1.電車でいねむりをすれば
「えっと、此処どこ?」
満天の夜空広がる空に敷き詰められた石畳。確か電車で寝ていたはずなんだけど。
「ぎゃー! 生き物を喚んじゃったよ!しかも人じゃん!」
自分より頭一個、いやニ個くらい上に顔がある男はなにやら騒いだ後に地面にしゃがみこんで頭を抱えている。
「どうしようー! やっばいよ!」
話し方といい仕草といいかなり若いのか。変な人だったら、いや充分怪しいけど周囲に人はいないし、思い切って話しかけてみた。
「あの、大丈夫ですか?」
うわっ。
ガバッと上げた顔は、金髪碧眼の美青年だった。フードが外れてクルクルとした金髪か好き勝手にはねている。
すっごい。生で見た人の中でナンバースリーには確実に入る美しさ。
「君、喋れるの?!」
「えっ?」
ああ、会話は通じるけど。それより。
「肩、揺らさないでもらえます?」
意外にも強い力で両肩を掴まれ揺さぶられるので頭までもれなく揺れる。
「あ、ごめん!」
パッと急に手を放されたので危うくひっくり返えりそうになるのをなんとか両足で踏ん張った。
「いえ。で、私、電車で寝ていたんですが此処どこですか?」
そうそう。美青年は眼福だけど、まずこの状況が全く理解できない。
「君からすれば異世界かな?」
異世界とは。
「えっと、私、帰れます?」
なんかあるよね。本屋さんで並んてるやつに異世界なんとかとか題名が。
「帰れるよ! あ、でも」
よかった。ひとまず私は、帰れる!
ん?
「でも、何ですか?」
手をモジモジ交差させている仕草をやめなさい!
「えー、魔力溜まったらだから少しかかるかも」
何それ?
「あっ! でも大丈夫! 絶対帰れるし、その寝てた時に戻すから!ってヒッ!」
作り笑いを浮かべても綺麗な顔は特だなと、他人事のように観察していたら、彼は突然顔を強張らせた。視線は…後ろ?
「ミルフィー殿下。膨大な力を感じたが何をされました?」
美声ながらも人を威圧する低く強い声に、振り向きたくないが、ギギッと半分だけ後ろを見れば。
軍服姿の人が数名、此方を凝視していた。その姿といい本物っぽい腰にある重たそうな物。
「……嘘」
ここで、やっと緊急事態だと大原 雅は気づいたのだった。