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12 噴水を中心とした庭園

 ボクん()の庭は広い。正確には庭園だがとても広い。

 どれだけ広いかと言えば、そこらの町程度ならスッポリ収まってしまうくらいだ。

 自然公園に近いだろう。


 『庭園』には細い通路が幾つもある訳で、朝の散歩なんかにも丁度いい。

 そうした道は館の扉から塀の外門まで一本に伸びた幅広の背骨のような主通路に繋がっていく。

 馬車などの乗り物に乗ったままでも客人をもてなせるよう、かなりの広さだった。


 主通路を小さな二つの人影が駆けている。

 お揃いの雰囲気の服に着替え終わったボクとシャルである。


 時間は昼前といったところで陽は高く、お互いに姿がよく見えた。


 シャルはボクと恋人繋ぎして、元気いっぱいに走るのだ。

 というかボクが引っ張られている。彼女の何処からそんな力が湧いてくるかは謎なものだ。これが若さか。


「お兄様、こっちじゃ、こっち!」

「こっちって言っても一方向じゃないか」

「そうとも言うの」


 彼女はそう言って、革のシューズの踵でキュッとブレーキをかける。噴水の近くで走るのを辞めた。


 此処はいわゆる風景風庭園なので、噴水を中心とした水路が主に通路を挟む形で張り巡らされる。

 その通路の両側には多様な植物が植えられているのだ。

 余ったスペースには芝生とか樹木なんかも植えられているけどね。


 シャルは何かを探すようにキョロキョロ辺りを見回しはじめた。


「何か気になるものでもあるのかい?」

「うむ。行きの馬車からチラリと見えた気がしての。あの時は緊張で何が何だか分からなかったが、今思い出すと確かにあった気がするのじゃ」

「確かに最初のシャルのテンパりっぷりは凄かったねえ」

「そう、それじゃ!あれ結構頑張ってたんじゃよ!?」

「よしよし偉い偉い」


 頭を撫でてやる。

 噴水の水飛沫が少し指先にかかっていて、髪が少し濡れたので控えめにしておいた。


「テンパっていたなら見間違えとかの可能性はないのかな」

「いや、それは間違いなくないのじゃ」

「そりゃまた、なんで」

「それはじゃな……あ!あったのじゃ!」


 シャルは言い切る前に走り出す。

 恋人繋ぎは解いておいたが、それ故に駆ける速度は先程よりも速く、つい早歩きで追いかけてしまった。


 追いかけた先にて、彼女は目当ての植物を見る為にしゃがんでいた。

 そこに群生していた植物は、膝より少し低いくらいの茎に、笹型で手の平ほどの大きさをした葉と小指の爪程の大きさの花が付いている。

 しかも驚いたことに、花は半透明だ。遠目に見たら素通りしてしまうだろう。


「こんなのあったっけ。というかシャル、よく馬車からコレを見つけたね」

「ウヘヘ、妾の視力は天下一品じゃからの」

「……そうなんだ」

「ああっ、お兄様が妾のネタをスルーするのじゃ!確信犯じゃろ、絶対確信犯じゃろ!」

「まあね。そんな視力は無いのは分かってはいるけど、無理に手品のタネを聞き出すのも悪いかなって」

「やっぱ確信犯じゃった!」


 コロコロ変わるかわいい顔も見れたしこの辺で良いだろう。

 シャルが何を見ていたのかを聞いてみた。彼女は幾つか千切って答える。


「よくぞ聞いてくれたのじゃ!

この植物は『ミカガミ草』。ツユクサ科で、野生のものは温帯~暖温帯の川岸の日陰に生息し、錬金術の素材として様々な事に使われるのじゃ!」

「ほうほう」

「そして花弁は朝に七色をした花を咲かせるが、昼になると透明になり萎んでしまうのじゃ!」

「ふむふむ」


 彼女のテンションは元から高いけど、更に上がり、そしてなんか早口になった。

 内容はまるで辞書からそのまま取ってきたような無駄知識であるが。


「そしてこの植物には更に秘密があるのじゃ。のうのう、知りたいかや?」


 此方としてはぶっちゃけどうでも良い。

 しかし、楽しそうなボクの妹を見ると付き合ってやろうという気がするのも確かだ。

 弄ってみたいのも確かだが、それは先程やったので素直に遊んでやる事にした。


「うん。教えて欲しいな」

「クックック、よかろう」


 すると彼女は持っていた草を花弁ごと潰して擦り合わせながら、大きく息を吸う。

 手の中の草がペースト状になると両手を風船状に少し膨らませて、小さく穴を作り、息を吹き入れた。

 そして更に擦り合わせて、ニマニマしながらボクの目の前で両手の平を開いて見せた。


「ジャッジャジャーン!」

「おお~」


 そこにあったのはボクの顔だった。

 正確にはすり潰したペーストが鏡と化して、ボクの顔を映している。


「驚いた?ねえねえ、驚いたかや?」

「ああ、驚いているよ」

「やったー!」


 両手を上げて喜ぶシャルの周りを噴水の水飛沫が照らす。

 そうしてシャルがどうやってミカガミ草の場所に検討を付けたか合点がいった。


「なるほどね。魔力か」

「うむ、その通りなのじゃ」


 魔力は、例えば錬気術にも応用できる様に水に溶け易い性質があるので、自然と水辺の辺りは魔力溜まりになり易く、魔術的現象を起こす生物が生息し易い。

 そして今回のトリックは、シャルは噴水の水飛沫という形で魔力を体内に取り込んで簡易的な錬金術を起こすことで先程の現象を起こしたのだろう。


「シャルは物知りなんだね」

「うへへ、凄いじゃろ!」


 取り敢えずシャルの頭を撫でておいた。褒めるのは大切だしね。

読んで頂きありがとう御座います

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