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136 厄介事には触れないのが吉(触れる事はないとは言ってない)

「と、いう訳で改めて自己紹介を致しましょう。

僕の名は【ウィリアム・フォン・ローラン】子爵。しがない宮廷貴族です」

「ああ、これはどうもご丁寧に。ボクは次期当主アダマス・フォン・ラッキーダストで御座います」


 これで互いに挨拶をした訳だけど、やっぱりどちらが『上』かの判断が難しい。

 確かにラッキーダスト侯爵家の方が遥かに格上であるが、当主である彼に対してボクはあくまで次期当主であるし、彼の王都での発言力も不明であれば、どういった目的での『お客様』なのかも不明だ。

 取り敢えず彼から喋り出す事を咎めない方が良いだろう。ボクが後から喋った事を後になって突かれる事があるなら、それはあくまでお客様の立場を崩さないでおいたとでも言っておけば良し。


 このまま当たり障りのない態度で接させて貰うが吉。と、いう訳で無難な話題を放る。


「しかし、来たかったというのは、やはり観光という意味でしょうか?」

「あはは。確かに一通り観光させて頂きましたが、それも良い。

つい貴族街に別荘を買ってしまいそうになってしまいましたね。お金なら沢山ありますし」


 またウィリアム氏はケラケラと笑うが、今度の形は苦笑い。

 お金はあるが使えない程忙しいのは幸福なのか不幸なのか。取り敢えず今の彼の表情を見る限り、ほんの冗談で浮かべる苦笑いと重なった。

 なので物凄く不幸という訳でもないらしい。


「ほう、それでは何故?」


 するとウィリアム氏は腕を広げた。

 両腕を使い、胸いっぱいの夢か何かを抱き締めるかのように。


「なぁに。空気も良く、人を育てる環境も整っている。

貴方達を見る限り、部下の教育にちょうどいいと思いましてね。議会もこのような場所にあって欲しいものです」


 お世辞として受け取っておこう。実際に彼が此処に来れる機会は少ない訳だからね。

 そう思って一息付くと、シャルがボクの服をギュッと握っているのに気付く。

 おっとっと、構ってあげられなくてごめんよ。手の甲を撫で、同時に彼女の顔を見た。その視線は前。さらに言えば上に向かっている事に気付いた。

 それは、ウィリアム氏の隣。護衛の軍人であるシオンに向かっている。


 うわぁ……。めっちゃシャルの事見てるよ。

 もう何か思春期が気になる子に対するかのように、その黒曜石のような深い黒の瞳で穴が開く程に見ていたのだ。効果音をつけるなら「じ~」って感じで。

 ほら、ちょっとシャル引いてるじゃん。確かに初期のボクもそんな感じだった気がするけどさ。あの時ほど自分の容姿に助けられた事はない。


 その申し訳なさも含め、身分的に少しキツいものがあるものの、ビシッと言っておく必要があると決意した。

 ボクは精神的に一歩前へ踏み込んで、肺に空気を入れる。

 しかし、その瞬間だ。また別の方向からフォローがやってきた。

 もう、なんだよさっきから。嬉しくない訳じゃないけど、折角人が妹の為に覚悟を決めた感動的な場面だというのに。

 今度はシオンの隣。つまり、ウィリアム氏である。


 彼は大袈裟に大きな声で、隣に注意を呼び掛けた。


「ああ~っ!気持ちはよく分かるけど、そりゃちょっと見過ぎだって。シオン!」

「……ん。申し訳ありません」


 ウィリアム氏よりもシャルに謝り、シオンは一歩下がる。

 そのスペースを補うようにウィリアム氏が入るとボクに深々と頭を下げた。


「申し訳ありません!こいつ、ちょっと生まれが特殊でして。

自分と『似た者』であるシャルロット嬢に前々から会いたいと思っていたのですよ」

「……はい、大丈夫です」

「はい、有難うございますっ!」


 気持ちのいい笑顔だった。

 対してボクの方はなんか常識的に対処されている分、意気込んだ気持ちが霧散するも、留まってチクチクするような感触に苛まれる。

 シャルが不安に感じている中、ボクがしっかりしなきゃいけないのにな。


 下唇がムズムズしてきて、いっそ摘まんで引き延ばしてしまいたい気持ちを浮かべていると、今度は上から肩を叩かれる。

 今度は誰だ。

 一瞬思うが、それが出来るのはひとりしか居ない事にハッと気付いた。


「エミリー先生……」


 彼女は軽く一回、ボクに向かって微笑むとウィリアム氏に向き合った。

 以前のボクなら自身を情けないとばかり思っていただろう。しかし、気持ちを察した彼女がプレッシャーを肩代わりしてくれて、それ以上に感謝の念を覚えたのだった。


「おや、貴女は?」

「私はエミリー・フォン・メリクリウス女準男爵。

ラッキーダスト家の家庭教師ですが、以前はそこのシャルロット嬢のご実家のフランケンシュタイン家に助手として勤めさせて頂いておりました」


 エミリー先生が手を差しのべると、納得したように手は握り返された。

 ウィリアム氏からすれば横から入ってきた見ず知らずの女だろう。しかし、どうやら話に参加する資格ありと判断されたらしい。


「私はシャルロット嬢のお母様に関係ある研究を一年半ほど手伝わせて頂いておりましてね。

なので、そこのシオン氏に非常に興味があるのですが、やはり、人造人間(ホムンクルス)と見させて頂いて宜しいでしょうか」

「ええ。実はシオンは彼の妻にしてシャルロット嬢の母である【ガラテア・フォン・フランケンシュタイン】を造る前に造られた、試作型人造人間なのです」


 ウィリアム氏は苦笑いして答える。

 此処だけでもボクには彼が色々と矛盾になる事を言ってると分かる。

 例えば、シャルの母親の世代の人造人間だったら構造の関係で短命な筈なのに今生きているのはおかしいだろうとか、フランケンシュタイン卿が学園都市を卒業した年齢と照らし合わせてシオンを幼馴染と呼ぶのはおかしいとか、そんなところだ。


 が、言うと厄介な事になりそうだと思うし、ボク的には多少気になりはするも特に重要な事でもないので、今はこの口を閉じる事にした。

読んで頂きありがとう御座います。


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