23 食べ物の素材とかについての雑学
カメリアマスのモデルは琵琶湖のビワマスです
2021/07/14 カメリアマスの名称変更
2021/10/14 カメリアマスの名称変更(二回目)
ボクの妹はよく分からないままに、しかしキャッキャと楽しそうに双眼鏡で遊んでいた。
彼女が今見ているのは、ラッキーダストを囲む山で最も人が暮らすに適している『アイウ山』である。隣の二つはそれぞれ『カキク山』と『サシス山』。
これらは総称して『イロハニホヘト山脈』と呼ばれていた。名前の由来は不明である。
「さて。シャルが見ているあの山は集落が沢山あってね」
「ほお、そうなのかや。でも見えないのじゃよ?」
一生懸命に集落を探そうと、目に力を入れるのは微笑ましかった。
まあ笑っておくのが無難というものだろう。
「あっはっは。まあ、それは倍率と精度がオモチャみたいなものだしね。取り敢えず『そうなのか』程度に覚えてくれれば良いよ」
「はーい。なのじゃ」
「で、そこに住む人達は色々なお仕事をしている訳だけど、その中にあの河の管理ってお仕事を此方で割り振っているんだ」
「管理……?河なんて管理する必要があるのかや?」
シャルは何時までも同じ風景に飽きてきたのか、双眼鏡から目を離す。
そしてキョトンとした顔でボクを見た。
水資源って領主業に重要な筈なんだけど、教育すべき乳母や教師からの印象なんかも良くなかったのかなぁ。
ボクは思い切って聞いてみた。
「もしかして、シャルの実家の使用人ってお爺さんのミュール辺境伯から派遣されてきた人たちばかりだったりする?」
「おお、よく分ったの!」
やっぱ性格上と利益の関係上、フランケンシュタイン家は使用人をほぼ全てをミュール辺境伯から雇った者で構成していたのだろうね。
鉄道や人造人間などの研究成果を知りたい、軍閥貴族のミュール辺境伯は敢えて安く使用人を派遣するだろうし。
それに研究と『妻』さえよければどうだっていいフランケンシュタイン子爵は政治そのものには無頓着な方だろう。
でも正直、ミュール一族としての戸籍を金で買ったフランケンシュタイン家に対して、辺境伯本人は兎も角、派遣されてきた使用人からの印象は良い筈ないよなぁ。
余談であるが、ちょっとおさらい。
ボクの家の場合は臣従している家臣……主にハンナさんが当主をするアンタレス家を中心に身の回りの使用人を大量に雇っていたりする。
そしてこれが下級使用人になると更に複雑だ。
ボクの家くらいの上級貴族にもなると外部の貴族の子弟や令嬢が七から十五までの八年間、使用人として修業に来る風習が出来ていて、ボクの家自体が学校のようなものになっている。
また、それとは別に家臣に率いられる下級使用人は平民から雇われるパターンもある。
そういう都合もあってハンナさんのような例外もあるが、上級貴族の使用人はプライドの高い人が多かったりする。
なので自分の主の孫を血も繋がっていない癖に名乗る、人間かどうか怪しいものの面倒なんて嫌だろう。
きっと正確に連絡する為、特別に忠誠心の高い、下手するとシャルよりもずっとミュール家と血の繋がりが強い使用人に囲まれて育ったのだと思われる。
「しかしまた、どうしてそんな事を思ったのじゃ?」
首を傾げてシャルが問うてくる。
本音はさっき思った事だが、ここで馬鹿正直に答えるのは寧ろデリカシーに欠けるというものか。
ボクはわざとらしく肩をすくめる。
「……ボクん家ってこんな環境だからさ。水に対しては特に重点的に習っていてね。
河の管理の事を知らないってイメージが湧きづらかったんだ。
けど、ミュール家なら納得かなぁって。あの人の派遣する教師は領地経営よりも兵法なんかを叩き込みそうだから」
って事にしておこう。
「あ……ああー!なるほどの!!
そ、そうなのじゃ!実は妾もなんでこんなの必要かなーって常々思っていたのじゃ」
ところが、直ぐに察したシャルは話を合わせてきた。
やっぱ下手糞な嘘はアッサリとバレるものだ。この優しい妹に感謝を覚える。
「まあ、そういう訳で河については今後シャルはラッキーダスト家の令嬢として習う訳だし、ちょっとお勉強といこうか。
話をアイウ山に住む人達に戻そう」
「はいっ。お兄様!」
ボクはパンフレットを指差す。
指し示す先はアイウ山の河があるであろう場所だ。指で河のように架空の線を引く。
「ボクん家は確かに観光で有名ではあるが、その下地になるのは湖や河とかから採れる食べ物とかだったりするね」
「『とか』が多いの」
「まあ、本格的に話すと長くなっちゃうからね。色々しょ~りゃく」
「ふむふむ」
ボクはもう片手で、大真珠湖を指差した。
今度は湖の形に沿って架空の円をグルリと描く。それを何度も繰り返す。
「と、そんな中食べ物の中に珍しいのが居てね。
こんな風に大真珠湖を旋回して生きるこの領土の名物。それが『カメリアマス』っていう、魚だ。これを食べにウチを訪れる人も珍しくない」
「ふ~む……あっ!
もしかしてそのカメリアマスは、一生を真水で過ごすのかや!?」
「正解!」
ボクは笑顔でシャルを褒めた。
サケとマスとの違いは海に出るか否かと言われている。だから大真珠湖とイロハニホヘト山脈を所有するウチの領地でしか食べられない。
それに気づくのは、やはりシャルだな。
クルリと大真珠湖からアイウ山の河へ昇る様子を指でなぞる。
「そう。そしてマスっていうのは普通小さいものが多いんだけど、カメリアマスはサケのように大きい。体長50-60cm程だ。
そんなサイズのマス達が、産卵の為に産まれた山に帰って来るのは大迫力だね」
「ほほ~それは凄いのう。一回見てみたいのじゃ」
シャルはそれを想像して無邪気に目をキラキラ輝かせていた。
「ただ、それを狙う人間も沢山居る。『こんなに居るんだから一匹くらい良いだろ』って思うような小悪党だね。
それをさせない事も河の管理の、大切な仕事だったりするんだ」
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