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173 崩れゆく栄華

「ククッ、ククク……馬鹿め。何時迄も『只の人間』が魔王の力に怯え続けるモノとでも思っていたか!

英雄たり得る者が居なければ屈するものと本当に思っておったか!此方とて戦う準備くらいしておったわぁっ!」


 『ボク』が眺める画面には、デップリと太り白髭を蓄えた老人が居た。内なる記憶だろうか、『ボク』は彼を一瞬で『件の宰相』だと認識する。

 あれ?でも、おかしいぞ。だとしたら唯一無二の親友であるアンタレスや、ずっと開拓時代の『ボク』を支えてくれた『賢者の石』にはなんでピンと来なかったんだ。

 まるで、誰かに夢の内容を案内されている様な気がしてきたのである。


 そんな考えもつかの間。

 宰相の隣で玉座に座る若い男は、不安そうな顔つきで彼を見る。顔つきはこれといった特徴のない、敢えて言うなら童顔といったところ。故に頭の派手な王冠が似合っていなかった。

 この時代の国王なのだろう。

 彼はおどおどとした様子で宰相に話しかける。


「なあ、勇者の言っている事は本当なのか」

「滅相もございません。私は先祖代々陛下の忠実なる(しもべ)……あらぬ誤解で御座います。あのような逆賊の言葉に耳を貸す必要など無いのです」


 わざとらしく言う宰相に王は頷いた。まるで自分自身を納得させるかのように。


「う、うむ。そうだな。宰相(爺や)のやってきた事は間違っていない筈だ。

だが、本当に国宝の『光の剣』を議会も通さず……ましてや何の警告もなしに使ってよかったのか?

あれは、城に固定してでしか使えない代わりに巨大なドラゴンとて灰も残さない威力を持つ、我が国秘蔵にして最強のオーパーツだと思ったのだが」


 その問いに対して宰相は真面目な顔を作ると再び頷く。

 この真面目な顔はあながち完全な『嘘』という訳でもないので、あらゆる許可を取っ払ってでも使う程度には『ボク』を危険なものと認識していたのだろう。

 それで実際に使えるのが独裁政治の強みだ。


 光の粒子を集める傾いた尖塔を見る見張り台の兵士は「なんだアレは」と戸惑って、円卓に収まる程度の現代よりずっと少ない議会は報告を受けて「まさか実在していたのか」等とかなり焦っていた様子だった。


「牽制など相手に攻撃の理由と準備時間を与えるようなものです。

それならば最大の攻撃で一気に消し去るのが宜しい。なんと言っても相手は腐っても、魔王と湖賊を討伐したあの『勇者』なのですからな」


 『光の剣』を城の窓から見下ろす宰相は王に聞こえないよう呟く。


「圧倒的に魔王軍に戦力で劣る我が軍にとって『これ』は良い抑止力になったと思っておるよ。だがな……」


 なるほど。

 魔王と賢者の石の件で直接やり取りをしていた宰相は、自分だけが知っていた訳だ。

 王国が『光の剣』を所持している事実を、魔王が知っている事を。

 この分だと単に宰相から魔王に教えただけかも知れないけどね。


「オーパーツはただの飾りではいけない。強力な兵器なのだ。兵器は使わなければいかん。

高い金を掛けて遺跡から発掘し、尖塔の一部に見えるよう修繕したのは使うためなのだ」


 その本音は、皮肉にも敵である『ボク』にしか届いていなかった。

 あらゆる物を灰燼に帰す死の光は、光速の名に恥じずUFOに向かい回避できない速度で放たれて……。


「バリア展開」


 ニコニコと微笑みながら『賢者の石』の一言で、それはUFOの装甲に届く前に、一瞬で、まるで紙屑のように散っていった。

 その様子に目をこれでもかと見開くのは宰相。そして『ボク』だ。


 簡単に最も警戒していた敵の秘密兵器がこうもあっさりと弾けたものだから、現在の演説も忘れてつい彼女の方を見てしまう。

 視線で察した彼女は余裕のある、まるで旅客船の案内嬢を思わせる仕草で答えてみせた。


「魔王様の作戦の都合上、相手に魔王軍の実力を誤解させておくには良い隠れ蓑でしたが、あのような旧世代……しかもジャンク品のビーム砲では我が神殿のバリアは貫けないのでご安心を。

まあ、特に音声認識でもないのでバリアは勝手に展開されるのですが、やはり使うからには言ってみたいものです」


 何処かノリノリで、悔しくも可愛げのあるその仕草に呆れれば良いのか笑えば良いのか。

 取り敢えず椅子にもたれ掛かって苦笑いを浮かべると、手を前。しかし、少し下へ差し出した。立体映像で見れば、丁度『光の剣』へ向けられる。


 立体映像の巨大な『ボク』は言う。


「ふむ。たった今、私に対する返事を受け取った。

それでは礼を……え~っと、湖賊に使ったアレ、何て言ったっけ?」

「『指令誘導式重力波弾コマンドガイダンスグラビティミサイル』ですわ。略して『重力弾』。

発射時は指パッチンと同時にどうぞ」


 昨日の食事の内容でも聞くかのような軽い雰囲気だった。

 このやり取りも放送で周りには聞こえているというのに気にする様子はない。

 まるで、そんな事が後からどうでも良くなる程の事が起こるのを知っているかのようである。


「ああ、そうソレだわ。じゃあ重力弾。発射~。ところで、指パッチンの意味は?」

「ウフフ、実は私がマザーコンピューターになっていて全てを管理しているので単なる演出ですわ」

「あ、そうなん?まあいいや。パチーンってね」


 指パッチンと同時、円盤の一部が窓のように開き、中から一抱え程の大きさの銃弾のような物が飛び出てきた。これが『ミサイル』と呼ばれる兵器なのだろう。

 その窓は横に幾つも存在し、それぞれがミサイルを勢いよく放つ。合計で十発ほどだろうか。それらが『光の剣』と名付けられたビーム砲に向かっていく。


 しかし蒸気も火薬も見られない。推進力は何処にあるのだろう。重力と名前に付いているから、重力のベクトルを操作しているのかも知れないなあ。

 SF作品によくある『反重力』というべき現象だろうか。


 ミサイル達は砲台の周りに群がると、空中で高速回転を始めた。するとミサイルから、何やら空間をグリャリと曲げる線のようなエネルギー体が放たれ、ミサイル同士を点とする事で作られる立体が出来上がる。

 名前から察するに、あの立体の中は重力で溢れているのだろう。と、いう事はだ。


「な、ななっ……!」


 宰相は驚きの声を上げていた。

 『光の剣』が、滅茶苦茶な重力の方向に引っ張られ、まるで紙屑の様にクシャクシャに形を変えてしまっているのだから。

 そうしてあっという間に出来上がったのは、湖賊の船と同じ様に、まるで何かの怪物に引き千切られたかのような『光の剣』だった。

読んで頂きありがとう御座います。


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