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9.街へ遊びに

「色が統一されていて綺麗というか可愛いなぁ」


屋根は赤茶色で壁はクリーム色の建物が大小並びカフェや洋服屋さんらしきものが軒を連ねている様子にわくわくする。


「行きたい店などはありますか?」

「あり過ぎて迷います」


今日は、初めて街に来ていた。いわゆる異世界体験日である。チラリと隣を見上げれば、白シャツ姿でラフな格好のフェリスさん。イケメンオーラが凄い。ずっと眺めていられそう。


「まだお腹はすいてませんよね。ならば遠い場所から見ていきますか」


ハッ!これでは変態、いやストーカー予備群ではないか。


「はい!」


あまり聞いていなかったが、返事だけは元気にしておく。


「あと、本当に大丈夫ですか?」


大丈夫とは何だろう。あ、体調とか持ち物などかな。


「えっと、お金も少しだけどあるし靴も侍女のメイリーさんに聞いて疲れにくい靴を選びました。あとは、昨日は早めに眠れたので元気です」

「そうではなくて。いえ、睡眠をとれたのは良かったです」


違ったのかな?


「私の隣にいて不愉快な気持ちに」

「なりません」


最後まで聞かずに応えた。なかなか根深いのかな。嫌な思いをしてきたのかな。


「正直、私は、元の世界では地味目な人間です。運動神経もよくないし不器用だし。短所ばっかりで大人になった今もへこんでいます」


大人になったからって中身は変わりたくても変われないと痛感している。


「でも、こんな駄目な奴でも職場ではフォローしてくれる人もいるし、少ないけど友達と呼べる人もいます。一人でも繕わない自分の側にいてくれる人がいれば、それは、とても幸せだと思うんです」


彼氏とかじゃなくて、そういうのも通り越し歳も性別も立場も関係ない。近ず離れず、どうしても苦しくなった時に、いつの間にかいる人。


「フェリスさんは、一見近寄りがたいけど話せばとても話しやすいし居心地がいいです。友達になってもらえませんか?」


…あれ?


「あの、嫌だったら潔く引き下がります。フェリスさんからすれば異世界人だし、短所ばっかだし」


固まったままのフェリスさんの視界に入るように、勇気をだし、彼の前に移動してみたら。


「──すみません。あまりにも飾りのない裏のない言葉に驚いて」


私を見る目は、なんだか揺れていた。


「良かった。嫌われてないって事ですよね。なら、改めてよろしくお願いします」


右手を差し出せば、ためらうように大きな手が伸びてきて。何で寸前で停止しちゃうの?


「えいっ」


戻されそうな動きに逃さないぞと手を掴んだ、いや握ったんだけど。


私は、こういうのに慣れていなかった。


大きなゴツゴツした指、戸惑いながら握り返してくれた力は、加減をしてくれているはずだけど力強い。


怖いもの見たさで見上げれば、イケメンのちょっと微笑んだ笑みに息が止まりそうですよ。


「いやー、有名なスターと握手している気分だ」


私の言葉を理解していないはずなのに、彼はクスリと笑った。なんだか余裕そうですね。ムッとしてもしょうがないので先へ進む事にしました。


「では案内をお願いします」

「はい」


貴重な時間は有意義につかわないとね。私は、フェリスさんに興味がある雑貨を話し始めた。



*〜*〜*



「これは使用済みの魔石を加工した品々ですね」

「使用済みなんて見えないです」


何店かまわった後、露店で足を止めた私に合わせてフェリスさんも品物を眺めている。正直、魔石がよく分からない。なんか良い石なんだろう。並べてある装飾品は、どれも素敵なのでなんら問題ない。


「えっと、そろそろご飯食べたりしましょうか」

「見なくてよいのですか?」


気になっているのがバレている! しかし、お昼ご飯を考えると既に幾つか購入したのでお金の残りが不安なんです。


「はい。目が疲れてきたので休憩したいかなと」

「では、食事をしに行きましょうか。苦手な物はありますか?」

「だいたい大丈夫だとは思いますが食材の名前もまだ把握してないので…あまり辛いと苦手かなぁ」


未練たらたらだけど、フェリスさんとご飯の話をしながら、その場を後にした。




*〜*〜*



「疲れましたか?」

「大丈夫です」


無口になったであろう私の様子に正面に座ったフェリスさんが、心配そうに顔色を覗われている。


違うんです。体調は万全です。ただ、懐のお財布が悲鳴をあげております。昼食は、まさかの個室だったなんて。


「あの、食べる前からこんな事いうのは失礼なんですが、予算が…」


無理してないかと気遣われて流石になと恥だけど伝え顔色を伺う。


「なんだ、早く仰って下さればいいのに」


馬鹿にはされていないけど、でも笑っているその顔にちょっと膨れてよいでしょうか。


「そんな顔されなくても…すみません。体調がすぐれないのかと思っていたので」


私の、不満な視線を受けフェリスさんは、直ぐに謝りにかかった。素早いな。


「此処は知り合いの店なので。そもそも貴方に出させるつもりはありません」

「知り合いの方。いえ、でもワリカン、通じないか。半分出します。もし足りなかったら後日にでも」


帰る迄あと少しだけど治癒の仕事はまださせてもらう予定だし。


「いえ、誘ったのはそもそも私なので」

「それとこれとは」

「お待たせ致しました」


押し問答の決着がつかないまま食事が運ばれてきて、争いはなんとなく中断になった。


「美味しそう」


コースのようにスープから始まりと予想していた私は、順番なんてものはなく、料理が仕上がった順に運ばれてきているようだ。


「とりあえず冷めないうちに食べてしまいましょう」


その案に反対をする人はいないよね。


「そうですね。休戦します」


アッサリ過ぎですか? いえ、いいんです。食べ物は出来たてを頂きましょう! またフェリスさんが笑っているような気配がしたけれど無視して食べ始めた。




*〜*〜*


「はぁ。美味しかった」


私は、食べました。食べ過ぎて苦しい。


「口に合ってよかったです。ミヤビ様は、味だけでなく料理の見た目にも興味があるのですね」


眺めがよい場所に寄ってから帰りますかと提案され、食後の運動がてらお喋りしながらのお散歩である。


「癖といいますか、観察してしまいますね」


調理形態や盛り付けは気になる。職業病という病だ。


「私がいる所より形態が大きいなと感じます。野菜の色も此方の国のが濃いので盛り付けの時は、器が無地のほうが映えますね」

「食事の器ですか。あまり気にかけた事がないかもしれません」


まぁ、普通そうだよね。


「もう少しです。足元に気をつけて下さい」


彼が言うように補整されていた足場が徐々に申し訳程度になってきた。此方に来てだらけていたせいか、上り坂は息が上がる。


「おおっ、いい眺め」


急に開けた場所にでれば、街の屋根とその先には森、さらにずっと先には海が。まだ明るいからかよく見えて嬉しい。


建物が低いのもあるよね。視界がとても広がる。


「最近は来てませんでしたが、以前は頻繁に此処で眺めていました」


同じ景色を眺めている横顔は、とても穏やかにみえて。非現実的な光景に動揺した。


「仕事、向いてないんだろうな」


小さく呟いたはずだけど、私の目を見る彼の視線で聞こえてしまったかと気まずい反面ちょっとでも良い案があるかなと期待する自分もいた。



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