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13 一人遊びに慣れて自虐する妹をフォローしよう

 魔力が抜けたペーストは只の青臭い草に戻り、シャルは少し残念そうにしながら近くの噴水池で洗い流した。

 受け取ったハンカチで拭ってしまえば何も残らない。


 その時には彼女のテンションの熱は収まっていた。

 そこには、憂鬱そうな微笑みが残る。


 綺麗になった腕を後ろに組んで、ボクに横顔を見せながらゆっくりと周りを見回していた。

 そして彼女は溜息に似た吐息を落とす。噴水が背景にある分、余計に哀愁を感じるね。


 ボクは神様じゃないから、シャルが具体的に何を考えているかは解らない。

 でも、何かを聞いて欲しいという事はよく分かったよ。だから聞く準備を心で整える。

 折角これから遊びに行くんだから、悩みごとは少ない方が良いよね。


「ふむ。此処の庭園は随分切り揃えられているんじゃのう」

「シャルん家は違ったのかい?」


 悩みごとはきっと家の事情なんだね。ボクはそれを決して声に出さないけど。

 小さく彼女は頷いた。


「妾の家……と、いうか父上が筋金入りの錬金術師でのう。

中庭に限らず客人をもてなす筈の庭園ですら、恥や外聞を気にする事なく素材として実用的な薬草ばかり植えての。

そのせいで何時もボウボウとしておったし、薬草の臭いがきつかったものじゃ」


 皮肉気に苦笑いをしながら懐かしそうに少し上を見るシャルは、当時の薬草の背の高さを思い出すようにしている。

 そうして彼女は再びミカガミ草の群生地に視線を向ける。


 ネガティブな感情を刺激させない声色で、ボクは応えた。

 こういった声色作りは人心掌握術で習っていたから結構得意だ。

 尤も、今と仕事では本心で相手を想っているか否かの違いはあるけどね。


「だからこんな風に綺麗なものを見つける知識が身に付いたのかな」

「ああ、その通りじゃ。外に出るのが禁じられて遊び場が自分の部屋と庭くらいじゃったからのう。

酷い薬草の中から面白い物、綺麗なものを探すことばかりしておった」

「ふーん、じゃあさ……」


 ボクは噴水近くのベンチに腰掛けて、キザったらしくポーズを取った。

 脚を組んで腕を後ろに回した、個人的にかなり痛いポーズであるが、いっそこれくらいが丁度良い。


 やって許されるならやってみるのも一興だ。

 なんなら歯を出して笑ってやろうか。はいっ、キラーン。


「ボクはシャルの目から見て、合格かな?」

「はいっ?」


 シャルは口をOの字にして目を点にする。上がる声色はまるでギャル。

 なんなら髪をかき上げてみようか。はいっ、ふぁさぁっ~!

 顔は顎を反らせる感じで。


「ええと……お兄様、突然どうしてしまったのじゃ?」

「ふふふ。ボクは面白いかな、綺麗かな?」


 ボクは更にミカガミ草を一本取り出し、薔薇の如く口に咥えた。

 すると目の前でジイと見るばかりだったボクの妹は、両手を合わせてただクスクスと笑う。


「……アハハ、やだあ。お兄様はそんな事考えていたのかや?」

「いやあ、かわいい妹からの評判はお兄ちゃんにとっちゃ一大事だよ?

ていうか花を咥えながら喋っているボク凄くね。褒めるがいい」


 小技の腹話術を披露して、それに気づいた更にシャルは笑ってくれた。

 彼女はベンチのボクの隣へ、お尻から勢いよく座ると手を伸ばす。

 小さな手の平がボクの頬を撫でた。


「そんなの選べないに決まっているじゃろう。妾のお兄様は面白いし、格好いいのじゃ」


 流石に格好つかないので、咥えていた草を取って渡す。

 ボクは未熟で率直な笑顔で応えた。


「それなら外で何も見つからなくても、きっと大丈夫だろうね」


 シャルは大人しく、困ったようにニシシと歯を見せた。

 何処か泥臭い雰囲気が来ている服に似合う。これならとても良家のお嬢様には見えないだろう。


「ああ、そうじゃな。今はお兄様が居るんじゃもん。きっと大丈夫じゃ」


 ボクとしては、彼女はきっと独りぼっちだったのだろうと思ってる。

 庭で遊ぶ時に貴族の子供はメイドなどの付き人が遊び相手として付く筈なのだが、彼女にはまるで、その様子がない。

 いつも一人遊びの話ばかりだ。


 勿論それだけで決めつけるのはいけないが、着付けの時に呟いた、あの冷たく憎しみの籠った声は決して忘れられないものだった。

 本来着付けをする筈の役割……メイドに何かあったのだろう。

 そして錬金術に没頭している彼女の父親は、そんな事を気にしなかったのかも知れない。


 まあ、これ以上の深入りは辞めておこう。シャルが笑ってくれればそれで良いや。

 少なくとも、今は。


 そんな事を考えているとミカガミ草を持ったハンナさんがシャルへ話しかける。

 そういやボクが口に咥えたやつを渡したんだったっけ。


「お嬢様。こちら、加工して押し花の栞にしておきましょうか」

「うおっ!ハ、ハンナ……居たのかや!?」

「あらあら、居ましたよ。ペーストを拭く時のハンカチ渡す時とか」


 そう言ってハンナさんはハンカチを揺らめかせた。

 ラッキーダスト家の刺繍が入ったそれを見つめながら、シャルは感動を覚えている。


「自然過ぎて気付かんかったぞ。ハンナはメイドなのに凄いな、有難うの」

「いえいえ、どういたしまして」

読んで頂きありがとう御座います

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