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2 好みのタイプ。だが義妹だ。

 幾ら美少女とはいえ、見ず知らずの人物だ。

 そんな人物が突然に妹だとは、流石に父上の急展開にも慣れているボクにだって言葉も出ない。


 だが、口惜しくも人とは前に進まねばいけない生き物である。

 なので分からないなりに、尚且つスマートに話を進めよう。大丈夫、ボクなら出来るさ。

 初めての人で心臓めっちゃバクバクいってるけど、きっと大丈夫さ。


「妹……そうなんだ妹ね……。

取り敢えず名前が分からないのもアレだから、教えてくれるかな?」

「は、はひっ!?にゃまえでひゅかや」

「そうそう、君の名前。はい、ゆっくりで良いから落ち着いて~」


 美少女は、突然声をかけられた為かビクリと肩を震わせた。

 少し涙目な女の子も趣味嗜好的な意味で嫌いな訳でない。

 が、可哀そうなのはまた別なので深呼吸でひっひふ~と横隔膜を落ち着けさせる。


 ツッコミは不在。


 落ち着いた後の彼女は、慌ててスカートを摘まみ白く細い足首を覗かせた。

 別にお色気要素ではない。


 貴族の伝統的な作法のカーテシーと呼ばれる礼である。

 見たところ気は小さいが教育は行き通っているらしい。ボクはそこら辺の猫の子を拾ってきましたと言うわけでもないことに少し安心した。

 コミュニケーションが大分楽になるからね。


 安心していると、彼女の静鈴のような声が部屋に行き渡った。


「シャルロットと申します。

誉れあるラッキーダスト家の末端に加えて頂く事を、受け入れて頂ければ光栄の至りで御座います」


 貴族社会の儀礼的な物だが、これ以上は当主の父上の許可が必要だ。

 なので父上に視線を向けた。頷かれたのでそのまま続ける。


 後はボクの身分証明となるもの……ペンがあるしこれでいいか。

 彼女の肩に置いて、語りかける。


「アダマス・フォン・ラッキーダスト。

ラッキーダストの名において、シャルロットを新たな家族として受け入れよう」


 どうせ全ての手続きは父上が済ませているだろうから、しなくても同じではある。

 が、礼儀の問題でやらなければいけない。なんとも面倒なものだ。


 空間を一旦の沈黙が支配していた。そしてボクは沈黙を破った。

 できるだけ兄妹らしく気楽に話しかけたのだ。


「じゃあ楽にして良いよ」

「……あっ、はいっ!」


 ドギマギしているせいで余計に力が入っている気がするが良いだろう。

 ボクは視線を再び父上へ戻す。


猶子(ゆうし)……ですね……」

「ふっふっふ。

もしかしたら隠し子で、本当の妹かも知れんぞ」


 呆れた表情のボクは、ため息と同時に万年筆を左手の平で叩いていた。

 パンパンと話題を変える際に手を叩くときのように。


 因みに猶子とは養子のようなものであるが、養子と違って相続権の無いのが特徴である。


「はいはい、そんな訳ないですから」

「くはー、まあ正解さ。もう少し遊べると思ったのだが、そうでも無かったな」


 陰謀渦巻く貴族社会。

 確かに隠し子なんて、侯爵程の身分ともなれば文字通り外交カードの切り札などに当たり前のように出てくるのが常である。


 だが父上は、貴族社会と母上との繋がりを天秤に掛けた場合ならば、真っ先に母上との繋がりを取る、所謂『愛妻家』というものだ。

 それをボクは十二年の付き合いで知っていた。もしかしたら親子だからなのかも知れないけどね。


 残念なキャラクターをしている父上だが、尊敬出来る部分も探せばあるものである。


「それで、彼女はどういった経緯の猶子なのでしょう」

「なんだ。気になるのか」

「ええ、まあ。今後の領地経営に関わりますし」


 父上が揶揄(からか)う為だけに彼女を用意した訳でも無いとは思うのは、今までのやり取りで明らかだ。

 だとしたら目的は何だろう。


 貴族が猶子を迎え入れる理由は主に三つ。

 貴族間の繋がりを強くする為か、他貴族へ対しての人質及び牽制か。

 そしてもう一つは、子供自身が貴族の目の届く範囲に置かなければいけない、特殊な何かを持っている場合かであるか。


 クルクルと頭のネジを回していると父上が口を開いてきた。


「なにか色々難しく考えているそうだな。お前らしくて結構だ。

だが、実は目的らしい目的などないっ!」

「……はぁっ!?」


 いやいや、それはやっちゃダメだろ。侯爵令嬢だぞ!?

 そりゃ猫みたいな顔付きの美少女ではあるけど、猫の子という訳でもない。

 その勢いで、ついつい「返してきなさい」と言ってしまいそうになる。


 しかし父上の言は更に続く。


「まあ、敢えて言うなら頼まれたからだね。

俺と母さんが学園で出会い、そのまま恋愛婚したのは知っているだろう?」

「ええ、まあ」


 ラッキーダスト領の隣には『学園都市』と呼ばれる、教育へ力を入れている貴族領がある。正式名はクロームル侯爵領・領都クロームル。

 そこで16歳に頃に最新技術の『錬気術』を学びに行ったのが二人の出会いだったそうな。


 母上はそこの領主の娘で成績優秀であると同時、息子のボクから見ても整った顔をした、才色兼備の女性である。

 ならば、この破天荒男の父上からアタックしたのではと一般常識では考えるが、なんと母上からのアプローチだというのだから驚きだ。


 世の中は一般常識で説明できない事が溢れているのである。


「俺の同期に面白いヤツが居てなあ。ソイツの娘を引き取ったんだ」

「父上に面白いと言わせる人とか相当ですね」

「うっせーバカ息子」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんですよバーカバーカおたんこなーす」


 まったく、こんな当たり前のことも分からないとは。

 世の中には残念な人も多いものだ。

読んで頂きありがとう御座います


シャルロット(ドレス版&普段着版)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 言葉のやり取りが面白いです。思わず笑顔になれるほどです。 ツッコミ不在とか上の方ではありますけど、実際あるとツッコミも秀逸で。テンポもよく。 表情が浮かぶようで、とても読み易いです。 あと…
[一言] バーカバーカおたんこなーすとなうっせーバカ息子とか、これ以上ないほどに親近感を覚えましたw つい先日私もそう言った表現を作品に使いましたので……、あれはお下品だったなあ。 父親が12歳の子…
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