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第83話 王都別邸

前回のあらすじ

 王都で乗合馬車に乗ったリックとノーマ。

 馬車内で貴族の子弟たちがウォーカー男爵家の王都別邸に集まっているという噂を聞く。

 馬車が停まる。

「行くわよ」

 ノーマは小声で(ささや)き、さっさと馬車を降りる

 俺も急いで背負子(しょいこ)を担ぎ、彼女に続く。

 目的の乗降場に着いたようだ。

 何となく見覚えがある場所だ。

 他に降車客はいないようで、俺が降りたのを確認すると御者は手綱を振る。

 馬が軽く声をあげる。乗合馬車は動き出し、次の乗降場を目指していく。

 俺とノーマの二人きりになる。

「ノーマ。ありがとう」

 俺は馬車の中での事に礼を言う。

 彼女が止めてくれなければ、大変な事になっていた。ちょっと変わった止め方ではあったが。

「何事も無くて良かったわね」

 当のノーマはそれだけ言うと歩き出す。

 素っ気ない。

 俺はノーマの隣に並び一緒に歩く。

 特に会話はない。

 屋敷でも同じである。

 必要なこと以外は話さない。

 だから彼女の好きな食べ物も好きな色も俺は知らない。

 チラッと彼女の顔を見る。

 真っ直ぐ通った綺麗な鼻筋が印象的な顔。

 大人びた顔。

 俺よりも年上だから大人びていて当たり前なのかもしれないが、彼女は20歳。

 年相応の肌艶をしているが、表情はそれ以上に大人びている気がする。

 元はスパイをしていたノーマ。

 雇い主の弱点をうっかり漏らしたり命惜しさに裏切ったり、へっぽこスパイのイメージが強いが、時折スパイの片鱗(へんりん)を見せる時もある。

 スパイという職業事態が普通の人と違う。苦労を重ねて来た筈である。

 俺と出会うまで、彼女はどんな人生を歩んできたのだろう。

「ぉわぁ」

 俺は珍妙な声をあげる。

 石に(つまづ)いたのだ。

 ズサー

 高校球児の如く勢いよくヘッドスライディングをしてしまう。

「前を見て歩かないからよ」

 呆れ気味にノーマが言う。

 チラッとのつもりが長い間、彼女を見ていたようだ。

「大丈夫?」

 ノーマが手を差し出す。

「ありがとう」

 態度は素っ気ないが、根はやさしい。

 俺はノーマの手を掴み、立ち上がった。


 ほどなくして俺達はウォーカー男爵家王都別邸の前に着く。

 門は閉ざされ誰もいない。

 普段であれば門番がいるのだが。

 試しに俺は門を押してみる。

 予想通り門は開かない。鍵が掛けられているようだ。

 俺達は塀の外から別邸の周囲を回ってみる。

 角地にあるので正面と側面の二面が道に面している。

 しかし、高い塀と木々に阻まれ中を伺う事は出来ない。

 なんか変だ。

 別邸の敷地から陰気な空気が放たれている気がする。

 前に来た時はこんな雰囲気ではなかったはずだ。

 謎の集会が行われているそうだから、何かは有ると覚悟していたが、()の当たりにすると困惑する。

「静かすぎるのよね」

「静か?」

 ノーマの言葉に俺は聞き返す。

「普通の家は何かしらの音が聞こえるわ。話し声とか歩く音とか。それに、ここにはティム様もいるはず。幼い子供がいるだけでも騒々しくなるはずなのに、ここからはその音すら聞こえない」

 言われてみればそうだ。

 ティム君は元気いっぱいの男の子だ。

 たくさん泣き、たくさん笑う。

 静かな時がないくらいだ。

 ポール兄さん達と王都へ旅立ってからしばらくの間、会っていないが、間もなく1歳になる。大人している年頃とは思えない。

 そのティム君の声すら聞こえていないのはおかしい。

「オリーヴ義姉さんと別の場所にいるのだろうか」

 俺は呟く。

 そもそもポール兄さんがパイル男爵を当主代行に命じた今回の一件だって、普通であればオリーヴ義姉さんが止めているはずだ。

 彼女は貴族の常識を(わきま)えているし、芯の強い人だから間違っている事は体を張ってでも抑えようとするだろう。

 それでも兄さんの愚行を抑える事が出来なければウォーカー男爵領へ何らかの連絡をしていると思う。

 だが、現実にはどちらもなされていない。

 その事に俺はずっと疑問に感じていた。

 考えられるとすれば、オリーヴ義姉さんとティム君、二人の身に何かあった…………

 悪い想像が俺の頭の中に浮かぶ。

「ピーターの(せがれ)ではないか」 

 そんな時だ。

 突然、背後から声を掛けられる。

 聞き覚えがある声だ。

 俺は振り向く。

「葬式以来だな。元気であったか」

 眼鏡(めがね)を掛けた中年男性。

 オリーヴ義姉さんの父親マイエット子爵がそこにいた。

「マイエット子爵………」

 王都に住んでいるのだから会ってもおかしくはない。

 ただ、格好が妙だ。

 (しわ)だらけのヨレヨレの服に(すす)汚れた帽子。

 みすぼらしい格好をしている。 

 パッと見、貴族とは思えない。

「リックさん。お久しぶりね」

 マイエット子爵に何と言えば良いのか分からず戸惑っていると、彼の近くにいる女性が声を掛けて来る。

 子爵同様みすぼらしい格好をしているが、センスの違いなのか、上手に着こなしている。 

「お久しぶりです。カミラ夫人」

 俺は挨拶する。

 そう。彼女はマイエット子爵の第三婦人にしてオリーヴ義姉さんの生母であるカミラさんだ。

 何故、夫婦(そろ)ってこんな所でこんな格好をしているのだろう。

 俺がその疑問を口に出すよりも先にカミラさんが話し出す。

「ねえ、貴方。こんな所で立ち話をするのも変だから、家でお茶を飲みませんか」

「うむ」

 カミラさんの提案にマイエット子爵は頷く。

 こうして、俺とノーマはマイエット子爵の屋敷へ寄らせてもらう事になったのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

また、先日誤字を報告して頂いた方、ありがとうございました。

作者も注意しているつもりですが、報告いただくまで全く気が付きませんでした。

助かりました。

これからもお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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