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172 ブルーウォーター

 そこに住む人間にとっては突然の出来事だった。

 王都の空に白磁色の巨大な『何か』が、まるで海を渡る鯨のように漂ってきたのだ。


 一旦は雲の変わり種かと思われた。

 だがしかし、どうも太陽光に当たった時の質感や風に対しての進行方向があまりにも自由自在に動き、雲にしてはおかしいではないかという結論が出る。

 ならば新手の魔物だろうか。だとしたら取り敢えず様子見だろう。

 魔王が討伐されてから魔物の被害はめっきり減ったせいかそういった消極的な意見が王城内の会議では纏りつつある。


 その一方で、ある意味『魔物』である件の巨大な『何か』の内部。

 空中に四角い板の様なものが投影され、その中では王城内の一連の流れが、まるで映画のように映されていた。

 それを目の前で眺めているのは『ボク』だ。隣の席には『賢者の石』が座っている。


 隣の彼女はボクに言う。


「王城に送り込んだ虫型偵察機から送られてくる動画です。蚊型は勿論、蜘蛛の幼体型や羽虫型などかなり小さい物なので見つけられる心配は無いと思われます。

如何でしたか?」


 それに対して頬杖を付く『ボク』は、退屈そうに答えた。


「……アホらし」

「あらあら、お気に召しませんでしたか」

「いや。技術は凄えよ。確かにこれは宰相の奴も欲しがるだろうし、俺なんかが使って良い物なのかすら思えてくる神秘性がある。

でもな……いや、だからこそか」


 『ボク』は頬杖に使っていた拳をテーブルに叩き付けた。


「こんな、ロクに危機管理能力もない連中に、こんな凄え兵器も持ち出すのが余りにもアホらしくってなぁ」

「ああ、そう云う……。しかしご主人様、今から貴方の成す事は、寧ろこれくらいなければ不可能であるのも確かです。油断せず気を引き締めていきましょう」


 ポンと肩を叩かれた。

 途端、『ボク』の中で何か心の中でスイッチが入った気がする。

 『賢者の石』の細くて白い手首を固く握り、強く頷いた。


「ああ、そうだったな。全く、お前は最高の女だよ」

「そう思うなら名前くらい欲しいものですがね。何時までも『賢者の石』や、取り敢えずで与えられた苗字の『アンタレス』では愛着が湧きませんよ?」

「ん、それもそうか。じゃあ、これが終わったらな……。それじゃあいくか!」


 目の前の画面には、丁度見張り台から見た『何か』……つまり『ボク』が、今乗っている物の全体像が映っている。

 その形を一言で表すなら、『白い円盤』である。


 白磁製のスープ皿を逆さにして、その下に、太く短いネジのようなものが伸びていた。ネジなので先端には頭部と呼ぶべき半球状のパーツが付いていた。

 同じようなものが後三つ、末端から延びて広がっている。こうなる事で真下からは中心の半球の周りに三つの半球が接する構造を取っているのが分かると思う。


 そして逆さスープ皿の上には『ボク』が樹海の中で見つけた『神殿』が建てられているのが分かった。

 と、いうよりもはじめからあの神殿の下にはこの『円盤』が埋まっていたのだろう。そちらの方が夢の中で見てきた神殿内の充実した地下へ続く構造に納得がいく。

 そしてボクは、こんな白い円盤をフィクションの世界で知っている。


 これ、UFOじゃん!アダムスキー型の!


 シャルに本を読み聞かせをしたり皆で一緒に映画館に行ったりするのだが、その見た目は完全に、その内のSF作品に出て来る未確認飛行物体(UFO)だったのだ。

 海底都市なんだから展開的にせめて空飛ぶ潜水艦とか戦艦とかが鉄板じゃないのか。いや、確かに海底は宇宙と同じくらい謎に満ちているとは聞いたことがあるけどさあ。

 ならばいっそ銀色の全身タイツとやけに丸みのあるビームガンが欲しいと心中でウンウン唸りつつ思いつつ最高に頭の悪い展開を迎える(歴史)は進んでいく。


「じゃあ、先ずは宣戦布告か。なんか今まで一兵士だったからはじめてやるなぁ。見張り台に限らず、この王都全てに聞こえるよう頼むわ」

「畏まりました」


 『賢者の石』が手を振ると、空に『ボク』の巨大な立体映像が映し出された。

 敢えて王城を見下ろす形を取り、自分が考え付く偉そうな人間をイメージしながらワザとらしく咳を吐く。


「あ~、ゴホンゴホン。マイテスマイテス、あめんぼあかいな、あいうえお。

各位!私はアダム・フォン・ラッキーダスト男爵である。『先読みの勇者』と呼ばれていた男だ。

先ず、この度は不敬な事に日常を脅かした事を謝らせて頂く」


 特に感情の籠っていない謝罪をして、バッと手を大袈裟に前へ出した。

 いやいや、それはセンスが古くないか。まあ、昔の人と言えば昔の人だけど。


「だが知って欲しい。私が不敬な態度をするのは、それ以上に不敬な者が此処に居るからだという事を。それについて、先ずはこの魔王の遺産である円盤を手に入れた経緯を話さねばならない」


 そう言って魔王から聞いてきた事を『ボク』は、国王の権力を利用する宰相という構図を強調して話していく。

 ただし『賢者の石』の事は伏せてだ。

 あくまで『魔王の遺産』とだけ言っておいた。そこまで話す必要はないし、求めるものがUFOでも十分な理由になるからだ。

 家に閉じ籠っていた民間人達も、段々と窓から顔を出して話に聞き入っている。


 しかし、そんな話を邪魔する物がひとつ。

 なんと城の尖塔のひとつが大きく傾き、先端をUFOに向けたのだ。更に頂点が輝き出すと、光の槍とも呼べる強力な力を持った帯を放出して襲い掛かってくる。

 『ボク』の耳には『賢者の石』の小さな声が聞こえていた。


「前方に大型のビーム砲を確認……」

読んで頂きありがとう御座います。


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