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105/566

105 存在感の薄い黒幕

 円盤型の速度計に表示される数値は時速45キロ。

 真鍮色の巨体が煙を吹かして草葉を履帯でならしながら走っていた。

 安全運転で揺れも安心。

 そんな内部にて、ボク達は最終決戦を控えている割に、物凄くダラけているという訳ではない。

 だけれど、緊張感も見当たらない。

 これから起こるのは、寧ろ先ほどのアルゴスのやらかしの後始末的な意味合いが強い残業的な仕事の要素が強いからだ。

 たまにある中ボスとの因縁が強すぎて、ラスボスそのものの存在は霞む的なアレである。


 ところで、ボクの膝の上にチョコンと座るシャルは頭を捻って考え事に耽っていた。


「むう~。ええと、あれがこ~なって、あ~なって……こんがらがるのじゃ」

「まあ、面倒な案件ではあったね。もう一回整理してみようか?」

「うむ!お願いするのじゃお兄様」


 軽く頭を撫でる。狭いので両手をばたつかせはしないが、はしゃいだ顔をしているのが硝子に反射して見えた。

 さてはて。

 ゆるりと自身の瞳を覗くと、別視点の物語を脳内に展開する。


「こういうのは全く目を付けていなかった一個人の視点に立ってみると、案外話が見えてくるものでね。アルゴスは思い出せるね」

「お、おうっ。あの悪い改造人間じゃなっ」

「……そうだね。

で、その悪い改造人間のアルゴスはアセナに領都まで追い詰められちゃったんだね。

エミリー先生から聞いた話だと、その時はまだ自前で身体パーツを持っていたそうだ」


 逃げた先はパノプテス商会。

 大胆にも、会長のケルマに変装して潜伏していたとの事。


「じゃあケルマは気付かずにずっとアルゴスと一緒に住んでいたのかや?」

「いや。気付いてたさ。

寧ろ、アルゴスが気付かれていないと勘違いしているだけだったのさ」

「おおっ!そういえばさっきエミリー先生が言ってたの!」


 これは聞いて、頭の中でカチリと鍵が嵌まった感じがした。

 だが勿論、違和感もある。ボクに商売を持ちかけた彼は嘘を付いていない。

 これはどういう事なのか。


 エミリー先生が調べていたアルゴスの行動を聞いて、納得できた。


「アルゴスはエミリー先生に武力……つまりウルゾンJの身体を求めた訳なんだが、これだけだとエミリー先生との取引にはならない。

ウルゾンJを作ったエミリー先生が真っ先に疑われちゃうし、平等なものを差し出した訳でもないからね」

「そこで、ケルマに取引を仕掛けたと?」

「そうそう。アルゴスは職業柄、恋愛感情には敏感だった。

ケルマがアセナに惚れているのも前々から見破っていたんだ。

そして取引を申し出る。『俺はウルゾンJでアセナを拉致してくるから、お前はミアズマから取り寄せた麻薬でアセナを操って妻にすれば良い。欲しいのは眼だけだから』ってさ」


 後ろの席でアセナが身震いしているのが感じられた。

 自分の知らない所でこんな話が進んでいるって知ったら怖いだろうなあ。あんな口調だけど、割と純情だし。


「で、麻薬で文字通り『操り人形』になったアセナを使って事実をでっち上げる訳だ。

『アタシは、本当はケルマと駆け落ちしたがっていたんだ。これは誘拐に見せかけた駆け落ちだったんだ』って。

後はエミリー先生が口裏を合わせれば良い。『実は私もそういう目的でアセナに頼まれてウルゾンJを作っていたんだ』ってね」

「ほへ~。キモい話じゃの。でも、アセナに正面から告白したのじゃよ。そしてぶん殴られたのじゃよ?」


 手の平を広げて己の頬を軽くペチンと叩く。ビンタの真似だろう。

 その通りだとボクも頷き、しかしと付け加える。


「この世には、殴っても分からない。納得できない馬鹿っていうのは確かに居るんだ」

「あんなに賢そうで、別に恋人にも困らなさそうな容姿なのに。変な話なのじゃ」

「……そうだね。本当に、変な話さ」


 そこが人の人たる所以であるが、此処まで感情の整理が出来ていないと、もはや猿の一種とも言える。

 とはいえ、だ。

 ボクは周りをぐるりと見た。綺麗どころがより取り見取りだ。

 一時の感情でこんな風にハーレムを作るボクも、差し詰め猿山の大将気取りで人の事を言えないんだろうなと、自虐した。


「で、話をアルゴスに戻すんだけど、この時はケルマに断られちゃうんだね。

『貴方の助けなんて借りない。私は私の力だけで欲しい物を手に入れてみせる』ってさ」

「じゃあ駄目なんじゃないかの」

「いいや、アルゴスの狙いは案を記憶の片隅に置かせる事だからそれで良かったんだ。

で、その後だ。アルゴスはアセナの手によってあっさり捕まってしまう訳だが、首だけになって逃げた。

そこはシャルが昨日、寝る前に見ているね」

「う、うう……仕方ないじゃろ」

「はいはい。動く生首が怖くてオネショした事は怒ってないから大丈夫だよ」


 耳まで真っ赤にするシャルのツインテールをピコピコ動かした。

 後ろから頬を突くと、非常にもち肌なのが心地よい。


「どうやって逃げたかは色々な思惑があったとは思うけどね」


 後ろのアセナを見ると何か言いたげな、しかし不満なままの表情を見せていた。

 恐らく、ケルマをはじめミアズマ関係を追いかける上で『言えない』約束を父上としているのだろう。

 もどかしいが、取り敢えず今は『生首がウチの館を脱出してウルゾンJに乗り込んで、エミリー先生のトラップに嵌まった』という事実があればそれで良し。


 事が解決してから父上に問い詰めてみようかね。事が解決する最中に解るに越したことはないけれど。


「と、まあ。アルゴスがどうしてウルゾンJのオーブンに入って、はしゃいでいたかはそんな理由だね」

「なんとなく分かったのじゃ。でも、アヤツは自分が絶縁された事を知らないようじゃったが、どうなっておるのじゃ?」

「それは簡単さ……」


 目の前、進む方向に広い河が見えた。

 エミリー先生は銀レバーを操作して、車体の底から蒸気を吹き出させる。

 そして水面を、ホバー移動で一気に駆けた。いや、この場合は勢いとホバーを利用して、石投げの様に水面を跳ねたと表現した方が正しいかも知れない。

 少し内部が揺れ、シャルが落ちないよう思わず抱きしめてしまった。


「おっとっと、シャルっ!大丈夫⁉」

「わ、妾は平気なのじゃ」

「ああ、良かったぁ。シャルに何かあったらどうしようかと……」


 そこで後ろや横から声がかかる。


「アタシ達の心配もして欲しいんだけどねえ」

「い、いやあ。アセナ達は大丈夫かなって安心感があったし……。ダメ?」

「ダ~メ。後でアタシに抱かれるが良い。勿論エミリーにもだ」

「それくらいならお安い御用だけどさ」


 思わず、再びぬいぐるみの様にシャルを抱いて呟く。

 そこでシャルは頬袋を作って、ボクに視線を合わせてきた。アーモンド形の眼が、何時もに増してやや鋭い。

 伏せ目がちになっている。


「……でっ!結局、アルゴスはなんでケルマから情報が入っていなかったのじゃ」

「ああ。ごめんごめん。

ケルマはね、はじめからアルゴスを利用して処分する気だったのさ。

逃亡中も特に支援せず、寧ろ外から情報を得るのを防いでいる側だった。

何故なら、アルゴスが反乱によってミアズマから追われる立場になった後、ミアズマが『生死問わず捕まえろ』と連絡した先がケルマだったのだから」

「え?じゃあケルマって……」

「うん。今じゃ立派なミアズマのスパイだね」


 と、いうわけでこれから、影の薄いラスボスのケルマの所へ殴り込みに行ってきます。巨大ロボで。

読んで頂きありがとう御座います。


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