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22 何を食べるかで悩む

「うう~む、どうしたものかの……」


 少し古ぼけたメニューを開き、シャルは随分唸っていた。そこには様々なパスタの名前が書かれている。

 カルボナーラやペペロンチーノなどありきたりなものから、近年の流行に合わせて開発されたのかナポリタンなんてものまで。


 パンフレットに書かれた美味しいものに惹かれてきたというのに、いざメニューを目の前にすると目移りしてしまってしまったらしい。

 まああるよね、こういうこと。だから助け舟を出す事にした。


「シャ~ル~。悩んでいるようだね」

「ひゃ、ひゃい!すみませんなのじゃ!」


 テンパる彼女へボクは出来るだけ優しく微笑み、パンフレットを手に取った。

 それにはこの店へのグルメマップが描かれている。テーブルへ広げた。


「謝らなくても大丈夫さ。

さて、そういえば此処を選んだ理由なんだけどね、この地図を見た時にピンときたんだ」

「そういえば屋台との二択だったの。味はお店の方が美味しいのは分かるが、場所とはこれ如何に」

「そうだねえ。さっきまでボクらが居た大真珠湖が、こっちだろ?」


 ボクは懐から万年筆を取り出し、キャップの先端で地図をなぞった。

 途端、カウンター席の椅子が「ガタン」と揺れる。なんだろうと視線を向ければ、見た事のある人がいた。

 あれは確か警備隊の人だったか。


「ん、何してるの?」

「ああ。すみませんね若様、昼飯の時間が被ってしまいまして」

「ふーん。でもボクは若様じゃないからその呼び方は辞めて欲しいんだけどなー。

ほら、ちゃんと服装だって何処から見ても平民だろう?」

「平民?うーん、平民かぁ……。まあ、ギリ居なくもないかな。

それより、その万年筆。紋章付いてますが良いんで?」


 彼はそう言ってボクの万年筆をフォークで差した。

 そういえば身体の一部のような物だから違和感なく持っていたけど、これって領主一族の身分を証明するものか。どうしよう。


 不安そうな顔を浮かべると彼は溜息の後にフォークで安パスタを巻いて、思い切り口に運んだ。喰いっぷりが良いね。

 咀嚼して呑み込んで、そして言葉を彼は発する。


「まあ小さい物ですし大丈夫だとは思いますがね。出来ればしまって頂き、普通に指でなぞるのをお勧めします。癖を直すのは大変でしょうがね」

「了解、ありがとね。態々貴重な食事時間を潰しちゃって」

「いえいえ。どちらにせよこの店で後で落ち合う予定の上司に報告する事があるので」


 言ってる事は本当らしい。警備隊も色々大変なんだなあと思った。

 それにしても今日は高級住宅街の時といい警備隊にやたら会うな。今思うと広場の警備員もきもち多かった気がする。

 何かあったのだろうか。


 まあ、そこは探りを入れるようなところでもないか。かわいい妹の方が優先度高いし。

 ボクは言われた通りに万年筆は元の場所へ戻し、指でなぞる事にした。


「……と、話を切っちゃってゴメンね」

「大丈夫なのじゃ!」

「よしよし」


 元気の良い彼女を、無表情でそうかと褒めて話を進める。実は内心、少しデレッとした感があるんだけどちょっとお兄ちゃん真面目モードだから形を崩さない。

 ボクは予定通りに湖の反対側に半円を描く動作で店を囲った。


「このラッキーダスト領は領の半分を山に囲まれた盆地な訳だけど、この方面にその囲んでいる山がある訳だね」

「あれ、お兄様。この方面って……」

「そう。丁度窓から見えるあの山脈になる訳だ」


 窓に目を向ける。そこには大きく三つの山が並んでいた。

 あの山も我が領土の貴重な資源で、木材・鉱石・薬品などの素材などが採れる他、まれに古代のオーパーツも発掘される。

 また、生息する動物は此処が観光地になる前から食肉などに地元の味として愛されている。

 そんな動物の中に、珍しいものがいる。


 ボクはそこら辺の三流錬気術士が露店で売っているようなオモチャの双眼鏡を手に取っていた。

 本当は自室から持ってきた高性能単眼鏡を使うつもりだったんだけど、それでは万年筆どころじゃないので控えたのだ。

 因みになんでこんな物が今ボクの手元にあるのかといえば、ハンナさんが出発時に「役に立ちそうな物」と言って渡してくれた袋の中に、まるでこうなる事が分かっていたかのように入っていたのである。

 出来るメイドは凄いなあ。思いながら目当てのものを探し出して双眼鏡をポンとテンポよくシャルに渡した。


「これでちょっと山を見て見みなよ」

「はぁ……。どの山の、何処を見れば良いのじゃ?」


 その質問を受けて、ふと魔術で赤いポインタをレンズに作り、指し示そうとも思った。

 が、辞める。


 具体的な方法としては血をレンズに垂らして、それを単眼鏡に仕込まれた視覚共有の錬気術と並行して操るというものなのだが、態々大掛かり過ぎないかと思ったからだ。

 それなら口で言った方が良いし、止血が面倒だしね。


「一番左の山の真ん中くらいに河があるよね。玩具の双眼鏡程度じゃパスタ麺みたいに細く見えるやつ」

「んんっ、確かにあるの。緑に囲まれて少し見づらいが、確かにある」


 良かった。ちゃんと見えるらしい。

読んで頂きありがとう御座います

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