11.魔法の代償は
「少し出てきます」
「いいけど、あまり時間はないからね」
「はい」
今日は、元の世界に帰る日だ。
「あっという間だったな。何だろう?」
城内の外れにある気に入っている場所に足を向ければ、葉に何か引っかかっている。
「短冊だ」
一つや二つだけじゃない。ちょっと違うけど飾りまで。
「これ、フェリスさんの」
会話や文字が読める私は、彼の名前を見つけてしまった。
‘‘貴方が無事に帰れるように‘‘
「裏にもある……あ」
線で消されているけど、読める字は。
「ミヤビちゃん! 討伐隊が負傷だって!」
部屋で準備をしているはずのミルフィー君が私の目の前に現れた。
「負傷?」
「詳細が通信切れちゃって不明なんだけど。少数だけど精鋭部隊だったはず。フェリスが指揮をしているんたけど」
確か治癒できる人は少ないって言っていた。
「今、ミルフィー君がいきなり現れたように、私もその場所に行く事は可能ですか?」
「出来なくはない。だけど、君が帰る時間に合わなくなるかもしれない。その後になると時がずれる可能性が出る」
「飛ばして下さい」
このまま帰っても気になってしまう。ミルフィー君はしょうがないなと笑った。
「じゃあ、これ付けて。通信できるから。以前に転移して来た場所に戻り、そこからフェリスの場所に飛ばす」
「はい」
渡された青い石と紫の石のついたペンダントを首にかけた。
「あんな堅物でも友なんでね。僕は勝手に出れないから頼むよ」
「はい」
相変わらず軽い口調だけど、心配しているのは充分伝わった。
*〜*〜*
「うぷっ」
ジェットコースターのような急降下した感覚で思わず座り込んだ。石じゃなくて、柔らかい草だ。
あと、生臭い匂い。
「あ、フェリスさん!」
大きな見たこともない恐竜のような生き物が横たわっている先に、何人かの人が倒れていた。
「これは」
近づくと皆怪我をしていて。立っている人はいない。
「何故、貴方が」
フェリスさんは、私を見て驚いた顔をしすぐに険しい顔になって。
「帰れ」
「え?」
「此処に貴方は必要ない」
今まで、こんな言い方をされた事はなかった。
私は、いらない?
倒れ込んでいる人達は、すぐに治療をしないと間に合わない人もいるかもしれない。
──なのになんで。
「元の場所に帰りなさい」
私の為? 拒絶されたわけでない?
「フェリス副団長!レインが!」
早くしないと。上手くできるかな。違う、やるしかない。
両手を合わせ、丸いシャボン玉をイメージする。あのフェリスさんか見せてくれた黄色の淡い光のように。
もっと、もっと。
きっと皆を治すためには足りない。
「治れ」
両手から溢れ出す光を彼らに飛ばす。眩しい光は負傷した彼らの頭上で弾け金の粉になり降り注がれた。
「成功かな…うっ」
一気に力が抜け膝をついた時、何かがせり上がる。
「ミヤビ!!」
両手を地面につき、抑えられなかったものを吐き出した。目を開ければ大量の血。
『魔力は無限ではないのです。必ず代償がありますので使い過ぎは死期を早めてしまいます。だから慎重に使用して下さいね』
テオドールさんが言っていたのは、これか。
「ゴホッ」
溢れてくるものは止まらない。
「ミヤビ!」
フェリスさんに抱き起こされた。
あれ、呼び捨てされている。
『ミヤビちゃん!生体反応が薄いけど無事?!』
ミルフィー君の声が頭に響く。大丈夫じゃないけど。
「ミルフィーさん、このまま……私を元の世界に返して下さい」