240 ボク達のひみつ基地
今節、この辺から下ネタ多め_(:3」z)_
朝食を済ませた後の選択肢は幾つかある。
エミリー先生の勉強の後で仕事の為に自室か、はたまた他の修業生に交じって勉強及び社交の為に修業場か。
そして護身術なんかを覚える為に鍛錬場に行くかだ。今日のスケジュールは、正にこれ。
朝食後、父上から特にありがたくない一言を貰ったのだから。
「アダマス。メシ食ったらバリツの訓練な」
母上とのお喋りも一区切りついた時だった。
父上は何度目かのコーヒーを飲みつつ、今思いついたかのように言う。
アセナも言っていた事だし、ぼんやりと「今日やるんだな」とは思ってはいたけれど早いなとは思ったさ。
さて。ボクん家の場合、鍛錬というのは昼の場合が多い。
朝の仕事で疲れた際の運動という意味合いが大きいからだ。
このスケジュールは貴族の分類によって逆転する場合もあるが、ウチは内政重視の文官気質という事だね。
当主が素手で改造人間をボコボコにする分、色々なところからツッコミは来そうだが文官気質で通すのである。
そんなこんなで、ボクはシャルを引き連れ鍛錬場に向かっていた。
尚、食堂から出て行くボク達を見送る父上は、コーヒー片手にニヤニヤしながら「昔、アセナに隠れながら修業場に出席していたアダマスみたいだな」と付け加えた。
一言多いわ。
食堂を出ると左に曲がるが、逆方向に曲がってしまったシャルが、慌てて自慢のツインドリルを振り回し、曲がれ左をしてボクの背中に付いてくる。
慌てた直後のその表情は、何か腑に落ちないようだった。
「お兄様。鍛錬場と言えばお外じゃろ。領主館の出入口は廊下を右に曲がった所じゃないのかや?」
「ああ、ソレは第一屋外鍛錬場だね。確かに有名なのはそっちかな。
でも、シンプルに鍛錬場と言ってもボクん家には幾つかの鍛錬場があるんだ」
「ほむほむ」
第一屋外鍛錬場。
そこは修業場の校庭に当たり、貴族にも平民にも最もよく使われ最も知られている。
庭園内の敷地を校庭のように広く使っており、砂地と芝生の両方の顔を持つ。尤もこの内、整備性から砂地が大部分を占めていた。
剣術や馬術と言った鍛錬の他にも、朝礼や屋外実験、近代スポーツなど多目的に使われる。
随分簡素だが、それこそ昔ながらの兵士の鍛錬場というものがこういう形をしているので致し方なし。
実際、貴族のルールを知らずに貴族になったばかりの成金達には「貴族の実感がある」と評判だ。どうもああいう人種は利便さよりも、古い本で読んだような貴族らしい行動を気にする傾向があるみたい。
そこに疑問を持つ見どころのある一握りの連中は、父上自らが声を掛けているらしいが。
他にも細々と鍛錬場がある訳だが、母屋となるこの館内にも特別な鍛錬場がある訳だ。
ボク等が向かっているのはソコ。
場所は食堂の扉を出て左へ真っすぐ。更に突っ切った向こう側。
中庭に続く大きめの扉を潜ると、いよいよ中庭に続く石畳の廊下。幾つも枝分かれした内のひとつを渡った先にある。
「中庭に鍛錬場があるのじゃ?」
「ああ。とはいえシャルが考えるような広いものじゃない。『建物』なのさ」
「ふ~む。筋力トレーニングや悪天候時の訓練なんかをする為に屋内鍛錬場を持つ貴族は確かに聞くがの。妾のお爺様の家とか。
実際に行った事は無いが、フランケンシュタイン子爵が委託された訓練道具を作っておった。ルームランナーとか」
「確かに武官貴族の必須品ではあるね。でも惜しい。外れだ。
これから向かう先ははちょっと特殊でね。所謂『ひみつ基地』とでも言おうか」
「ひみつ基地っ!?」
素敵ワードにシャルはムホッと鼻息を上げる。子供は秘密基地が好きだからなあ。ボクと一歳しか変わらないけど。
だから実はボクも好き。慣れているから、興奮が表に出るのを押さえられているだけだったりする。
「見えてきた。あそこさ」
「おお~、思ったより普通じゃの」
「ひみつ基地らしいだろ?」
「確かにっ……なのじゃ!」
大きさは中級階級の一軒家程度だろうか。全体的な見た目は伝統を意識した、ありきたりな室内鍛錬場である。
しかし、広大な中庭に建てられた建物に掲げられた看板には、こう書かれていた。
【武道館】
これの妙なところは、ありきたりで古いデザインの割に、施工された時期は新しい事だろう。
何故なら新しい技術。はたまた新しい戦術が出来上がる度に、対応出来るよう中身のリフォームを繰り返しているから。
リフォームしたばかりの武道館を解体し、新しい武道館を建て直すのもよくある事だ。
修業場のものとは別の発想だが、一つ作るのにお金が掛かる訓練器具もあれば領地特有の秘匿技術も関わるので致し方なし。
故に隠れて中庭に作る方が、都合が良いのだ。
また、このありきたりなデザインが秘匿性の高さを上げていた。まさか泥棒も何処にでもありそうな安っぽい木箱に宝物を詰め込んでいるとは思わないだろう。
外装にお金を掛けないで済むしね。
敷石を渡り、引き戸になっている扉の前に立つとシャルがキラキラした目で見ていたので開けさせてやる事にした。そういえば、ウチの館じゃ引き戸って珍しいもんなあ。
何度か開け閉めを繰り返して楽しんだところへ満足したのか、シャルと一緒に鍛錬場改め武道館へ入る。
◆
広い入り口の横には男用と女用の小さな入り口があった。更衣室だ。更に奥に行けばそれぞれシャワー室もある。
シャルがクイクイとボクの服を引いて一緒に入るアピール。はいはい、流石に駄目ですからね。
ボク達は別々の更衣室で道着に着替える事になった。
と、いう訳で事件はあっさりと起こる。お約束をしっかり守ってくれるシャルを一人にした事で、何も起こらない筈がなかったのである。
「ふええ~ん。お兄様ぁ~!」
更衣室の引き戸がガラリと勢いよく開けられて、下着姿のシャルが、ベソをかいて男子更衣室に突撃してきたのだった!
「うおっ、なんぞ!?とりあえず、鼻拭いて。ほら、ち~ん」
「ち~ん。ふぇぇ~」
ハンカチを取り、鼻を拭いても中々泣き止んでくれない。
出ては拭きを何度も繰り返し、数分経ってやっと話を聞く事に成功する。
「うぐっ、うぐっ。どこに何があるか全然分からないのじゃ……」
「あ~、なるほど」
此処、様々な目的の為に結構引き出しが多いからなあ。風呂場の様に籠に服を入れてさあ出発とはいかない場所なのだ。今日の訓練じゃ使わない引き出しばかりだし。
「分かった。じゃあ、ボクが一緒に行くから覚えようね」
「うん……。宜しくお願いしますのじゃ」
目を拭うシャルと一緒に女子更衣室に入り着替えさせる事になったのだった。
う~ん。ボク達兄妹の他に誰が居る訳でもないけれど、気まずいな。
実際のところ武道館を使えるような身分の人は限られるのと、ボク自身が次期領主なのもあって、ボクが女子更衣室に入る事に問題はなかったりする。貴族社会だしね。
とはいえ『女子更衣室』という看板が掲げられている部屋へ入る事に、何か思う事がない訳でもない。プールで覗き行為をするスケベ小僧にでもなった気分だよ。
これがラブコメてやつですか!?
読んで頂きありがとう御座います。
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