。
丁度ボクの胸元に頭があるくらいの倒れ具合で、社交ダンスではよくある大勢。
本当はお姫様抱っこにしたいんだけど、もうちょいボクが大きくなるのを待って欲しい。
そしてボクは、『ボク自身』の口元へ牡蠣を持って行くのだった。
完全に身を口内に移した。少しだけ屈んで、彼女と唇を合わせる体勢に移る。
意図を理解したエミリー先生は直ぐに受け入れてくれた。互いに絡め合う行為は数秒ほどであったが、もっと長い至福の時間にも感じる。
特に料理に使ったレモンの味を強く感じたのだった。
完全に牡蠣をエミリー先生へ移す。
かなり食べ辛い体勢なのにも関わらず、彼女はそのままよく咀嚼して、よく味わって、そして名残惜しそうに飲み込む。
「クフフ。飲み込まないとお話出来ないから仕方ないね……っと!」
勢いよくエミリー先生はボクの首へ抱き着くと、ペロリとボクの唇を舐めてきた。
唇を離すと、目の形を弓にした彼女と見つめ合う。サワサワと揺れるウェーブ髪が、星を散りばめた夜空の様に艶やかだった。
官能的な動作で己の唇も舐めて一言。
「口に食べ残しが付いていたのが見えたのでね。取ってあげたよ」
「……ありがとうございます。食べ辛そうでしたからやってみたのですが、そのお礼ですかね」
「ああ、お礼さ。美味しかったよ。お酒が効いていて酔っちゃいそうだ」
「そうですか。まあ、その時はまた支えてあげますね」
「うんっ♪」
楽しい建前遊び。
そんな事をしていると、牡蠣の数が少なくなっている事に気付く。なんという事は無く、他の皆も起きて料理を手に取っていたのだ。
凄い回復速度だよなあ。腰が砕けていた筈なのに。
「あはは、お熱いね。お二人さん」
先ずはアセナが牡蠣を片手に声を出した。全裸で。
彼女はボクの作業机に座り、酔っぱらったよう野次馬の如く見物を決め込んでいる。そうした流れで牡蠣の身を口内に含んだ瞬間、キラキラと目を輝かせ、モグモグと咀嚼した。
うんうん、解る。美味しいからそんな反応になるよね。普段はあまり海の物を食べないアセナも満足げに耳をピコピコと動かしていた。
「面白いシチュなのじゃ。続きはないのかや」
牡蠣を上品に両手で持って、チビチビと食べているのがシャル。心なしかドキドキしているようにも見えた。
ロマンス小説でも読んでいる様な気分なのかもね。残念ながら続きはないけど。
敢えて続きがあるならば、それは読者参加型だよ。
同じ野次馬でも印象が大分変わるのは面白いものがあった。
さて。一人二枚の牡蠣料理はであっという間に終わる。
そしてボクは皿に残った一枚を手に取ると、ハンナさんの口元に運んだ。
これはエミリー先生の時と理由が違う。ちょっと意地悪な遊びを思いついたのだ。