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245 政略というルール。純愛という自由

 修業場に居た頃を思い出してみる。

 アセナの事以外は良い思い出がないので、あまりよく覚えていない。

 アセナが卒業してからはあまりにもつまらな過ぎたので、ボクも権限を利用し早期卒業し、エミリー先生との家庭学習に切り替えた程だ。


 全年齢合同の場合が多かった記憶があるんだけど、アセナとばかりペアを組んで他には興味なかったしなあ。

 だが、記憶の糸を引っ張ってみると思い当たる所は見つけられた。ハッとする。


「……ホントだ」


 特に自由時間なんて思い出してみればもはや男女間の『お誘い』がメインじゃないか。

 アセナはフッと微笑む。ボクの考えている事を察したのだ。

 その顔のまま付け加える。


「侯爵様が意図的に規制していない隠しルールさ。

一般的な『学校』とは違って『修業場』は、繋がりの浅い貴族子弟や令嬢たちの横の繋がりを促す場でもあるからな。男女合同が多かったのも、互いに接する機会を増やす為だし。

自覚なかったかも知れないけど、アタシもアダマスもよくナンパされていたんだよ?断っといたけど」

「あ、それはご苦労を」

「あはは、いいのいいの。

アタシも『お姉ちゃん』として、アダマスを守らなきゃって思っていたからねえ」


 グリグリと顔を左胸に押し付けてきた。どうしてか胸がトクンとする。

 その雰囲気が、今のボクと同じくらいの年齢だったアセナに被ったからかも知れない。


 彼女程の社交性なら退屈なボクに付きっきりにならず、他の楽しい選択も出来た筈なのにと考えた事は幾つもあった。でも、それを口にするたびに彼女はボクに構ってくれたのだ。

 「誘われるのも悪くないかも」と考え、ケモノ耳の付いた彼女の頭を撫でた。


 少しだけ「アセナらしくない」と思ったから。彼女はもっと打算的な人だったと思うんだ。


「……この『お誘い』は勢いから来るもの?」

「ん~。まあ、そうだな。

付き合うにしろ結婚するにしろ、申し込みなんて大体勢いだ。先の不幸なんて考えたらどうしようもないだろ?

エミリーとシャルを選んだ時もそうじゃなかったか」

「うっ」

「あはっ。ほ~ら図星だ」


 ころんと顔を傾け、ボクの肩に頬を置いてみせた。大分身長差がある筈なのに、凄い柔軟性だと思う。

 彼女は少しだけ真面目な表情になる。


「なんか納得いかなそうな顔してるね。

じゃあ、少しこちらの事情を言うとアタシも部族の方から急かされていてね。

女性誌でよくある『そろそろ孫の顔を見せてくれんかのう』って言えば解るかな」

「あまり読んだ事はないけど、言わんとしている事はよくわかったよ」


 政治的な話になる。

 ルパ族は王国から見れば単なる異民族であり、その地盤は余りにも脆い。

 なので支配者階級(ボク)との子供は、将来の為に産めよ増やせよな方針なのが妥当な判断だ。

 寵姫であるアセナの子供は支配者そのものにはなれないが、侯爵領内では重役に付きやすくなる。


 しかもボクの周りの女性関係についてだが、正室のシャルは子供を作るにはまだ若く、側室のエミリー先生は子供を産めない。

 なので現時点で子供を作るには、実はアセナが一番向いているのである。ハンナさんという強敵も居るが、今のところ主従の距離感を保っている。

 このチャンスを逃すまいと、ルパ族が躍起になるのは当然の事だった。


 アセナの琥珀色の目は、ジィっと観察するようにボクの目を見ていた。ボーイッシュなだけに睫毛の長さが際立つ。

 また彼女は柔らかく笑った。ニヒヒと綺麗な歯を見せる。


「ま。部族の都合うんぬんは置いといて、普通にアダマスの事が好きって気持ちの方が強いけどな。そうでなければアタシは修業時代でとっくに襲い掛かっていたろ?

実はあの時もアタシは色々言われていたし。

なんでも疑わずに自信を持った方が良いぞ。な、アタシの『ツガイ』殿」

「……」


 続く言葉が思い浮かばない。見透かされ、つい無言になってしまう。

 血は繋がっていない。種族すら違う。それでもやっぱ『姉さん』なのだなと思い知らされた。

 「アセナらしくない」なんて思って申し訳なく思う。寧ろ、とても彼女らしい行動じゃないか。


 ゴクリと息を呑んでしまう。もはや据え膳喰わぬは男の恥。ボクとしては構わなくなってしまったのだが……さて、どうするか。

 思いつつもつい、彼女の唇へ顔を寄せた途端だった。


───ぺちーん


 平手で叩く音がして、アセナの尻尾が跳ね上がった。「んぎゃ」と、全然色香のない声が上がる。

 音の出どころはアセナの腰部。ていうか尻。


 アセナは、後ろに移動したハンナさんに尻を叩かれていたのだ。


「つまみ食いは後でして下さいませ。今は訓練中でしてよ」

「え~、イけると思ったんだけどなあ」

「普通の鍛錬は兎も角、バリツの取得は重要な科目なので。

覚えてからなら護衛になる機会も増えるので、自然に二人きりになる機会も増えましょう」

「む。じゃあ仕方ないか」


 するとアセナは芋虫のような動きが嘘みたいに、軽い動きでボクの膝を離れた。

 楽そうな顔色とは思っていたけど、やっぱ痛みはもうないらしい。獣人恐るべし。なんでこの人達国を追われたんだ。


 そこで彼女は何か思い出したかのようにクルリと此方に振り向く。


「あ、そういえばさ。今日の夜にアダマスの部屋に寝に行って良い?シャルとは何時も寝ているらしいし」

「え……ボクは良いけどシャルは?」

「んむ?まあ、良いんじゃないかの」


 ついつい流れで言ってしまう。するとアセナは再び悪戯が成功したかのようにニシシと歯を見せて笑っていた。


「よし。言ったな。じゃあ今夜はよろしくん」


 ちゃっかり『お誘い』の約束を取り付けられていた。

 ご機嫌な様子で手を振るアセナ。う~む、やはり抜け目がない。


 そんな一方。ハンナさんが『何処か』へ向かって囁いていた。内容はよく聞こえない。


「メタな事を言えば、この作品は全年齢向けなのでそこまで突っ込んだ事はやりません。読者皆様はご安心を」


 つい気になって聞いてみる。


「ハンナさん、何か言った?」

「ああ。ちょっと予定を確認する為の独り言なので、気になさらなくても結構です」

「ふーん。完璧なハンナさんもそういう事をするんだね」

「アラアラ。私とて『人間』ですもの」

読んで頂きありがとう御座います。


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