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14.再び出会えたならば

「フェリスさっ?!」


目の前がなんにも見えない。でも、この感じ覚えてる。あの時、強く抱きしめてくれた。


「まだ、私が来なければよかったと思ってますか?」

「そんなわけない」

「へへっ……よかった」


今度こそ腕を広い背中に回した。やっぱり私の腕の長さでは回りきらない。


「よく見せて」


暫く抱き合っていたけど、我に返り恥ずかしくなり離してもらったら今度はじっくりと観察されて顔が熱くなる。


「そ、そんな見ても面白くないですよ」


無理やり顔を横に向ければ、フェリスさんの作り出した幾つかの淡い光のシャボン玉が周囲にゆらりと浮いている。風は優しく上を見れば空は満天の星空で届きそうな気持ちになって手を伸ばした。


届くはずがない、ないもの強請り。


でも、短冊を見た時、線で消された下に「行くな」という文字を見つけて。


我慢できなくて書いた。


“私も側にいたい”



「ずっと忘れられなかった」


彼の言葉は私にとって、とても影響力がある。


「私も、わす」


私もと応える前に空を切る私の手が握られた。その手は彼の頬に着地する。彼は目を閉じたまま。


「フェリスさん?」

「温かい。本物なんだな」


再び開いた瞳は、私を見ている。

その視線を受けて急に弱気になってきた。


「私は、諦めなくていいんですかね?」


会うはずのなかった貴方に会った。

生きる世界が違う。

環境が違いすぎる。


「思い出にしなくていいのかな?」


二年ぶりなのに色褪せない。

片隅にずっといた人が目の前にいる。


「ミヤビ」


膜がかかって綺麗な緑の瞳が見えないな。


「側にいて欲しい。ずっと」


指先で拭ってくれても、ポロポロと止まらない。


「返事が欲しい」


額に柔らかいキスをされ、それは目尻に頬へと移る。


夢じゃないよね?


「ミヤビ……聞いてる?」


コツンとオデコがくっつけられた。私がずっとだんまりだからか不安そうな声に目を開けた。


「なんか現実味がなくて」

「夢じゃない」


焦るような口調にちょっと笑ってしまった。


「はい。私もフェリスさんの側にいたいです」


本当なんですよとわかって欲しくて額を彼に擦り寄せた。恥ずかしくて、これが限界だ。


「一生分の運を使い切った気持ちだ」

「え?」


離れちゃったと思ったら、その逆だった。頭の後ろを支えられ強く唇を塞がれた瞬間。


「ガウッ」

「うわっ」


目の前が銀色一色になった。


「バウッ」


倒れ込んだ私に頭をグイグイ押しつけてくるのは、リックスだ。撫ぜると懐かしい毛の感触。


「リックス! 離れろ!」

「フンッ」


横目で主人を見ながら鼻を鳴らすと、まるで見せつけるように更に身体を寄せられ尾を大きく振っている。思わず甘えてくれる様子にニヤついてしまう。


「リックスは、相変わらずカッコ可愛いなぁ」

「頭を打ってませんか? はぁ、ミヤビは騙されている。そいつは、そんないい奴ではない」


そうかな? 良いコンビだと思いますよ?


「ミヤビ。来て早々すまないが、婚約をして欲しい」

「えっ」


ニヤニヤしていたら、いきなり現実的な話をふられて慌てた。


「えっと、私は、あれから仕事量を減らしはしましたが、働いているので退職するなら引き継がしたいし」


ぎりぎりの人数で回している調理場に迷惑をかけたくない。あ、そもそも帰れるのかな? 前回可能だったし、大丈夫だよね。


「……ミヤビらしいというか。とりあえずミルフィー殿下に相談しましょう。ただし」


フェリスさんは、ため息をつき私の右手をとると、それは彼の唇に触れさせられた。


「婚約は譲れません。明日、書面に残します」

「えっ」

「良い返事が頂けるまで手を離しません」


ひたと見つめられる。


「もう、分かりました!」


惚れた弱み、すなわち私の負けだ。


「機嫌をなおして下さい」


無意識に膨らんでいたらしいほっぺたをつっつかれ、影が出来たなと思っていたら。


「ガウッ」


リックスが間に割り込んできた。


「お前は…屋敷に帰りなさい」

「フンッ」


なんか、この光景、懐かしい。


「アハハ」

「笑う場面ではないですよ」

「いえ、なんか、やっとほっとしました。リックス、後でまた撫でさせてもらえるかな?」

「ガウガウ」


よいともと言われた気がして嬉しい。


「あまりコイツを甘やかさないでくれ」


そんな事を言っているけど、私と繋いでない片方の彼の手は、リックスの背を撫でている。


「満天の空の下で夜のデートなんて贅沢だなぁ」

「ああ」


再び空を眺め呟けば、すぐに返ってくる声。


寂しくない。

一人じゃない。


私達は、夜の散歩を楽しんだ。






*〜*〜*




ミヤビ、瀕死の貴方が無事とは到底思えなくて。時間をつくっては殿下が最初に召喚した場に足を運んだ。


「まあ実を言うと帰った直後は、かなり危なかったみたいで。輸血、他の人から血をもらいました。記憶はないんですけどね。車内はびっくりだったろうなぁ。いきなり血まみれでいたら引きますよね」


へらりと笑う貴方。


もう、こんな思いは二度としたくない。

側にいるから。一人にしないから。


だから、貴方をください。


流れた年月が嘘のようで。抱きしめれば、その柔らかさと温かさに思わず震えた。


面倒といつも口癖のように言っている貴方は、とても真面目だ。できるだけ意に沿うようにしてあげたい。


「もう手放すことは不可能だ」

「ガウッ」

「お前は私の敵だな」

「フン」

「仲いいなぁ」

「「……」」


そんなわけ無いだろうと、今日初めてリックスと意見が一致した。


「私も守る。お前も頼む」


もう、この手を決して離さない。

リックスの尾が大きく揺れた。






                 〜END〜



最後まで読んで頂きありがとうございました!

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