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122 ダビングで曖昧になる伝説の勇者の伝説

祝!ユニーク10000再生!

有難うございますっ!d(*・ω・*)b♪

「うふふ。こないだのルパの町での答えでは不足でしたか?」

「……うん。こないだは流したけど、これはボク自身にも関わるから」


 ハンナさんは普段は微笑んでいるように細くしている目を、意味深に少しだけ開く。夢の中で見たのと同じ、若葉色の瞳がはっきりする。

 確かに、ルパ族の宴会でこの手の事は出尽くしたと思ったけど、こういう事なら話は別だ。それに、隠す理由もないしね。


 一昔前のボクなら、築いてきたものが壊れる事を恐れ、何も言わずにいたかも知れない。

 でも、最近は妹という守るものが出来たせいか。それとも、多くの人と繋がる事で視野が広がったせいか。

 モヤモヤをそのままにしない思想が出来るようになってきた。


 深刻な顔でハンナさんを見るボクを、シャルは心配そうな表情で覗き込んでいた。


「え、ええと……お兄様……妾、置いてけぼりなのじゃが、ちょっと説明欲しいのじゃ。行間を読むにも限度があるぞ」

「そうだった……ごめん、ハンナさん。ちょっと良いかな」

「はいはーい」


 張りつめていた空気が弾けた。

 そうだね。仲間外れは良くない。取り敢えず仕切り直しとばかりに手をハンナさんへ伸ばすと、察しの良い彼女は箪笥からべっ甲製のヘアブラシを取り出した。


 領都ラッキーダストから北に行くと、オリオンという港町がある。

 そこで網漁をしていると、たまに珍しいウミガメが獲れるらしく、このブラシはその甲羅から削り出した特別製である。


 ブラシの柄を軽く握ったボクは、頭を撫でるように少し跳ねた髪を()かした。

 気持ちよさそうに彼女の筋肉が弛緩していくのが感じられる。朝露の様にプルプルした唇が軽く動いているのが見えた。

 こういう体験が出来るのは寝起きの特権だよなあ。


「ああ~、そこそこ。そこなのじゃ」


 こういうのはリラックスさせて聞きたい事を自然と出させた方が良い。

 そういった訳で彼女の声変わりもしていない声帯は、しかし自然に言葉を紡ぎ出した。


「それでお兄様、結局どういう夢で、どこにハンナが関わってくるのかの」

「ああ。実はボクの生きて来た十二年。今まで見てきた夢を繋ぎ合わせると、誰の人生を見て来たかはっきりしてくる。馬鹿らしい話だけどね」

「ほむほむ。もったいぶるの。それで、誰なのじゃ」


 ボクは頭の中で、馬鹿らしいと思いつつも、それしか考えられないと至った解を応える。


「聞いて驚くなかれ。

【アダム・フォン・ラッキーダスト】さ!」

「おおっ!」


 シャルは眼を見開く。想像以上のビッグネームだ。そういう反応もおかしくない。

 しかし、直後に彼女は再びコテンと首を傾げた。


「……で、それって誰なのじゃ?」

「ええと、知らない?あの、アダム・フォン・ラッキーダストだよ?」

「す、すまんのじゃ。名前からしてラッキーダスト家ゆかりの者とは分かるのじゃが……」


 本気で申し訳なさそうにするシャル。気まずい雰囲気が部屋を支配する。

 あるよね、有名だと思って自信満々に言ったらそれほどメジャーでもなくて大爆死するって。

 そんな気分になったボクは、髪を梳かす事も忘れて顔を覆う。うっわ、凄い恥ずかしいんですけど!


「よく分からないけどよしよし、なのじゃ」


 シャルは分からないなりに励まそうと、ボクの頭を撫でてくれた。

 うん、有難う。元気出た。顔を覆ってた手の平を、ポンと彼女の頭に置いて、ハンナさんから子守り歌代わりに教わってきた事を話す。


「アダム・フォン・ラッキーダストは、ラッキーダスト家初代当主だね。

『先読みの勇者』って通称もあるよ」


 勇者は様々な理由があって王国史になくてはならない存在になっている。だから知らない筈は無いと思ったんだけどなあ。

 しかし彼女は通称を聞いた途端、嬉しそうに眼を見開いた。ボクをビシリと指差して、愉快で早口な解説を走らせる。


「おおっ!それだったらよく英雄譚とか読んだから分かるのじゃ!

かつて世界が剣と魔術だった時代、魔王なる者が魔王軍を率いて世界征服を企んだ。

しかし王国の勇者は持ち前の先読みスキルを限界まで振り絞り、魔王を討伐。侵略を阻止したらしいの。

その後、『この後の時代に剣と奴隷はいらない』と唱えた事でこの国に奴隷が無くなったとか。

理由は物語によって様々じゃが、王様が感動して法律に奴隷禁止を組み込んだ所は共通しとるの。

そういえば本によって名前が違うから、統一して欲しいと思ったもんじゃが、アダムが正しい名前だったんだのう」


 しかし、これでボクも納得した。

 勇者の物語は吟遊詩人や英雄譚なんかで国中に物語そのものは広まっているとはよく聞いていたけど、こんな事情があったのか。情報があやふやな時代だし、仕方ないといえば仕方ないのかも知れない。

 シャルが言っていた物語も、ハンナさんの話と比べて齟齬がある。

 ボクは内心への相槌の意味を込めて軽く二回ほど頷いた。


 テンションが加速するように上がっていくシャルは、ワクワクした様子で顔を近付ける。


「しかし前は、ラッキーダスト家は水兵の家系って言ってなかったかや?」

「ああ。それは魔王を倒して新たに開拓した領地が大真珠湖になる訳なんだけど、そこには当時、湖賊が沢山居てね。要は海賊の湖バージョンみたいなものなんだけどさ。

領地を治める名分として水兵の称号を貰った訳だ」

「へ~」


 面白そうに聞いてくれた。シャルは話を素直に聞いてくれて、大変癒される。

 彼女は少し考えると何かを思い出す。


「そういえば勇者様は通称の通りに先が見える、相手が何をするか分かっているかの様な戦い方をするとあったが、もしかしてお兄様の『読心術』って、ソレなのかの」

「う~ん。どうだろうね。

読心術って医学書に載る程有名で、つまりはボクだけが使える技術って訳でもないし。仮にそうだったとしても、夢の中の勇者様ほどボクは上手く使えないんだ」

「あうぅ。ロマンが薄れるのじゃ」


 まあ、ボクが同世代より比較的覚えが早かったりするのはこれの恩威が大きかったりはするけどね。

 複雑な感情を胸にしまって、今日の人魚の夢をシャルに話す。

 彼女はハンナさんへ視線を向けた。


「成る程。それならハンナがお兄様の夢の内容を予見出来るのはおかしいの。

さあ、何を隠しておる。吐けっ!吐くのじゃっ!」


 本題に入れるのは良いとして、なんか楽しそうだね。

 やっぱ物語好きだからだろうか。若いなあ。

読んで頂きありがとう御座います。


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