番外編13 ミーティング
前回のあらすじ
リックは兄ポールに会う為に王都へ旅立った。
エセルは窓の外を見ます。
山々の間から朝日が姿を覗かせています。
夜が明けました。
昨夜王都へ向かって旅立たれたリック様は、朝日の方角にいらっしゃるはずです。
旅は順調でしょうか。
できればリック様と一緒に行きたかったですが、エセルは大役を任されました。
信頼して頂けるリック様の為にも頑張らなければいけません。
エセルは神様に祈ります。
どうか全てが上手くいきますように。
ウォーカー男爵家の屋敷では、毎朝使用人達のミーティングが行われます。
執事長、メイド長、警備隊長などの幹部をはじめ、非番以外全ての使用人が集まります。
人数が多いので椅子は用意されておらず全員が立ったまま行われているのが特徴です。
ちなみに引退されたマーカスさんやリック様に直接雇われているシェリーさんやノーマさんは普段からミーティングに参加していません。
つまり、この場でリック様が王都へ旅立たれた事実を知っているのはエセルだけです。
「何か連絡事項はありますか」
進行役を務める執事長が皆を見渡します。
「はい」
おかっぱ頭のメイドが手を挙げます。
彼女はパイル男爵一行の接客担当をしています。
「パイル男爵ですが体調を崩されたようです。夜明け前から何回もトイレに駆け込まれています」
ミーティング会場は一瞬ざわつきますが、執事長が手で制しますと、すぐに収まります。
「医師を手配した方が良いですか」
「いいえ。その旨もお伺いしましたが、パイル男爵はいつもの事なので、その必要はないと仰られました。あまり関わって欲しくない様子でした」
「そうですか。しかしながらお客様に何かあったら大変です。パイル男爵の症状に細心の注意を払ってください」
「かしこまりました」
どうやらノーマさんが盛った下剤が効いたようです。
パイル男爵も下剤を盛られた事に気が付いていない様子ですし、これはリック様にとって朗報です。
「他にありませんか」
執事長が再び見渡します。
誰も手を挙げる様子は有りません。
ついにこの時が来てしまいました。
「はい」
意を決し、エセルは手を挙げます。
視線がエセルに集まります。
リック様の補佐役という役柄上、ミーティングで発言する機会は多いですが、今日はとても緊張します。
「リック様は一人で考え事をしたいので、誰にも会いたくないそうです」
エセルの発言で場はざわつきます。
「あのリック様が珍しいですわね」
メイド長が首を傾げています。
「大丈夫でしょうか」
シェフが心配しています。
「……」
警備隊長が黙ったままギロリと睨みます。
怖いです。
「堂々と振舞う事。何があってもおどおどしてはいけないよ」
事前にシェリーさんからそのようなアドバイスはもらいましたが、大勢の前で嘘を吐くのは大変なのですね。
現在実感中です。
「リック様に御用のある方は、必ずエセルを通すように言われています」
いつも通りの態度で言えたでしょうか。
エセルは震えそうな足を踏ん張るので精一杯です。
「ふむ。これは一大事。これからリック様と話をしてみましょう」
執事長が腕を組んで呟かれます。
誰とも会いたくないと言っているではないですか!
そう言いたくなりますが、緊張のあまり声が出ません。
これはまずいです。
どうしたらいいのでしょうか。
「ピーター様も若い頃は良くありましたよ」
穏やかながらも通る声。発言されたのは先代当主ピーター様の傍で仕えられてきた老執事ターナー様です。
「責任のある立場の御方は一人きりになりたい時があります。余計なお節介は無用です。そうですよね、エセルさん」
「はい。そうです」
エセルは即答します。
これは渡りに船です。
「パイル男爵の一件は一筋縄ではいかないでしょうからねぇ」
「余計な事は一切排除して考え込みたいのでしょう」
「お若いのに大変だ」
ターナー様の一言で雰囲気は一変します。
「その通りですね」
ちょっと前までリック様と話をするつもりでいた執事長までもが考えを改めています。
「それではリック様に御用がある方はメイドのエセルを通すように。他に議題が無ければ終わりますが宜しいですか」
手を挙げる者は誰もいません。
進行を務める執事長がミーティングを締めます。
全員がそれぞれの持ち場へ戻って行きます。
良かったです。
うまく切り抜ける事が出来ました。
これでリック様が不在であることを隠し通せそうです。
「若いのになかなか肝が据わっていますね」
ターナー様の声です。
いつの間にかエセルの隣に立たれています。
「こういう時は手足が震えたり声が上擦ったりするものですが………そのような動きが全く見られませんでしたね」
どうやら嘘を吐いているのがバレているようです。
心臓がドキドキします。
「若さが出ましたね。顔が強張っていますよ」
指摘されてハッとします。
失敗しました。
エセルは自分の愚かさを恨みます。
「気にしないで下さい。私は何も知りません」
ターナー様はフフッと軽く笑われます。
「私がピーター様に全てを捧げたのと同じように、エセルさん貴方が信じた方に全てを捧げられる事を願っていますよ」
そう言ってターナー様は立ち去られます。
エセルは心の中でターナー様に感謝します。
リック様がいない一日が始まりました。
読んで頂いてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




